'77年、東京都生まれ。ノンフィクション作家。国内外の文化、歴史、医療などをテーマに取材、執筆活動を行っている。著書に『絶対貧困』『遺体』『「鬼畜」の家』『43回の殺意』『本当の貧困の話をしよう』『格差と分断の社会地図』『ルポ 誰が国語力を殺すのか』などがある。

石井 光太

使用済みオムツの山でカップ麺を…乳児院に子供を預ける女性「ＤＶや性被害リスク倍以上」の壮絶実態

「鍋で殴られ風呂場に監禁」…ＤＶ夫からの逃避行「母子生活支援施設に送られた21歳女性」壮絶体験

ノンフィクション作家・石井光太が社会・事件に迫る！衝撃ルポ

<figure id="attachment_297382" aria-describedby="caption-attachment-297382" style="width: 4240px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="b94e539a"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/02/DSC03017-1.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-297382" class="wp-caption-text">繁華街には行き場を失った女性たちが売春目的で集まることもある（写真はイメージで加工しています）</figcaption></figure>
日本ではジェンダーフリーや多様性社会が声高に叫ばれている。だが、その足元では、立場の弱い女性――精神疾患や障害のある女性たち――が、様々な不利益を受けながら生きている現実がある。虐待、ＤＶ、性犯罪などのリスクは有意に高い。
そんな女性たちが妊娠した時に陥るのが、育児困難という現状だ。シリーズ「ヤング・ホームレス」では、その現実を、【<a href="https://friday.kodansha.co.jp/article/297372">前編：乳児院に子供を預ける女性「ＤＶや性被害リスク倍以上」</a>】に続いて見ていきたい。
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日本で精神疾患や障害のある女性たちが育児困難に陥った時に、受け皿となっている機関の１つが母子生活支援施設である。
かつて母子寮と呼ばれていた施設であり、戦後は主に戦争によって路頭に迷った母子を保護していた。それから時の移り変わりとともに社会背景も変化し、近年はＤＶによって家庭を追われたり、育児能力が不十分だったりする女性が子供とともに入居するケースが大半になっている。
実は、母子生活支援施設にスポットを当てると、社会的に弱い立場の女性が多いことがわかる。全国母子生活支援施設協議会の公表では、４人に１人に当たる23.5％の女性に身体障害、知的障害、精神疾患があり、10人に１人に当たる10％が外国人なのである。
<h2>「料理や片づけ、着替えができない」</h2>
ただしこれは15年前の統計であり、現在はさらに割合は高くなっていると考えらえる。たとえば、私が取材した関西の母子生活支援施設では、母親30人のうち12 人が精神科に通院しており、障害者手帳を持つ者は９人だ。そう考えてみると、半数くらいは精神など内面の問題を抱えていると言えるかもしれない。
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母子生活支援施設で働く女性は語る。
「施設に来る母親さんで障害や病気のある方は非常に多いです。それは、彼女たちが健常者の女性より、性暴力、ＤＶ、経済困難、離婚のリスクが高く、難しい人生を余儀なくされていることを示しています。
ただ障害の有無にかかわらず、施設の母親さん方に共通するのは、生活についての常識が不足していることです。子供を育てる以前に、ご飯をつくる、部屋の片づけをする、着替えるといったことができない人が多い。それは彼女たちが悪いのではなく、そうした習慣を身につけさせてもらえなかったか、そのために孤立した妊娠をしたせいなのです」
同じことは、他の母子生活支援施設を訪れても耳にすることだ。
今回、私が取材した人の中には、子供時代にネグレクトされ、毎日菓子パンだけを食べて、水シャワーを浴びて育った人がいた。彼女はガスコンロの使い方、お風呂の沸かし方、掃除の仕方すらわからないまま、17歳で妊娠していた。相手の男性は籍を入れる前に失踪。そのため、彼女は赤ん坊を生んでも、子育てどころか、生活をする方法もわからなかったという。
同じことは、障害のある女性にも当てはまる。ある知的障害の女性は子供の頃から施設で育ち、大人になってからはグループホームで暮らしていた。そのため、身の回りのことはすべて職員がしてくれていて、自分で学ぶ機会がなかったそうだ。
<div data-friday-nextpage-lead="20代後半で妊娠も男性に捨てられた女性の話"></div>
<figure id="attachment_297373" aria-describedby="caption-attachment-297373" style="width: 3883px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="2d27cb7d"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/02/IMG_3887-2-1.jpeg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-297373" class="wp-caption-text">男性から暴力を振るわれ借金を背負い行き場を失う母親は多い（写真はイメージで加工しています）</figcaption></figure>
