いま“プロウト（プロの素人）”と呼ばれる人材が、プロ野球界でも存在感を示し始めている。そのプロウトの活動の内容とは？　なぜプロたちがアマチュアの彼らに教えを乞うのか？　<a href="https://friday.kodansha.co.jp/article/299129">前編「プロ野球選手がなぜ“アマチュア”に学ぶのか？　にわかに注目を集める『プロウト』とは何者なのか」</a>に続き、「プロウト」の2人に登場してもらった。
<h3>フレーミングの定義は「ストライクと判定される確率を高めるための捕球技術」</h3>
現在、キャッチャーを評価するうえで注目されている「フレーミング」。一見すると「ボールをごまかしてストライクにする」という行為に見えかねず、ともすれば審判を欺こうとしていると否定的な意見も多い技術だ。
選手やファンの間でも賛否両論あるこの技術を、プロ選手相手に指導し、キャッチャー専門のオンラインサロン「キャッチャー研究所」もオープンするという2人の“プロウト”、rani（@n_cing10）氏と緑川大陸（@mid9181）氏に、現代の野球界におけるフレーミングの有効性や浸透具合、プロに指導するときに感じたことなどを語ってもらった。
<figure id="attachment_298733" aria-describedby="caption-attachment-298733" style="width: 3608px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="48777746"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/03/B_aflo_200409532.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-298733" class="wp-caption-text">2022年、ア・リーグ記録となる62本塁打を放ちMVPを獲得したアーロン・ジャッジ。アマチュアに指導を受けていると話題に（PHOTO：アフロ）</figcaption></figure>
――今、日本野球界でもフレーミングを重要視する機運が高まっていますが、一方でいわゆる“ミットずらし”ではという批判もあります。
緑川　ミットずらしもフレーミングも一緒だと思うんですよ。見る人の主観によるので「これはフレーミング」「これはミットずらし」と分けることは難しいんです。どちらもストライクを取ることが目的なので、一概にどちらがどうとは言えないですね。 
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rani　そもそも「フレーミング」は英語由来、「ミットずらし」は日本語由来の言葉なのでそこに明確な区分けなんかあるわけがないし、正直その議論自体不毛だとしか思えないですね。フレーミングを取り入れるのは「ストライクが増えたら得、ボールが増えたら損」、それだけのことなんですよ。 
緑川　「フレーミング」という言葉が一人歩きして、どんどん難しく考えるようになっている気がします。 
rani　フレーミングの定義はMLBの公式サイトにはっきり書かれています。「フレーミングとはアンパイアがストライクと判定する確率を高めるための捕球技術のことである」、これ以上でも以下でもないんです。それを「私が思うフレーミングとは、そもそも～」とか言い出すからややこしくなる。「私が思うフレーミング」って何でしょう？ 
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緑川　私情や主観はいらないというか、三角形の定義と一緒で、三角形のことをこれは三角形だと言っているのに、「そもそも私が思う三角形というのは～」と議論しているようなもので…。 
rani　本当にそういうレベル（笑）。当然ですけど、データによって重要性が証明されたのはこの定義によるフレーミングであって、「私が思うフレーミング」が重要だと示されたわけではないですから。 
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<h3>フレーミングとブロッキングは表裏一体、どちらも極めなければいけない</h3>
――現役選手がフレーミングの重要性に気づいたきっかけはなんでしょうか？
緑川　MLBではみんなが取り組んでいて、それが試合を左右するし、成績にも反映して、年俸につながってきていることが分かったからだと思います。フレーミングについての考え方や捉え方が分かって、やってみると理に適っていて、これはやるべきだと感じた選手が多いのではないでしょうか。
――ひと昔前だと、ミットを動かすと、特に国際試合では審判の心証を悪くするからやらない方がいいという意見もありましたが、MLBの選手がこぞってやっているのが現状です。
rani　国際試合の話はよく出てきますけど、例えば第1回WBCがあった2006年のMLBシーズンでは、後にフレーミングの名手として名を馳せるラッセル・マーティンが既に約25点のフレーミング得点を記録しています。単純に技術の問題も大きかったのでは。ただ特に最近方法論が変化しているのは事実ですけど。 
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緑川　前から見るのと後ろから見るのとでは、ミットの動き方が全然違うんですよね。プロ選手に指導するときも、後ろから見てもらうと、見え方が全然違って、そうしていくうちにこれはやった方がいいなとなるんです。後ろ目線のキャッチングは選手にとっても新鮮だったようです。
<figure id="attachment_298739" aria-describedby="caption-attachment-298739" style="width: 1050px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="e8fc60cc"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/03/E.jpeg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-298739" class="wp-caption-text">春季キャンプでキャッチング練習をするヤクルトのキャッチャー陣（PHOTO：緑川大陸氏）</figcaption></figure>
