“振り込み詐欺”の失敗者リストを「再利用」!?資産家を狙う”広域強盗犯”が狙う次の獲物
“振り込め詐欺”と“強盗”を合体させた、犯罪のイノベーション…
「不謹慎なたとえかもしれないが」と断りつつ、「今回の一連の事件は、“振り込め詐欺”と“強盗”を合体させた、犯罪のイノベーションだと思います」と言うのは、犯罪学者の小宮信夫氏。
年末から複数人で強盗に押し入る事件が続発している。犯人たちは、いかに標的となる家を見つけているのか?
「ルートは2つあると思います。1つは “振り込め詐欺”の『失敗リストの再利用』です。振り込め詐欺の場合、結果的に途中で詐欺だとバレてしまっても、カケ子といろいろ話しているうちに、家にどれだけお金を置いているかとか、最近高い時計を買ったなどと話してしまったかもしれない。そういう情報がのちのち価値のあるデータに変わっていきます」(小宮氏)
フィリピンから護送されてきた容疑者たちも、振り込め詐欺の容疑で逮捕されている。
「振り込め詐欺は数百人に電話をかけ続け、相手の一人と何十分も話して、それでも成功する確率は非常に低い。だったら、“金め”のものがあることが分かっている家に強盗に入るほうが手っ取り早いというわけです」(同前)
一連の事件では、犯行前に近所に不審な車が停まっていたことが目撃されている。
「ターゲットを定めたら、人の出入り、家族構成、生活サイクルを監視・調査して、一人のとき踏み込めばいい」(同前)
もう一つのルートは、さまざまなリストを照らし合わせターゲットを絞っていく方法。
同窓会名簿など高齢者リスト、高額商品購入者リストなど、個別に売買されている名簿を集め、さらにアンケート調査などを装って、相手の反応を見るなど二重三重に情報を集め、精度の高い情報にしてターゲットを決めるという。
「どちらもターゲットを定めて強盗に入ることから、僕は、この手の強盗を“ピンポイント強盗”と名付けています」 (同前)
そして、小宮先生が最も気になるのが、強盗犯たちが安易に犯罪に手を染めている点。
「強盗はリスクが高いはずなのに実行役はそう考えていないところにも問題点があります。
学校等で、犯罪を犯すことにより、将来自分にどのような人生が待ち受けているのかというリスクをしっかり教えるべきです。たとえば、こういう刑罰が科される、刑務所ではこういう生活が待っている、出所した後も社会は冷たいといったことです」(同前)

50代以上に多いプロバイダーのアドレスは危険!? セキュリティ効果が高いメールアドレスに変更を
不必要にプライベートな情報をSNS等で発信しないことは常識だが、やはり気をつけたいのは個人情報が抜き取られるフィッシング詐欺だ。これも先出のターゲット選定のリストの一つになる。
こうした迷惑メールから身を守るためには、Gmailのようなセキュリティ対策がしっかりしているメールアドレスを利用するのも対策のひとつ。50代以上の人は、最初にアドレスを作ったプロバイダーを利用し続けている人も多いが、
「

精度を上げていく『ジグソーパズル・アプローチ』…犯罪者集団VSデジタル庁!?
最近は防犯カメラなどがよく売れていると聞くが。
「ないよりはあったほうがいいでしょう。それで犯罪に遭う確率を減らすことができます。カギを二重にすれば、さらに減らすことができる。けれど、それらはあくまでも今までの“空き巣”対策の延長線と考えるべきです。
一連のピンポイント強盗は既にいろいろな情報を持ち、調査をしていますので、狙い目のタイミングに宅配業者などを装って、住居者に自らドアを開けさせています。これでは防犯カメラも二重のカギも役に立たない。警備会社と契約したところで、自分でドアを開けたら通報されません」(小宮氏)
ナンバーディスプレイにして、知らない番号からかかってきた電話には出ない。宅配を頼むときは時間指定して、受け取るときはドアホンの画面を確認する。こんなことぐらいしかできることはないのだろうか。小宮氏が語る。
「残念ながら、今のところそうなります。しかも、犯罪はますます進化していくと思われます。第二、第三のルフィも登場してくるでしょう。また、本当の主犯格はデータの売り買いをしている人間で、ルフィは指示を受けているだけかもしれない。
犯罪者集団はどんどんデジタル・トランスフォーメーションを進めているので、守る側は警察を含め、デジタル・トランスフォーメーションを進めて、高度情報通信社会における犯罪に対応していかなくてはならない。
個人情報や名簿を重ね合わせて、ピンポイント強盗用のリストに仕上げる『ジグソーパズル・アプローチ』という手法は、これからますます精度を上げていくことが想定されます。行政も企業も、情報の管理にもっと注意を払う必要が出てくるでしょう。
やっと闇バイトを誘うHPの摘発を始めるようになりましたが、FBIではすでにダークウェブに入っていって、どんどん摘発している。ビッグデータを解析して、犯罪者集団を絞り込んだり、顧客データが流出しないよう監視する第三者機関を作ったり、AIを使って電話の内容から犯罪を推定し、注意するよう音声を流したりするなど、やるべきことはいろいろ考えられます。
その総司令塔がデジタル庁。どこまでできるかにかかっています」
小宮信夫 立正大学教授(犯罪学)。社会学博士。日本人として初めてケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。本田技研工業情報システム部、国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。第2種情報処理技術者(経済産業省)。「地域安全マップ」の考案者。警察庁の安全・安心まちづくり調査研究会座長、東京都の非行防止・被害防止教育委員会座長などを歴任。
代表的著作は、『写真でわかる世界の防犯 ――遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館、全国学校図書館協議会選定図書)、『犯罪は予測できる』(新潮新書)。NHK「クローズアップ現代」、日本テレビ「世界一受けたい授業」などテレビへの出演、新聞の取材、全国各地での講演も多数。
取材・文:中川いづみ