TV報道を変えたのは「文春砲」?ニュースの現場が「借り物競争」になってしまったワケ | FRIDAYデジタル

TV報道を変えたのは「文春砲」?ニュースの現場が「借り物競争」になってしまったワケ

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’22年10月に放送された、長澤まさみ主演の月10ドラマ『エルピス』。テレビ報道の裏側を描き、大きな反響を呼んだ
’22年10月に放送された、長澤まさみ主演の月10ドラマ『エルピス』。テレビ報道の裏側を描き、大きな反響を呼んだ

大ヒットしたドラマ『エルピス—希望、あるいは災い—』(関西テレビ・フジテレビ系)では民放テレビ局の報道局も舞台となっていました。ニュースセンターや取材をする記者の姿を見て「カッコいいなあ」と思われた方も多かったのではないでしょうか。あのドラマは結構リアルにテレビニュースの現場を描いていました。

でも、実は本当の「ニュースセンター」の様子は少し違います。いま、テレビニュースづくりの現場はまるで「借り物競走」のようになっている、と言ったら驚かれるでしょうか。そして、「借り物競走」になったきっかけは「文春砲」だということをご存知でしょうか。

私は25年以上東京のテレビ局でニュースやワイドショーを作ってきたテレビマンです。本当のニュースの現場の様子をみなさんに紹介したいと思います。

各局はいま、インターネットの「検索部隊」に力を入れている

まず、「借り物競走」とはどういうことなのか説明しましょう。この間とある報道局の先輩と飲んだ時にこんな話になりました。「最近はニュースデスクはどんどん忙しくなってしまっていて、泊まり勤務だと寝る暇もない」……実はいま、テレビ局の報道は以前よりも非常に忙しくなっています。

かつてはテレビの報道は、「放送するニュース」だけを制作すれば良かったのですが、いまは「放送しないニュース」もたくさん制作しなければなりません。

インターネットのニュースサイトや、ABEMAなどの配信サービス向けのニュース。そして放送と言っても地上波だけでなくBSなどのニュースもすべて制作しています。ほぼ24時間365日切れ間なくニュースを出し続けているイメージです。

なのに、ニュース制作の予算はどんどん減り続けています。現場の肌感的にはリーマンショックが起きた15年くらい前から予算削減が続いているのです。そしてコロナの感染対策などで一層取材には行きにくくなってしまいました。ですから、低予算でたくさんニュースを制作するために、「借り物競走」になってしまっているのです。

いま、各局が力を入れているのは、取材記者を増やすことよりも、「インターネットで情報を探し、SNSの一般人が撮影した映像を借りる」部隊を増強することです。

火事や災害、事件事故の第一報は、SNSの「つぶやき」の方が速かったりすることも多いし、映像も決定的瞬間が撮れていることが多いので、ニュースセンターに「検索部隊」がいます。そして専用のソフトに「火事」とか「事件」とかいろいろなキーワードを入れて、インターネット上の映像や情報を探し続けているのです。

このようにして、ニュース番組やワイドショーは、「自分たちが取材したわけではないニュース」を借りてきて放送しています。新聞や雑誌、ネットニュースなどが報道した内容を、「〇〇新聞によると」などという形でニュースとして流すのが今では当たり前です。

実は昔はこんなことは絶対許されませんでした。ニュース番組は「裏を取る」といって、他のメディアが報道した内容でも自分たちが取材でその内容を確認しない限り報道しないのが「報道機関として当然」と私たちは教わってきたのです。しかし、気がつけば今では「〇〇新聞によると」や「週刊〇〇によると」といった形の「借り物ニュース」がニュース番組でもガンガン流れるようになってしまいました。

大きなきっかけとなった「文春砲」

VTRやスタジオのボードには、一般の人が撮った「視聴者提供映像」やSNSの映像、新聞社が撮影した写真や、「アフロ」などのフォトサービスから買ってきた「それっぽいイメージ写真」、さらには「いらすとや」の無料で使えるイラストなどまで、「借り物の画像や映像」があふれてしまっています。

もう今ではテレビニュースは「借り物ニュース」と言っても良いような悲しい状況なのです。そして、こういう「借り物競争でニュースを作るのが当たり前」になったきっかけは、「文春砲」が話題になった頃に、あまりにも週刊文春のスクープが多いので、素材を文春から借りてニュースを放送することが当たり前になったことだったと、私は思います。

それまで週刊誌から映像や録音テープを借りたり、記事の誌面を撮影して放送する許可を得るのはなかなか難しいことでした。しかし、週刊文春は積極的に有料で素材を貸してくれました。文春にしてみれば宣伝にもなるし、収益にもなるわけですから、一挙両得の賢いやり方だったのだと思います。

さあ、リアルなテレビニュースの制作現場が「借り物競走」になってしまっていることと、そのきっかけが「文春砲」だったこと、お分かりいただけたでしょうか?

こうしたニュースやワイドショーの制作現場の舞台裏や、バラエティ、ドラマ、アナウンサーなどなどテレビ局全般の実態については、『腐ったテレビに誰がした? 「中の人」による検証と考察』(光文社・2月22日発売)にさらに詳しく書きました。興味のある方はぜひご覧ください。

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  • 鎮目博道/テレビプロデューサー・ライター

    92年テレビ朝日入社。社会部記者として阪神大震災やオウム真理教関連の取材を手がけた後、スーパーJチャンネル、スーパーモーニング、報道ステーションなどのディレクターを経てプロデューサーに。中国・朝鮮半島取材やアメリカ同時多発テロなどを始め海外取材を多く手がける。また、ABEMAのサービス立ち上げに参画。「AbemaPrime」、「Wの悲喜劇」などの番組を企画・プロデュース。2019年8月に独立し、放送番組のみならず、多メディアで活動。江戸川大学非常勤講師。MXテレビ映像学院講師。公共コミュニケーション学会会員として地域メディアについて学び、顔ハメパネルをライフワークとして研究、記事を執筆している。著書に『アクセス、登録が劇的に増える!「動画制作」プロの仕掛け52』(日本実業出版社)。『腐ったテレビに誰がした? 「中の人」による検証と考察』(光文社)が2月22日発売。

  • 写真近藤裕介

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