――現代ではブロッキングよりもフレーミングの方が優先されるのでしょうか？
rani　フレーミングとブロッキングはセットなので、一緒に考えなければいけません。何も考えずにフレーミングだけ上げようとするとブロッキングが落ちてしまいます。例えば低く構えることがフレーミングの基本なのですが、そうすると左右に動きづらくなります。そこをどう両立させていくかが現代捕手の最大のテーマです。MLBでは今やフレーミング、ブロッキング両方で上位に来る選手も多く、どちらも極めなければいけない部分です。そこが一番難しいですが。 
緑川　日本の場合だとブロッキングがうまい選手は上体を高くして、ボールが来る前に一度浮いてから体を下に落とす動きをすることが多い。それがフレーミングと真逆の動きになるので、得意であればあるほど、体が上から下に動いてしまうので、低めのボールを“バッタ捕り”のようにかぶせてしまう。特に僕が自主トレで指導した甲斐拓也（ソフトバンク）選手はブロッキングが得意な選手の動きをしていました。 
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――苦手な選手はブロッキングを変える必要があるのでしょうか？
緑川　甲斐選手のブロッキングは日本トップクラスですし、失点にもつながりやすい大事なプレーでもあるので、ブロッキングの精度を保ちつつ、フレーミング技術を高めて、今まで以上に圧倒的守備力を誇るキャッチャーとして活躍してほしいと思って取り組んでいました。 
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<h3>ロボット審判になればフレーミングは不要になる技術</h3>
――ロボット審判が導入されると、フレーミングは不要になるという声もあります。
緑川　完全にロボット審判になったらまったくいらない技術。そこは間違いないです。審判ありきの技術なので。 
rani　何球か判定にチャレンジ（リクエスト）できるルールなら必要ですが、完全に自動化するなら不要ですし、ゆくゆくはそうなるでしょう。 
緑川　ただ、今の時点ではすごく重要な技術で、将来のロボット審判を理由に習得しないのはナンセンスだと思います。アマチュアは一発勝負で、プロ選手も一年ごとの勝負。今年成績を残さないと来年はないという生活がほとんどだと思うので、今、結果を残すためにどう取り組むかが大事です。 
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――投手からの評価はどうなのでしょうか？
緑川　普通に考えて、自分でボールだと思った球がストライクになったら嬉しいし、低い構えが投げやすいというピッチャーも多いです。巨人の菅野（智之）投手も山瀬（慎之助）選手（甲斐の合同自主トレに参加）のフレーミングを褒めていたという報道がありましたし、本人からもそう連絡がありました。もちろん、今までにない低い構えや、逆足を地面につける構えなどに違和感を覚えるピッチャーもいますが、僕が聞く限りでは、構えに関係なく、ストライクを増やしてほしいと思うピッチャーの方が多いです。 
rani　ピッチャーからしたら、ストライクがボールになったら困るに決まっていますし、フレーミングを重視してほしいというのは普通のことだと思います。 
緑川　千賀滉大（メッツ）選手と石川柊太（ソフトバンク）選手も甲斐選手の捕り方が変わって喜んでいて、捕り方次第で投手も乗ってくるのは間違いないですね。日本でも徐々にいいものをプロアマ問わず取り入れるようになりつつあります。フレーミングに関しては、今シーズンがそのきっかけの一年になりそうな気がしています。ファンの方も甲斐選手の取り組みに対してはすごく好意的に応援してくれているので、その中でフレーミングの数値が今までより上がることを願っています。
<figure id="attachment_298740" aria-describedby="caption-attachment-298740" style="width: 1170px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="e986e754"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/03/F_image4-3.jpeg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-298740" class="wp-caption-text">緑川・rani両氏が甲斐拓也の2023年の飛躍に期待を寄せる（PHOTO：緑川大陸氏提供）</figcaption></figure>
――2人はキャッチャーに特化したオンラインサロン「キャッチャー研究所」（2023年3月9日スタート）を開くそうですが、目指すところはどこでしょうか？
緑川　ピッチャーやバッターは海外をはじめ、新しい技術や理論を取り入れているのに、キャッチャーだけは旧態依然としているような気がしています。日本ではキャッチャーが何か新しい取り組みをしようとすると、昔の選手を例に出されて引き戻されるというか…。
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プロ、アマ問わず、キャッチャーの古い体質を徐々に変えていきたいし、できればサロンには指導者の方に入ってもらいたいですね。指導者がそこで目にした情報を子どもたち、選手に落としていってほしいと思います。 
rani　同感です。 
日々、理論や技術が進歩し、あらゆるプレーがデータ化される野球界にあって、これまで注目されてこなかったキャッチャーの技術にもスポットが当たるようになった現代。プロウトの2人が目指すのは、プロ野球選手の技術向上だけでなく、最新の技術と理論を通じて将来の野球界を担う子どもたちへのプレゼンテーションでもあるようだ。

高橋ダイスケ

現在、キャッチャーを評価するうえで注目されている「フレーミング」。選手やファンの間でも賛否両論あるこの技術を、プロ選手相手に指導している 2人の“プロウト”に、フレーミングの有効性や浸透具合を聞いた。

なぜプロ野球のキャッチャーがアマチュアに学ぶのか？話題の「プロウト」が語る”現代フレーミング論”

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