<figure id="attachment_296729" aria-describedby="caption-attachment-296729" style="width: 3883px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="6eac5d60"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/02/IMG_3887-2.jpeg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-296729" class="wp-caption-text">夫の暴力から逃げ場を失い繁華街で売春に走る女性も多い（写真はイメージで一部加工しています）</figcaption></figure>
警察庁は、2022年の犯罪情勢統計（暫定値）で、配偶者によるＤＶ（家庭内暴力）相談件数が、８万4493件になったと公表した。昨年まで18年連続で増加していたが、それをさらに上回ることになる。
ここ数年、日本のＤＶ相談件数はコロナ禍によって急増していた。そのため、コロナ禍が下火になれば、ある程度減るのではないかという予測もあったが、さらに増加するという現象が起きているのだ。
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改めて言うまでもなく、ＤＶとは、配偶者や恋人などによる暴力のことだ。
統計の上では被害者の８割が女性（妻）であり、２割が男性（夫）だが、実際は女性が加害者である割合はもう少し高いといわれている。往々にして男性のＤＶは直接的な暴力によって危害を加える形で表れ、女性のＤＶは相手を精神的に追いつめる形で表れる。
家庭内でＤＶが起きた時、被害者が直面する問題の１つが住居だ。
被害者が家で起きている暴力から逃れようとすれば、現住所を離れなければならなくなる。だが、そこに実家に頼れない、友だちがいない、新しい住居を借りるお金がないという状況が重なれば、住むところを失うことになる。
10代～40代の家を失う人々を追うシリーズ「ヤング・ホームレス」。今回はＤＶ被害者が家を離れた後のリアルと支援について光を当てたい。
<h2>「10代で未婚のまま子供を産んだ女性も」</h2>
日本でＤＶ被害に遭った母子を支援する機関の１つに、「母子生活支援施設」がある。かつては母子寮と呼ばれていた施設だ。
終戦から間もない頃は、夫を失った子持ちの未亡人を救う施設だった。だが、時代の変遷とともにＤＶや夫のサラ金等によって家を追われた母子に住居を提供する事業へと形態を変えていった。近年では、養育能力に乏しい母親とその子供を受け入れることも多くなっている。
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母子生活支援施設で母子支援員として働く上田孝子（仮名）は次のように語る。
「施設に来るのは大きく２つのケースにわかれます。近年多いのが、子育てをする力が全般的に弱い親が来るケースです。母親の中には10代で未婚のまま子供を産んだり、知的障害や精神疾患で自立や子育てができなかったりする人がいます。そういう人たちを受け入れて、数年かけて自立への道筋をつけるのです」
上田はさらにつづける。
「２つめのケースが、昔からあるＤＶの被害者ですね。家庭で旦那さんに暴力を振るわれ、命からがら逃げてきたものの、住む家どころか、生活するお金すらない。そんな人たちが行政にＳＯＳを出した後に、母子生活支援施設に連れて来られるのです」
ここで母子生活支援施設に来るまでの主なプロセスを示しておこう。
全国の地方公共団体は福祉事務所を有しており、その役割の１つに子供のいる家庭支援がある。主に窓口で相談を受けたり、住民からの通報を受けたりすることで、生活困難に陥っている親子とかかわり、保護が必要と判断した場合は施設に入ることを勧めるのである。
母子生活支援施設で暮らす期間は、基本的には１年～３年が多い。そこで、子育て支援を受ける、メンタルヘルスを改善する、新しい仕事を見つける、新居を探すといったことをして、自立の準備が整った時点で施設を離れることになる。
ただ、ここに来る女性たちが直面してきた現実、そして現在進行形で抱えている問題は簡単ではない。実際の事例を、インタビューを通して２つほど紹介したい。
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<figure id="attachment_296686" aria-describedby="caption-attachment-296686" style="width: 3888px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="d0df6d90"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/02/IMG_3875.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-296686" class="wp-caption-text">夫の暴力から逃げ場を失い繁華街で売春に走る女性も多い（写真はイメージで一部加工しています）</figcaption></figure>
〇塚田織恵（21、仮名）
福岡県の公務員の父親とパートの母親のもとで、塚田織恵は生まれた。２歳下に弟がいたが、生まれて間もなく病死したという。
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父親は役所で公務員として働いていたが、私生活は乱れていた。給料をほとんど家に入れず、毎日外で飲み歩き、不倫を重ねていたのだ。母親はパートを掛け持ちして家計を支えていたものの、そのうっ憤を虐待という形でしばしば織恵にぶつけていたそうだ。
そんな家庭は織恵にとって息苦しいものだった。彼女はなるべく家にいたくないという思いで塾へ行かせてほしいと頼んだ。そして週５日塾に通い、帰宅した後も夜遅くまで自室で予習や復習をした。彼女にとっては勉強することが虐待から逃れる術だったのである。
そんな日々が急変したのは中学２年の時だった。塾で働くアルバイトの大学生と恋仲になったのだ。彼女は呼ばれるままにアパートに行き、セックスをした。親から受けられなかった愛情を大学生に求めたのかもしれない。
<h2>はじまった性的な逸脱行為</h2>
これを機に織恵の性的な逸脱行為がはじまる。周りの男たちに誘われるままに家やホテルへ行き、性行為をしたのである。彼女は言う。
