東京五輪でメダル獲得を目指す「7人制ラグビー日本代表」のいま

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7月20日、サンフランシコで行われたセブンズワールドカップでの松井千士選手

2020年の東京オリンピック(五輪)で注目される競技に、7人制ラグビーがある。

初めて正式種目として採用された前回のリオデジャネイロ五輪では、男子日本代表がニュージーランド代表を14―12で撃破。メダルこそ獲得できなかったが、4位入賞を果たしている。7人制ラグビーは番狂わせの起こりやすさに加え、スリリングな試合展開でも国民の心を掴みそうだ。

「現場の人間が言うのは心苦しいですが、15人制でニュージーランドに勝つまでには時間がかかるかもしれません。ですが7人制でなら、勝利の可能性を広げられます」

現在、男子のナショナルチームを率いる岩渕健輔がこう語ったのは、コーチ時代の2010年。

7人制と15人制は、陸上競技でいう短距離走と長距離走ほどに異なる。ラグビーの主流とされる15人制では40分ハーフの試合が1チームあたり1日1つずつ組まれるのに対し、7人制では1チームに対し7分ハーフの試合が1日2~3つ、数時間おきに課される。試合時間が短いから、挑戦者は下克上を起こしやすい。確かにたった14分間なら、相手の強みを消して僅差リードを逃げ切れそうにも映る。

その最たる例が、リオデジャネイロ大会の初戦だった。

瀬川智広ヘッドコーチが率いた日本は、ボール保持者が簡単に捕まらぬよう細かくパス回し。7人がかりで楕円球を守り、ニュージーランドの攻撃時間を削った。また守備においては、2人がかりのタックルでランナーを挟み打ちし、その後の素早い起き上がりも徹底。相手のミスを引き出して、なんと2点差で勝利。この勢いのまま3位決定戦へ進んだのだ。

7人制と15人制との違いは他にもある。いずれも同じ大きさのグラウンドでゲームをおこなうため、7人制でひとりあたりが担うスペースは15人制のほぼ倍となる。自ずと泥臭い身体のぶつかり合いより、ダイナミックなランニングが多く見られる。

したがって国際舞台では7人制のスペシャリストが求められ、日本でも専任選手の確保が課題となっていた。トップ選手の層が上位国に比べて薄いうえ、その大半は大学や社会人の15人制チームにいるからだ。年間を通して世界を転戦するセブンズ(7人制)ワールドシリーズに代表として呼ばれた選手のなかには、給与の受取先である所属先の事情でフル参加できない人もいる。

特に瀬川が退任した2016年秋以降、リオデジャネイロ組の一部が15人制への専念を表明。2017年には、ニュージーランド人のダミアン・カラウナ前ヘッドコーチが指揮を執ったが、成績は低迷するばかりだった。

ピンチの局面で緊急登板したのが、現在の岩渕ヘッドコーチだった。東京五輪開幕まで約2年強と迫った2018年6月から、もともと任されていた男女7人制総監督という立場を保ったままカラウナのポストに就いた。

「世界のエッセンスを持つ人を加えるのが、カラウナ体制を敷いた理由です。ただ、大会結果以外のKPI(目標の達成度を評価する指標)をクリアしたか否かを見て、ここからは強化のスピードをもう一段階上げていく必要があると思いました。カラウナのレビューを出す時は、カラウナを支えられなかった私自身の進退の話も(日本ラグビー協会の)専務理事にしましたし、それ以前から他の候補者の名前も挙げていました。しかし色々な話し合いのなかで、こういう(自身が指揮を執る)オファーがあった、というのが流れです」(岩渕ヘッドコーチ)

今度の交代劇を論理的に説明する岩渕は、イングランドのケンブリッジ大学社会政治学部修士課程を卒業した国際派だ。2012年には36歳の若さで男子15人制日本代表のゼネラルマネージャーとなり、強豪国とのマッチメイクや長期合宿を計画。2015年のワールドカップイングランド大会での歴史的3勝を後方支援してきた。

そして五輪というビッグイベントに備え、岩渕ヘッドコーチは、日本代表の戦力を以下のように分析する。

「いまはオセロで言えば、盤の上に我々の石の数が少なく、空いたマス目はほとんど残っていない状態2020年に魔法がかかるわけではありません。マス目をひとつひとつ埋めていかないといけません」

カラウナ体制が戦術の共有とそれに紐づいたプレーの涵養を目指していたのに対し、岩渕体制は戦術を問う以前にフィジカリティや基本技術を落とし込む。

キャンプではウォーミングアップを各自でおこなわせ、練習開始と同時にフルスピードでの試合形式セッションに臨む。合間、合間にラインアウト、ボール保持者の身体の使い方などの基礎メニューを交えながら、ゲーム仕様のトレーニングを繰り返す。

日本ラグビー協会はカラウナ時代、個別の選手と7人制の専任契約を結ぶシステムを作成していた。小澤大はその契約にサインした1人で、トヨタ自動車に籍を残しつつキャプテンとしてチームを引っ張る。岩渕はこの小澤に加え、リオデジャネイロ組の坂井克行や帰化が期待される海外出身者らを「第1次オリンピックスコッド」と定義した。主要メンバーを固定し、大急ぎで連携を磨く。

一方で、スポーツ科学の力も活かす。毎朝選手の唾液を採って疲労度を調べ、心理学や睡眠のエキスパートも招聘。心身のケアを施すしている。メダルを獲るべく、有形、無形の力を総動員するのである。

正式就任前を含め計5度の国内候補合宿を経て、7月20日からの3日間はサンフランシスコでのワールドカップセブンズに参加した。新体制にとって初めての世界大会では、目標の8強入りに届かず15位で終戦。2日目以降はややガス欠状態だった。

しかし初日、一筋の光を灯していた。リオデジャネイロで金メダルを獲ったフィジー代表との大会2回戦では、序盤からキックオフの確保とオープン攻撃で自軍ボールをキープ。勢いに乗ったら怖いフィジーのミスやペナルティーを誘い、前半は10-7とリードできた。後半に自滅して10―35と屈するも、東京五輪本番におけるジャイアントキリングのシナリオを示せたと言えよう。

重責を担って間もない頃、岩渕はこうも口にしていた。

「ラグビーのスキル(を高めること)は当然として、他にも色々なことをして勝つ可能性を高めていく。それを2年間、継続しなくてはいけません」

ラグビー愛好家には快挙とわかるリオデジャネイロ大会での4位入賞だが、一般層の記憶にはあまり定着していない。だからこそ岩渕は、この国のラグビー界発展のためにもメダルが欲しいという。今後も鍛錬を重ねながら、メダル奪取への具体策を練る。勝負はここからだ。

(スポーツライター・向風見也)

写真:AFP/アフロ

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