「ある病気」にかかりやすいことがきっかけで…いま日本中から「ソメイヨシノ」が消えていっている理由 | FRIDAYデジタル

「ある病気」にかかりやすいことがきっかけで…いま日本中から「ソメイヨシノ」が消えていっている理由

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ソメイヨシノの寿命は60年? しかし、樹齢100年以上の木も…この差はなんなのか

「実は、日本花の会では、’05年から『ソメイヨシノ』の苗木の出荷、生産を行っていません」

こんな衝撃的なことを言うのは、これまでに250万本もの桜の苗木を国内外に送り、桜の名所づくりをしている公益財団法人日本花の会の小山徹さん。

桜の名所に植えられている桜が「ソメイヨシノ」ではなくなっている!?
桜の名所に植えられている桜が「ソメイヨシノ」ではなくなっている!?

なぜ? 桜の代名詞とも言われるソメイヨシノなのに…。

「“サクラ類てんぐ巣病”に罹病しやすい。ソメイヨシノは、エドヒガンとオオシマザクラを交配して作られたといわれています。エドヒガンは“サクラ類てんぐ巣病”に強いのに、なぜか、その子どものソメイヨシノは罹病しやすい」

「サクラ類てんぐ巣病」とは、葉の裏にカビの一種でタフリナ菌と呼ばれる胞子がつき、どんどん感染させてしまう病気。感染した枝は花が咲かなくなり、鑑賞性も落ちてしまい、放置しておくと罹病した枝ぜんぶが枯れ落ちてしまうこともあるとか。

ソメイヨシノの特徴として樹全体に淡いピンクの花を咲かせる美しい桜だが、サクラ類てんぐ巣病にかかると花の時期に葉も出てしまう。その葉の裏面にカビの胞子がついているのだ。

そこで、日本花の会が2005年にソメイヨシノの後継品種に選んだのが、神代曙(ジンダイアケボノ)、小松乙女、陽春、アメリカの4品種であった。どれも、サクラ類てんぐ巣病に罹病しにくく、ソメイヨシノと同じ時期に咲く。なお現在は、神代曙をはじめ、舞姫など「樹勢が強健で、鑑賞性が高く、開花期の異なる8品種」を同会では配布苗木の対象品種として推奨している。

とはいえ、ソメイヨシノでないのは、なんとなくさびしい…。

「そう思う人が多く、“桜=ソメイヨシノ”のイメージが強かったですね。なので、国立劇場の前に植えたりして、みなさんに知ってもらうところから始めました」

今では埼玉県熊谷市の小江川地区には1000本の神代曙の桜並木が作られ、桜の名所となっている。ほんのり淡いピンクのソメイヨシノとよりピンクが濃い神代曙。かわいいけれど、ソメイヨシノはなくなってしまうのか。

「ソメイヨシノはなくなりません。きちんと手入れの行き届く公園や住民ボランティアの桜守などが見守ることで咲き続けるでしょう」

街路樹からは消えていってしまうのだろうか。

サクラ類てんぐ巣病に罹病したソメイヨシノ。樹の高いところに小枝が巣のような形を作る。天狗の巣に似ていることから“サクラ類てんぐ巣病”と呼ばれる(PHOTO:日本花の会提供)
サクラ類てんぐ巣病に罹病したソメイヨシノ。樹の高いところに小枝が巣のような形を作る。天狗の巣に似ていることから“サクラ類てんぐ巣病”と呼ばれる(PHOTO:日本花の会提供)
2010年から毎年100本ずつ植え、1000本の並木となった小江川の「神代曙(ジンダイアケボノ)」の桜並木。ソメイヨシノより少しピンクが濃い(PHOTO:日本花の会提供)
2010年から毎年100本ずつ植え、1000本の並木となった小江川の「神代曙(ジンダイアケボノ)」の桜並木。ソメイヨシノより少しピンクが濃い(PHOTO:日本花の会提供)

環境がソメイヨシノの寿命を縮ませている

ソメイヨシノの寿命は60年と聞く。サクラ類てんぐ巣病が原因なのか。

「それだけではありません。ソメイヨシノが成長するために必要なのは、太陽と肥沃で水はけのいい土地。植えたころは日当たりがよくても、その後建物が建って日当たりが悪くなることもありますし、狭い植栽基盤で植えられたり、十分に根が伸ばせられる土壌改良がなされない場合は、水も養分も十分吸収できないために徐々に樹勢が衰えるケースもあります。 

枝が混みすぎていると風通しが悪くなって、病害虫が付きやすくなる。それも桜を弱らせる一因です」

成長すると高さ10m、横にも10mほどにも広がるソメイヨシノ。日本花の会では苗木を送るとき、木と木の間は10m離すように指導しているというが、

「小さな苗木を10m離して植えるのはさびしいと思うのでしょう。 

その間にも植えてしまい大きくなってきたら切れば良いと思うようですが、実際には桜が咲きだすとその間の桜を切ることができずに、そのままにしてしまう。そうなると桜同士の枝が絡み合ってしまい、将来的に良くありません」