「外での遊びを知ったら、親から逃げるために塾で勉強していたことがバカバカしくなりました。それより男の人たちと一緒にホテル行って、ご飯を食べさせてもらったり、アクセサリーを買ってもらったりしてた方が楽しかった。それで中３の時からまったく勉強をしなくなり、ずっと男の人と遊ぶようになったんです」
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高校は地元の公立校へ進んだものの、１年の１学期に学校内で男子生徒とセックスをしていたのが見つかって中退。その後は、ほとんど家に帰らず、夜の街を徘徊しながら、その日知り合った男と一晩を過ごす日々を送った。
織恵が妊娠をきっかけに結婚したのは18歳の時だった。当時彼女はパブで働いており、そこのボーイと恋愛関係になっていたのだ。
両親の反対を押し切り、織恵は男児を生んだ。１ルームのアパートに暮らしながら、しばらくは夫の収入に頼って子育てに専念するつもりだった。初めは夫もそれに同意していた。
だが、わずか数ヵ月で家庭に亀裂が入った。夫がぴたりと金を入れなくなったのだ。理由を問いただすと相当な借金があるという。さらに調べたところ、彼は織恵に隠れて大麻に手を出しており、闇金からも追い回されていることが判明した。
夫は開き直ったように言った。
「もう俺の稼ぎだけじゃ借金を返せない。おまえも働いてくれ」
<div data-friday-nextpage-lead="ケトルで殴り風呂場に３日幽閉"></div>
<figure id="attachment_296690" aria-describedby="caption-attachment-296690" style="width: 3888px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="2e7f237a"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/02/IMG_3879.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-296690" class="wp-caption-text">夫の暴力から逃げ場を失い繁華街で売春に走る女性も多い（写真はイメージで一部加工しています）</figcaption></figure>
織恵は夫に子供を預け、キャバクラで働くことにした。すると、夫はだんだんと嫉妬深くなり、「帰りが遅い」「客と連絡を取るな」と言いがかりをつけ、暴力を振るうようになった。後でわかったのだが、この時点で夫は大麻のせいで精神に変調をきたしていたらしい。
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織恵は言う。
「暴力はどんどんひどくなりました。私にしてみれば、旦那の借金と生活のために働いているのに、それで浮気だなんだって言われても迷惑ですよね。それで文句を言うと、ケトルや鍋でボコボコに殴られるんです。風呂場に３日間閉じ込められて、食事ももらえなかったこともありました。私はいいけど、息子が死んじゃうってマジで思いました」
織恵が逃亡を決心したのは、子供の命を守るためだった。ある日、彼女は買い物に行くふりをしてそのまま、昔勤めていたパブの同僚の家に逃げ込んだ。
その家では、友人も２歳の子がいたため、織恵はベビーシッターをしながら居候させてもらった。だが、無収入の状態で、いつまでも世話になるわけにはいかない。
<h2>「かくまっている奴ごと殺してやる」</h2>
２ヵ月後、織恵は勇気を出して夫に電話を掛け、別れてほしいと頼んだ。すると、夫はこう言った。
「だったら、これまでの生活費をすべて払え。全部で500万だ。もしそれに応じなければ、何としてでもおまえの居場所を見つけて、かくまっている奴ごと殺してやる」
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元ボーイの夫は、夜の街にネットワークを持っている。それを駆使すれば、遅かれ早かれ見つけられてしまうだろう。
織恵は友人に迷惑をかけるわけにいかないと考え、ビジネスホテルに泊まり、そこでアダルト系のライブ配信をしながら稼ぐことにした。配信中は子供を浴槽に閉じ込め、自分はベッドで裸になって配信を行った。
日々のホテル代と食費だけは何とか稼ぐことができた。しかし、小さな子供を連れてこうした生活をつづけるわけにいかない。
そこで織恵が頼ったのは、ネットで見つけた行政の相談窓口だった。担当者は事情を聞いてすぐに、福岡に織恵と息子を置いておくのは危険だと判断。そして他県の母子生活支援施設に送ることを決めた。
このように、ＤＶから逃げる母子の境遇は極めて厳しい。【後編：ＤＶ被害28歳女性「支援施設に助けられるまでの」凄惨半生】ではさらに過酷な母子と、母子生活支援施設のリアルを紹介したい。
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【<a href="https://friday.kodansha.co.jp/article/296712">後編：ＤＶ被害28歳女性「支援施設に助けられるまでの」凄惨半生</a>】
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<figure id="attachment_296517" aria-describedby="caption-attachment-296517" style="width: 3888px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="e7b07cbc"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/02/IMG_3870.jpeg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-296517" class="wp-caption-text">夫の暴力から逃げ場を失い繁華街で売春に走る女性も多い（写真はイメージで一部加工しています）</figcaption></figure>

77年、東京都生まれ。ノンフィクション作家。国内外の文化、歴史、医療などをテーマに取材、執筆活動を行っている。著書に『絶対貧困』『遺体』『「鬼畜」の家』『43回の殺意』『本当の貧困の話をしよう』『格差と分断の社会地図』『ルポ 誰が国語力を殺すのか』などがある。

石井光太

配偶者によるＤＶ相談件数は年間８万件を大きく上回る。被害の大半は女性。暴力から逃れるため住む家を失いカネを稼ぐために売春に走ることも。ノンフィクション作家・石井光太氏が迫る困窮女性の生々しい実態。

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