無料配信付き イジメ漫画『ホームルーム』がとにかくヤバい!
漫画家・千代氏インタビュー
「登場人物が全員ヤバすぎる!」新進気鋭の漫画家・千代氏による「ホームルーム」が、いま話題を呼んでいるーー。
真面目で巨乳の女子高生・幸子は、クラスメイトの何者かによる嫌がらせを受けている。そんないじめられっ子の彼女を救うのは、爽やかなイケメン教師、ラブリンこと愛田先生。冒頭の、教師と生徒の純愛を描いた学園モノっぽい展開は一瞬で崩れ去り、異常者たちが次々とあらわれるサイコパスな恋愛物語だ。みんなの予測不能のクレイジーな行為は、恐怖を通り越してもはや痛快! こんなぶっとんだ漫画を描く千代氏って一体どんな人?
千代氏をよく知る担当編集を交えて、インタビュー取材を敢行。気になるアレコレを聞いてみた。
ーーコミックDAYSで『ホームルーム』の連載がはじまるまでの経緯を教えてください。
千代 実はこの作品が生まれるまでには、2年くらいかかったんです。とにかくネーム(コマ割りや構成、セリフなどを大まかに表したもの)が全然通らなくて。角度を変えていろんな企画を描いても、最終審査まではいくんですが結果ダメ、というのが何度か続いて。いや〜あのときは精神的につらくて禿げそうでしたね。
担当編集・白木 あまりにネームが通らないから、「原点回帰してみるか」みたいな感じで、千代さんのデビュー作『シェアー』に着目したんですよね。
千代 『シェアー』がはじめて描いたストーカーものだったんですが、白木さんが「人間の生々しさを描くのが上手い」とよく褒めてくれるので、調子に乗って描き続けた結果、できあがったような作品(笑)。『ホームルーム』の前身のような存在ですね。
『シェアー』は近所のコンビニの店員がストーカー、『ホームルーム』は教師。「学校を舞台にしよう」と言いだしたのは白木さんだったんですが、確かに、学校だとみんなが通ってきた道だし、自分と無関係ではない環境を舞台にすることで、恐怖がより際立つかなと。そこからが早かった。学校を舞台にしたネームを描いたら、“秒で”通りましたもん。
白木 見知らぬ人=ストーカーから、思い切り信じている人=ストーカーに切り替えたのが千代さんに合っていたんだと思います。憧れの王子様がストーカーだった、みたいな。
ーーずばり『ホームルーム』のテーマは?
千代 「私は普通」と思っているのは自分だけ。普通の人なんて、実はひとりもいないんですよ。誰もが持つ“癖”のようなものが、人と関わることで混じり合う。そんな“癖”の化学反応を楽しんでもらえたらうれしいです。
ーーヤバイと言われている登場人物。キャラ作りのこだわりは?
千代 人と人の組み合わせですかね。“混ぜるな危険”みたいな、そういうギャップをいちばん大事にしているかな。
ーー主人公の教師をイケメンにした理由は? それもギャップ?
千代 それはもうギャップ。G・A・Pですよ。あと、白木さんが打ち合わせで、「イケメンがどこまで許されるのかやってみたい」って言うから(笑)。
ーー確かに、ラブリンがやっていることはありえない行為なのに、生理的な気持ち悪さをまったく感じないというか。すらりとした細マッチョ、涙袋のほくろ、屈託のない笑顔など、イケメン要素の描写がとても細かいですよね。
千代 ラブリンはすべての登場人物にとっての“基準”になる存在なので、濃すぎず薄すぎず、間違いない感じの要素をバランスよく組み合わせたら、できあがった感じです。
ーーそんなイケメン教師・ラブリンが幸子のパンツを被っているシーン。思わず吹き出してしまったのですが、ああいう変態行為を描いているときの心境って?
千代 完全にふざけてはいますよね。ふざけたシーンを本気で描くといいものができる、ということはもう分かっているので。あと、描くときはいつもどこか他人事なんで、引いて見ている感じがあるんですよ。「うわ〜ラブリン今日もやってんな〜」みたいな(笑)。
白木 打ち合わせはいつも爆笑。ネタ出しが気持ち悪い対決みたいな感じになってますからね。で、ふたりがツボにはいって大爆笑したら、それが正解。
ーーでも、幸子のベッドの下に、ラブリンが裸体で息をひそめる姿をはじめてみたときは、恐怖で笑えなかったです。
千代 実はあのシーン、モデルとなった映画があるんです。『スリーピング タイト』というスペインの映画なのですが、アパートの管理人が同じアパートに住む美女に陰湿なストーキング行為を繰り返すというもの。美女のベッドの下に潜り込んだり、睡眠薬を飲ませて添い寝したりするんですが、ラブリンの“イケメンチャレンジ”と違っておじさんだから、すっげー気持ち悪い!
ーーあと、首吊りをしているお母さんの横で、ゲームに没頭する幼少期のラブリンをドット絵で描いたひとコマ。ものすごい違和感にゾクッとしたのですが、ラブリンの姿をドット絵で表現した狙いは?
千代 あれは、現在のラブリンに多大なる影響を与えた重要な出来事ですね。ドット絵にしたのは、母の死を受け入れきれないラブリンの心境を表したかったから。無惨な現実と、それをどこかゲーム感覚で見ているラブリンの感情をぎゅっとひとコマに凝縮したら、あんな感じになりました。
ーー幸子や保健の美人教師・椎名先生、“鉄の女”と呼ばれる優等生など、ラブリンに好意を寄せる女子の瞳が、突然、少女漫画のようにキラキラするシーンがありますが、それにはどんな意味が?
千代 「ある人の瞳には、この人はこんな風に映っている」というビジョンを、読者のみなさんと共有できたら、楽しんでもらえるだろうなと思って。
ーー冒頭に出てくる、幸子からみたラブリンの姿がナポレオンになっているシーンもそうですよね。
千代 はい。この作品は、主人公目線だけでなく、登場するさまざまなキャラの視点からも、できるだけアプローチするようにしています。
白木 「この人にはこういう景色が見えている」という視点のズレはよく使いますね。
ーーサイコパスでぞっとするシーンがたくさんあるのに、なぜか少女漫画に似たような感覚で読んでしまうのは、きっと絵が美しいからだと思います。絵を描くことで、とくに力を入れている点は?
千代 たくさんありますけど、強いていうなら、光と影。光の当て方でシーンの重要度を強調したり、影の面積でキャラの表情を変えたりとか。あとは目! 眼球の下半分をボカすと、真っ直ぐこちらを見ているように見えるんです。
ーー最後に、今後の見どころは?
白木 「この人がこんなことをするのか!?」という、それまでのフリを使った驚きを作る漫画になっているので、今までに登場した人物の間で動きがあります。
千代 やっぱりラブリンと幸子の恋の行方ですかね。あと、ふたりの恋に巻き込まれていく周囲の人たちの展開もお楽しみに!
漫画家さん=寡黙なイメージから、いつにも増して緊張してのぞんだインタビュー。ところが、そんな不安をよそに、第一声からボケて笑いを提供してくれた千代氏。いい意味でイメージをスパッと裏切ってくれたおかげで、終始笑いに包まれた、楽しいひとときとなった。話した感じは「ノリの良い愉快なお兄さん」…かと思いきや、時に痺れる言葉をさらりと放つ。「ふざけたシーンを本気で描くといいものができる、ということはもう分かっている」なんて台詞、かっこよすぎやしないか?
『ホームルーム』無料配信はコチラ↓
- 取材・文:大森奈奈