枝が伸びすぎて電線の邪魔になるからと、安易に剪定すれば、そこから“腐朽菌”が入り込む可能性もある。ソメイヨシノはケアなしには生きられないのだ。

1986年に、昭和天皇在位60年を記念して植えられた皇居外苑のソメイヨシノ。十分な植栽間隔がとられているため、枝がよく伸びている(PHOTO:日本花の会提供)
1986年に、昭和天皇在位60年を記念して植えられた皇居外苑のソメイヨシノ。十分な植栽間隔がとられているため、枝がよく伸びている(PHOTO:日本花の会提供)

ソメイヨシノがもっとも美しく咲き誇るのは樹齢30~40年

そもそも“ソメイヨシノの寿命60年説”が言われるようになったのは、1冊の本がきっかけだ。2001年に『サクラを救え―「ソメイヨシノ寿命60年説」に挑む男たち』という本がそれ。しかし、小山さんは、

「ソメイヨシノの寿命が60年ということはありません。福島県の開成山公園には明治11年(1878年)に植えられたソメイヨシノがありますし、青森県の弘前公園にも明治15年(1882年)に植えられたソメイヨシノもあります。いずれも樹齢140年を超えています。また樹齢90年以上のソメイヨシノは全国にたくさんありますよ」

と言う。

樹齢1000年以上と言われる福島県三春町の天然記念物「三春の滝桜」。ソメイヨシノの親であるエドヒガン系の枝垂桜だ。エドヒガンの遺伝子を受け継いでいるのだから、ソメイヨシノも長寿のはずだが…
樹齢1000年以上と言われる福島県三春町の天然記念物「三春の滝桜」。ソメイヨシノの親であるエドヒガン系の枝垂桜だ。エドヒガンの遺伝子を受け継いでいるのだから、ソメイヨシノも長寿のはずだが…
明治15年(1882年)に植えられた弘前公園のソメイヨシノ。きちんとケアすればソメイヨシノは100年以上咲き続ける
明治15年(1882年)に植えられた弘前公園のソメイヨシノ。きちんとケアすればソメイヨシノは100年以上咲き続ける
リンゴの栽培技術を桜にも応用して剪定され、60年以上たっても樹勢が保たれている弘前公園のソメイヨシノ
リンゴの栽培技術を桜にも応用して剪定され、60年以上たっても樹勢が保たれている弘前公園のソメイヨシノ
約8万3000㎡の敷地に400種もの桜が育てられている、茨城県にある日本花の会の結城農場。写真は、「十色桜の並木」。毎年「サトザクラ」という品種が見ごろを迎える4月中旬に一般公開されている(PHOTO:日本花の会提供)
約8万3000㎡の敷地に400種もの桜が育てられている、茨城県にある日本花の会の結城農場。写真は、「十色桜の並木」。毎年「サトザクラ」という品種が見ごろを迎える4月中旬に一般公開されている(PHOTO:日本花の会提供)

しかし、どうしてこんなタイトルが本につけられたのだろう。

「ソメイヨシノは江戸時代末期に染井村(現在の東京都豊島区)の植木職人が売り出したものと言われています。戦後の混乱期には、多くの桜が切り倒されて燃料として使われた桜もあったと聞きます。 

その後世の中が落ち着いて昭和25~26年ごろから全国にソメイヨシノが植えられるようになったのですが、それらが樹齢50年を迎えるころから、徐々に樹勢が衰えていきます。桜を楽しむだけで適切な剪定や施肥を行わなかったことで、樹が弱ってしまいそこから寿命60年説が出たものと思われます」

小山さんによると、ソメイヨシノがもっとも美しく咲き誇るのは樹齢30~40年。

「人間も年を重ねると、病気もするし、いろいろ具合が悪くなってくる。樹も同じです」 

花つきがよく、成長が早く、花が咲いたあとに葉が出るという特徴のために観賞用として愛されているソメイヨシノ。

手入れが十分でないために切られてしまうなんて、なんだかソメイヨシノがかわいそうになってきた。

「人と暮らしていく木は、人の管理が必要です。サクラ類てんぐ巣病も、早いうちに病気にかかった枝を切れば感染を防ぐことができます」

ソメイヨシノでお花見したければ、ケアしていくほかないのだ。

公益財団法人日本花の会 花をこよなく愛した、建設機械メーカーコマツの当時の社長、河合良成氏の提唱により1962年4月に創設。1970年に明治神宮に枝垂桜など約1500本を植栽したのをはじめ、これまでに桜の苗木を250万本以上生産し、国内外に販売や配布を行っている。樹齢2000年ともいわれる日本最古の桜、山高神代ザクラの樹勢回復も手がけた。

  • 取材・文中川いづみPHOTOアフロ

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