「ドキュメンタリーのサブスク」代表が直言 日本は取材相手の格好良いところを撮ってばかり!
アジアンドキュメンタリーズ 「欧米と日本はこんなに違う」海外の優れた作品を世界中に発信
「今の日本では、視聴者が心地よくなって、『あー、すごいな。格好良い』ってだけで終わってしまうノンフィクション作品が圧倒的に多い。それは”ドキュメンタリー”ではなく、”情報バラエティ”だと思うのです」
イラク『わたしの、幼い息子イマド』
日本時間3月8日早朝に放送された、イギリス公共放送『BBC Two』制作のドキュメンタリー『Predator:The Secret Scandal of J-Pop(J-POPの捕食者 秘められたスキャンダル)』が、国内外で話題だ。
そこで描かれていたのは、芸能界の大物による性加害疑惑と、それを正視しようとしない日本人への違和感だった——。ネット上では「なぜ日本ではこういった作品が制作されないのか」という声が上がった。
アジアの国々を舞台としたドキュメンタリー番組を配信するストリーミングサービス「アジアンドキュメンタリーズ」。代表の伴野智(ばんのさとる)氏(50)は、日本の現状を苦々しく見つめる。
以下、伴野氏との一問一答である。
「日本のドキュメンタリーは、テレビでの放送が主流となっています。国内テレビ局は放送法に縛られ、公平公正な内容でなければオンエアできない。でも、ドキュメンタリーとは、そもそも作り手の意図や主張が出るものなので、完全に公平公正を担保するのは難しい。直視したくない社会の現実、これを観てあなたはどう思いますか、っていう問いかけが本来のドキュメンタリーの役割であり、魅力だと思います」
──ドキュメンタリー制作は、どの国がトップランナーだと思いますか?
「例えばデンマークやフランスだと思います。成熟した民主主義が根付いており、優れた作品が多いと感じます。民主主義というのは、個人が政治に参加するという意味でもあると思っています。ドキュメンタリーは、視聴者にとって、今の社会がこれでいいのかどうか判断する材料になります。けれども、ドキュメンタリー専門チャンネルは圧倒的にアメリカやヨーロッパのものが大半です。だからこそ、僕はアジアのドキュメンタリーを取り上げようと思いました」
──アジアではドキュメンタリーの制作は活発でないのでしょうか。
「同じアジアでも、中国や韓国で制作されたドキュメンタリーは世界の市場に出ています。中国の作家たちは、表現を試行錯誤し、国家検閲をかいくぐって作品を国内外にむけて発表している。その一方で”地下ドキュメンタリー”もある。政府にバレないよう秘密裏に制作し、検閲も拒否。それを世界の映画祭で発信しているんです」
──欧米より制作側の制限が多いと。
「欧米に比べて民主主義が根付いていないアジア圏では、他国に向けたドキュメンタリーは自由を勝ち取るための力となります。命がけの制作者も多い。共産党の一党独裁政治のベトナムでは、政権批判をすれば即逮捕されてしまいます。
日本では検閲などの制限がなく、テレビ以外にも発表の方法は沢山ある。にもかかわらず、日本人は日本人の満足のためだけにドキュメンタリーを作っている気がします。井の中の蛙(かわず)とならずに世界を見て、自国を見つめなおす。俯瞰する目がないと、その国が抱える病巣は見えてこない」
現在、放送法の解釈変更を巡り、国会が紛糾している。我々の身の回りで何が起き、何が失われているのか。どんな危機が訪れるのか。直視しなければならない時が来ている。
韓国『38度線に潜る男』
韓国『共犯者たち』
インド『街角の盗電師』
リトアニア『優しい戦士たち リトアニア徴兵制復活』
※紹介作品はすべてアジアンドキュメンタリーズにて配信中
『FRIDAY』2023年3月31日・4月7日号より
- PHOTO:濱﨑慎治(2枚目) アジアンドキュメンタリーズ