20代後半の時、彼女は悪い男性に恋して付き合いはじめた。妊娠したことで同居をしたものの、それまですべてを支援者に頼ってきたことから生活のことはほとんどわからなかった。それで出産直後に男性に捨てられ、路頭に迷っているところを保護された。
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母子生活支援施設の役割には、こうした女性たちに子育て以前の生活習慣を教えることも含まれている。母子支援員が常駐しており、在所期間中に生活の仕方を教えるのだ。
先の女性は言う。
「母親さんたちに物事を教えているとびっくりするようなことに出くわします。洗濯機の回し方を教えても、洗い終えた物を干すということを知らないとか。ガスコンロの使い方を教えても、火を消すことを知らないとかいったことが起こるのです。それまでの生活の中で『干す』『消す』という作業をしたことがなかったので頭が回らないのです。
万事がこのような調子なので、うちにいる１、２年の間にすべてを教えることは難しいですが、最低限のことだけは覚えさせようという考えで取り組んでいます」
<h2>「ゴミ屋さんが家まで取りに来てくれない」</h2>
今回取材した女性の１人は、ごみの処理の方法を知らなかったそうだ。そのため、職員がゴミ袋を買ってきて、どうやってまとめるのかを教え、ごみ回収日をカレンダーに書き込んだ。
１ヵ月後、職員が様子を見に彼女の住居に入ったところ、ゴミ袋が山のように置かれていた。なぜ回収日に捨てなかったのかと尋ねたところ、彼女はこう答えたそうだ。
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「ゴミ屋さんが家（の中）まで取りに来てくれないんです」
ゴミの出し方を教わっても、それを外の回収場所に置きに行くということを知らないのだ。
施設を取材すると、このような信じがたい話が数多あるが、逆に言えば、彼女たちはそれだけ多くのものを奪われてきたといえるだろう。
先の女性は語る。
「私は社会的に弱い立場の女性にも出産する権利があると思っています。しかし、昔のような家族や地域とのつながりがなくなった今、彼女たちの子育てを応援するような環境はありません。そうなると、何か問題が起きるまで、支援につながらなくなってしまうのです。当然ですが、何か起きてからでは手遅れですよね。だからこそ、社会全体でこの問題に向き合う必要があると思っています」
考えなければならないのは、本稿で繰り返し述べてきたように、弱い立場の人であればあるほど、このような事態に陥るリスクが高いということだろう。
昨年末、北海道の障害者用のグループホームで、入所者が異性との結婚や同居を望んだ場合、不妊処置を提案していたというニュースが世間を賑わせた。
私は、グループホームがしたことには反対だ。ただし、反対するだけでは、こうした問題を改善したことにはならない。反対するならば、それに見合うだけの支援体制を整えなければならないのだ。
特に少子化対策が注目されている今だからこそ、こうした問題について正面から議論し、考える必要があるように思う。
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【募集】
シリーズ「ヤング・ホームレス」では、定住先のない10～40 代の人を探しています。車上生活者、ネットカフェ難民、出稼ぎ風俗嬢、寮暮らしの日雇い労働者、ホテル生活者、店舗生活者、支援施設での生活者など、現在でも過去でも、住居を失った経験のある人の実体験、あるいはその支援をされている方々の声を募集しています。匿名などの条件にも応じますので、著者までご連絡下さい。
石井光太（作家）
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メール　postmaster@kotaism.com
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<figure id="attachment_297377" aria-describedby="caption-attachment-297377" style="width: 3888px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="ef9708d5"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/02/IMG_3875.jpeg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-297377" class="wp-caption-text">繁華街には行き場を失った女性たちが売春目的で集まることもある（写真はイメージで加工しています）</figcaption></figure>
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77年、東京都生まれ。ノンフィクション作家。国内外の文化、歴史、医療などをテーマに取材、執筆活動を行っている。著書に『絶対貧困』『遺体』『「鬼畜」の家』『43回の殺意』『本当の貧困の話をしよう』『格差と分断の社会地図』『ルポ 誰が国語力を殺すのか』などがある。

石井光太

男性から暴力を受け借金の肩代わりにされるなど様々な理由で子育てに苦しむ女性は多い。行き詰まり育児を放棄する彼女たち。女性の困窮から社会の実像に迫る。ノンフィクション作家・石井光太氏の渾身ルポ後編。

毎日菓子パンを食べ水シャワーを浴び…母子生活支援の女性たち「ネグレクトや路頭に迷った」子供時代

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