東日本大震災から12年…甦る美しい三陸の海「水中から見た復興のいま」
撮影/鍵井靖章
海底に沈んだ瓦礫の隙間から、新しい命が誕生している
三陸の海は2つの海流がぶつかり、多くの魚たちが棲む
そこには生き物や自然の力が生み出した息を呑む景観があった――

「いざ海に出てみると、水面には流木やロープが漂い、人工物が浮いていて、思ったように進めませんでした。漁師さんに方向を指示しても、『ロープがあって行けないよ』と言われてしまい、海上を彷徨(さまよ)ったのを、昨日のことのように覚えています」
水中写真家・鍵井靖章(かぎいやすあき)氏は、震災直後の三陸の海についてそう振り返る。あれから12年、陸上での復興は徐々にではあるものの、着実に進んでいる。では一方の海はどうか。長年にわたって見つめてきた水中の世界を、鍵井氏が明かす。
「震災から3週間後に三陸の海に潜りました。普段から人工物はある程度あるものなのですが、それらはだいぶ時間が経って腐敗したものなんです。ところが、この時は、まるで昨日まで人間が使っていたようなリアルな人工物だらけでした。その現実を突きつけられ、地震の恐ろしさ、そして津波の恐怖を改めて認識しました。濁った海中でフィンキックを1回、2回もすれば、まだ弾けそうなピアノがあったり、車があったり、生活感のあるものがそこら中にありました」
これまでにない衝撃を受けた鍵井氏は、毎年何度も通い続けるうちに、復興が行き届かない海中で、ある変化に気づいたという。
「何度潜っても、同じものが同じ所にあるんですよ。海底はなかなか掃除できませんから。扇風機も震災直後と変わらずそこにある。潜り始めて7年が経ったころ、そんな変わらないものを忘れて、隣の岩肌に向けてシャッターを切ったんです。すると、赤や黄色の南国の海にも負けないカラフルな色があり、魚たちが元気に泳いでいる。それまでは震災の被害で頭がいっぱいになり、こんな美しい光景に気づくことができなかったんです」
夏になれば海藻が繁茂し、12月になればアイナメが卵を産みつけている。視点を変えることで、鍵井氏の眼には震災前から変わらない三陸本来の美しい景色が広がっていった。課題となっている海底にある人工物の処理も、少しずつではあるが行われている。
水中カメラマンの第一人者でさえ、ここまでに7年もの月日を要した。それほどの時間が必要なほど、東日本大震災が三陸の海にもたらした被害は計り知れないものだったのだ。
いまもなお海に眠る震災の爪痕

2011年
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2014年
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2022年


三陸で見つけた鮮彩なオアシス






『FRIDAY』2023年3月24日号より
撮影:鍵井靖章