<h3>コロナの感染拡大に電車での移動はやはり関係していた</h3>
13日から個人の判断に委ねられることになったマスクの着用。政府が判断の参考として示す指針では、通勤ラッシュ時の混雑した電車やバスでの着用を推奨している。
ところが、JR7社と私鉄、地下鉄などでつくる「鉄道連絡会」は感染対策のガイドラインを改定し、利用者への着用呼びかけについての項目を削除。鉄道各社は車内放送やポスターでの呼びかけをやめた。
要するに「個人の判断で」ということなのだろう。だが一体、何を基準に判断すればいいのか。
<figure id="attachment_300929" aria-describedby="caption-attachment-300929" style="width: 5500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="04392bd0"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/03/aflo_194008465.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-300929" class="wp-caption-text">「個人の判断」と言われても…。13日以降も、日本人の多くはしっかりマスクをしている（写真はイメージ：アフロ）</figcaption></figure>
そこで注目したいのが、内閣官房研究開発チームの一員としてコロナの感染防止対策に携わってきた東京大学大学院工学系研究科・大澤幸生教授が、データ分析とシミュレーションによって導き出した結論。「やはり要注意“公共交通機関”」とする知見を発表した大澤先生に、電車内の感染リスクについて聞いた。
「要注意」ということは、電車内はやはり危険なのだろうか。
「これまで、電車の中は比較的、安全とする説がありました。頻繁にドアが開いて常に換気ができている、乗客がマスクをして黙って乗っている。だから、それほど危険ではないと。そうかといって、電車内で感染が拡大していないという根拠もなかったわけです。 
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私は今回、Agoopのポイント型人流データから、やはり電車は感染リスクが高いという結論を得ました。使用した人流データというのは、スマホアプリから東京62区市町村で取得した個人の位置情報をデータ化したもので、移動の速度や方向を把握することができます」
このデータから、人の移動の速度と感染者数が相関の関係にあることがわかるという。
「ちょっと乱暴に言えば、相関係数（2種類のデータの関係を示す指標）は0.4を超えると、まあまあ相関関係だと言われます。電車に乗っているであろうと推測できる移動速度と感染者数の相関係数は、2020年の冬で0.56。これは十分に高い値です。 
人の歩行速度は毎秒１～1.5メートル程度ですが、2020年冬のデータで感染者数が多くなるのは、移動の速さが平均で毎秒2.0メートル以上の領域です。首都圏でラッシュ時の鉄道利用者数がコロナ禍以前と比べて6～7割減った時期なので、約1.5パーセントの人が電車などを使って移動したと考えると平均秒速が2.0くらいになります。 
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ところが2021年の夏になると、人の移動速度が上がるにつれて感染者数が減っているんです。しかも、移動速度の平均は約4.6メートルとなっている。2021年から2020年にかけて自家用車の利用が非常に増えたことが、平均速度が上がった理由と考えるのが妥当です。 
私たちが以前の研究ですでに示していますが、乗用車を利用すると感染拡大のリスクは低くなります。この事実から、2020年冬の感染者数の増加は、電車やバスの利用が原因だったと考えられるわけです」 
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<h3>多様な人が集散するターミナル駅の周辺ではマスク着用を</h3>
大澤先生は内閣官房のサイトで、「電車」を利用するために人が集まる「駅」についても知見を発表している。感染が拡大しやすいのはどのような駅かを導き出すために、「移動方向エントロピー」という数値を自身で考案した。これは、スマホを持った個人がどの方角に向かうか、そのばらつきを示すものだという。ちなみに、「移動方向エントロピー」と「コロナ感染者数」の関連性をデータ化したのは大澤先生が初めてだ。
「人が移動する方向のばらつきが大きい市区町村は感染リスクが高いことが、分析結果からわかりました。その相関係数は2020年の冬で0.78、2021年の夏で0.89に達しています。 
各街で人の往来が最も多い場所はどこかといえば駅です。朝は多方向から多様な人が駅に集まり、夜は駅から多方向に散っていく。 
