番組の成否すら分ける⁉ テレビ業界で「ADの奪い合い」が起きている驚きの背景 | FRIDAYデジタル

番組の成否すら分ける⁉ テレビ業界で「ADの奪い合い」が起きている驚きの背景

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『ヒューマングルメンタリー オモウマい店』。「裏方」であるはずのADが出演者としても登場しており、ADの存在がかかせないバラエティのひとつだ(画像:番組公式ホームページより)
『ヒューマングルメンタリー オモウマい店』。「裏方」であるはずのADが出演者としても登場しており、ADの存在がかかせないバラエティのひとつだ(画像:番組公式ホームページより)

「テレビのAD(アシスタントディレクター)」と聞いてみなさんはどんなイメージをお持ちでしょうか?「ブラックな仕事」「家に帰れない」「ディレクターにいじめられる」……そんなネガティブな印象をお持ちの方が多いと思います。しかし、残念ながらこの印象はまったくと言って良いほど実態とかけ離れています。

実はいまやテレビ業界では、「優秀なADを手に入れた番組こそが天下を取る」という状況になっています。そして、引っ張りだこになっているADのなり手が不足していて、奪い合いの状態になっているのです。「世はまさにAD王時代」と言えるのではないでしょうか。

なぜそうなったのか? その背景には「テレビ番組の制作方法と機材の変化」があるのです。

ベテランより、若手ADの方が優れている“ある能力”

ニュースやワイドショーでいま、「競争を勝ち抜くために最も大切なもの」は何か? というと、多くのプロデューサーたちが口を揃えて「スタジオのパネルの出来栄えの良し悪し」をあげると思います。いろいろなニュースの裏側の「構図」などを、スタジオでアナウンサーなどが詳しく解説する「パネル解説」が番組演出として最近とても流行しています。

何よりも「わかりやすい」ですし、スタジオに呼んだゲストとMCがスタジオトークを繰り広げて盛り上がる「ネタ」になるのがこの「パネル」です。そして、このパネルを作らせたら、実はベテランのディレクターよりも若いADの方が断然上手な場合が多いのです。

まず、パネルの元となる記事や写真などをネットで検索して探してくる能力は、Z世代などのADの方が圧倒的にスキルが高いです。さらにそれを「パッとみてわかるように」直感的な図式にまとめて、見やすくレイアウトする能力も、若者の勝ちです。ということで番組の演出のキモである「パネル作り」では優秀なADこそが一番の戦力なのです。

では、撮影はどうでしょうか。かつてはテレビ番組の撮影といえば、大型で高価なカメラを使って「専門のカメラマン」が撮影するのがメインでした。しかし、今では小型の市販ビデオカメラやGoProなどのアクションカメラ、さらには高画質のスマホなどを使用したものが多くなりました。そしてこれらの動画データをそのままパソコンに取り込んで編集するケースがほとんどとなったのです。

パソコンやスマホを使いこなす能力も、やはりZ世代などの ADの方がベテランより圧倒的に高いのです。彼らはYouTubeなどに親しんでいて、子供の頃から撮影することにもされることにも非常に慣れているので、撮影センスも良いものを持っています。制作予算があまりない番組が多い昨今、「ADが撮影した映像でほとんど成り立っている」ような番組がジャンルを問わず増えてきているのです。

さらに、ここのところ「ADや若いディレクターが取材レポートしている様子をそのまま使う」番組演出がバラエティで流行っています。中京テレビの『ヒューマングルメンタリー オモウマい店』など、こうした「ADが出演者としても重要な役割を果たしている番組」がいまとても面白い。彼らはキャラクターがとても素直で、少し頼りない感じが視聴者にも共感を持って受け入れられているのです。
このように、テレビの制作現場では「優秀なADが喉から手が出るほど欲しい」状況になっていますが、残念ながらADのなり手はどんどん減ってきています。

優秀なADが欲しいけど……実は「派遣AD」が多い現場の“いま”

まず、いまADは番組に「AD専門の派遣会社」から派遣されるケースが多くなっています。

こうした「派遣AD」は番組でいくら経験を積んでも、ディレクターになれるチャンスがありません。会社を辞めてフリーになるか、別の制作会社に入らない限りいつまで経ってもADのまま。悪く言ってしまえば「使い捨て」のような状況なので、将来に希望が持てません。ですからなり手がどんどん減ってしまっているのです。

それに加えて、いまの若者は「本当はテレビよりネット動画が制作したい」という人が増えていますから、そういう意味でもどんどんAD志望者は減っているのです。

こんな中、いまや現場では「ADさんは大切にしなければならない」という空気がどんどん強くなっています。局のプロデューサーからも「ADには絶対に残業させないこと。そしてパワハラのようなことは絶対に厳禁」と強く指令が出ているため、ADはまるで「腫れ物に触るように」大切にされている場合も多いです。そしてその分の雑用などを、中高年のディレクターや制作会社のプロデューサーなどが代わりにやるしかない状態です。

「家に帰れないブラックな仕事」はいまやADではなく、中高年のおじさんプロデューサーやディレクターなのです。時代は変わりましたよね。

こうしたニュースやワイドショーの制作現場の舞台裏や、バラエティ、ドラマ、アナウンサーなどなどテレビ局全般の実態については、『腐ったテレビに誰がした? 「中の人」による検証と考察』(光文社・2月22日発売)にさらに詳しく書きました。興味のある方はぜひご覧ください。

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  • 鎮目博道/テレビプロデューサー・ライター

    92年テレビ朝日入社。社会部記者として阪神大震災やオウム真理教関連の取材を手がけた後、スーパーJチャンネル、スーパーモーニング、報道ステーションなどのディレクターを経てプロデューサーに。中国・朝鮮半島取材やアメリカ同時多発テロなどを始め海外取材を多く手がける。また、ABEMAのサービス立ち上げに参画。「AbemaPrime」、「Wの悲喜劇」などの番組を企画・プロデュース。2019年8月に独立し、放送番組のみならず、多メディアで活動。江戸川大学非常勤講師。MXテレビ映像学院講師。公共コミュニケーション学会会員として地域メディアについて学び、顔ハメパネルをライフワークとして研究、記事を執筆している。著書に『アクセス、登録が劇的に増える!「動画制作」プロの仕掛け52』(日本実業出版社)。『腐ったテレビに誰がした? 「中の人」による検証と考察』(光文社)が2月22日発売。

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