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ただし、新宿駅や池袋駅、渋谷駅などのターミナル駅と、東大の最寄り駅とでは、移動方向エントロピーはまったく違います。東大の最寄り駅の場合は、下車した人の大多数は大学に向かって歩いていきます。移動方向エントロピーが低いので、感染のリスクは低いんです。一方、ターミナル駅は多方面から多方面への人の移動がある。そういう駅と駅周辺は、感染リスクが高いわけです」
ターミナル駅ともなれば、飲食を楽しんでから電車で帰宅する人の行き来も多い。マスクをしたほうが安全なことは確かだろう。
「ターミナル駅に向かっている段階からマスクをするのがいいでしょうね。電車の中は人と話をしないから大丈夫だと考える人もいるもしれませんが、決して安心はできません。電車内で感染が拡大したことを示す結果が出ていますから、混雑する時間帯はマスクをしたほうがいいと思います」 
<figure id="attachment_300932" aria-describedby="caption-attachment-300932" style="width: 1700px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="d081362b"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/03/f10bd8be6faeabf273e5577d40e984bc.png" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-300932" class="wp-caption-text">大澤先生が検証に使ったグラフ。横軸は「移動方向エントロピー」、縦軸は、人口１万人あたりの感染者数。その相関係数は2020年の冬で0.78、2021年の夏で0.89に達している（資料提供：大澤幸生教授）</figcaption></figure>
<h3>政府の言うことを聞いていればいいという発想がそもそも間違い</h3>
ところで、大澤先生が関わっている内閣官房のシミュレーションプロジェクトは、今後も続くのだろうか。
「今年から社会実装のプロジェクトが始まっているので、それはちゃんと続いてほしいと個人的には思っています。分析やシミュレーションの結果を社会実装するためのプロジェクトで、たとえば、市町村の住民を対象にワークショップを開き、どんなことに気をつけたらいいか自分で考えて地域に持ち帰ってもらうといったことをしています。このような試みこそ必要でしょう。政府の言うことを聞いていればいいという発想がそもそも間違いですから」
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マスクの着用にしても「国に判断基準を決めてもらいたい」「周りに合わせる」と、なかなか自分で決められないのが日本人だ。
「13日以降も皆さんマスクをしていますね。『周りの人がしているから』という声をよく聞きますが、もっと根拠のある判断が大切です」
共同通信社が11～13日に実施した全国電話世論調査によると、マスクについて「これまでと同じように着用する」との回答が56.8パーセントだった。一体いつまで着用を続けるつもりなのだろう……。
「電車内やターミナル駅の周辺など、気をつけなければいけない場所ではマスクを着用する。自分の判断に基づき、メリハリをつけて着脱するべきだと私は考えます」 
<figure id="attachment_300987" aria-describedby="caption-attachment-300987" style="width: 4589px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="cc686a8c"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/03/aflo_213279035.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-300987" class="wp-caption-text">3月13日に行われたWBC１次ラウンドの観客席も…</figcaption></figure>
大澤幸生（おおさわ・ゆきお）東京大学工学系研究科システム創成学専攻教授。1968年京都生まれ。1995年に東京大学工学研究科で工学博士を取得後、大阪大学基礎工学研究科助手、筑波大学ビジネス科学研究科助教授、東京大学情報理工学研究科特任助教授などを経て2009年より現職。専門はシステムデザイン、知識工学、ビジネス科学。チャンス発見、データジャケットに基づくイノベーション市場、データの可視化と価値化などを研究。

斉藤さゆり

アフロ

「マスク着用は個人の判断で…」。だが一体、何を基準に判断すればいいのか。内閣官房研究開発チームの一員としてコロナの感染防止対策に携わってきた大澤幸生教授は、「やはり“公共交通機関”は要注意」と言う。

「個人の判断で」…電車のマスク着用は結局どうすればいいのか？東大教授がデータから導き出した結論

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