3月22日、侍JAPANがWBCで14年ぶりの優勝を果たした。1点を先制されるも、村上宗隆、岡本和真などのホームランで勝ち越し。最後は8回をダルビッシュ有、9回を大谷翔平が投げる”豪華リレー”で、アメリカ代表の追撃を3-2の1点差で振り切った。
「5回以降はアメリカの投手陣を捉えきれず追加点が取れない嫌な流れでした。8回にはダルビッシュが被弾し、1点差に迫られるなど緊迫した展開でした。しかし、最後は大谷がチームメイトであり、メジャーを代表する打者であるマイク・トラウトから三振を奪い、王座奪還を果たしました」（スポーツ紙記者）
本誌「FRIDAY」では、大谷やダルビッシュなど、侍JAPANの主力メンバーたちが、まだプロになる前に”勝った男たち”の証言を3月31日・4月7日号で掲載。彼らがいかに昔からけた外れだったのかを詳報している、”14年ぶりの王座奪還”を祝して、以下に再録する。
「同じチームに&#8221;超高校級&#8221;の藤浪（晋太郎・28）がいましたから。藤浪を相手にするつもりで打席に立ったんですよね。でも……彼は全然レベルが違いました」
そう語るのは、’12年に甲子園春夏連覇を達成した大阪桐蔭で４番を務めた田端良基さんだ。「彼」とは、MLB・エンゼルスの大谷翔平（28）のことである。
<h3>大谷翔平 (28) 
出身高校：花巻東（岩手県）</h3>
<figure id="attachment_301252" aria-describedby="caption-attachment-301252" style="width: 2116px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="79c9eb9d"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/03/151697c1d356385460c9d5062e7cda04.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-301252" class="wp-caption-text">’12年には韓国で開催されたU−18世界選手権に参加。暇を見つけては素振りやシャドーピッチングに励むなど、努力を怠らなかった</figcaption></figure>
３月８日に開幕したワールド・ベースボール・クラシック（以下WBC）もいよいよ佳境を迎えている。「史上最強」の呼び声通り、順当に予選を勝ち上がった侍ジャパンだが、彼らにはそれぞれ「原点」ともいえる経験がある。高校時代、日本代表メンバーと対戦し、打ち破ったライバルたちが″勝ったからこそわかる″その圧倒的な実力を明かす。
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冒頭の田端さんは「甲子園で唯一、大谷からホームランを打った選手」だ。’12年、センバツ１回戦で両者は相まみえた。
「すごい投手だと聞いていましたが、藤浪以上なわけないやろと思ってました。でも、低めのストレートを見て驚いた。ワンバウンドするような軌道だったので見逃したら、スピン量がすごくて、まったく落ちずにストライクゾーンに食い込んできた。『なんでやねん！ 漫画ちゃうぞ』って頭の中でツッコみましたね（笑）」
田端さんは投手・大谷に対し、１打席目は死球、２打席目は三振に倒れる。それでも３打席目に大谷から初安打を放つと、続く第４打席にその瞬間は訪れた。
「翔平は途中からストレートを投げてこなかった。もともと変化球は得意でしたし、前の打席ですでにタイミングも取れていたので、甘く入った球をレフトスタンドへ運ぶことができました。U-18日本代表の合宿でその時の話をしたら、ベンチからの指示で変化球主体の攻めにしたようです。そのままストレートで来られていたら、まず打てなかったですね」
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’11年の夏の甲子園初戦で大谷と戦い、勝利を収めた帝京（東京）のエースだった伊藤拓郎さんは、打者・大谷の才能を目の当たりにした。
「スイングスピードがエゲツない。第２打席はセカンドライナーに打ち取ったんですが、打球音がした瞬間には、もう球がセカンドまで飛んでいた。反対方向への打球の伸びもすごくて、詰まっているのに甲子園のフェンスまで持っていく。対戦していて、思わず笑ってしまいましたね」
前出の田端さんは「実力は言わずもがな、人としても完成していた」と語り、球場外での交流についても明かした。
「今でも新年の挨拶は毎年しています。翔平がWBCへの参加を表明したときも、LINEで『WBC出るんや。頑張って』と送ったら律儀に『ありがとう』と返信がありました。僕なんて高校時代に１回しか対戦していないのに、めっちゃいい人ですよね。そういう謙虚な姿勢が、成功の秘訣なのかと思いました」
<h2>ダルを変えた奇跡のヒット</h2>
大谷と並び、侍ジャパンで絶大な存在感を誇るのがパドレスに所属するダルビッシュ有（36）だ。本人が人生の転機の一つとして挙げる’03年夏の甲子園決勝戦では、２-４で常総学院（茨城）に惜敗した。常総学院のキャプテンで４番を務めた松林康徳さんが当時を振り返る。
「試合前に木内幸男監督から『ヒットを打ったら孫の代まで自慢できるぞ』って言われたんですよ。『試合なのに何を呑気に言ってるんだろう』と思いましたが、いざ打席に立ったら変化球は消えるしストレートは当たらないし、打てるなんて一ミリも思わなかったですね（笑）」
試合は２回裏に東北が２点を先制する。しかし、常総学院も黙っていない。４回に３点を挙げ逆転すると、８回には松林さんのライト前ヒットに相手のエラーが重なり、ダメ押し点に。松林さんは&#8221;奇跡のヒット&#8221;だったと明かす。
「あまりに当たらないもんだから、開き直って目をつぶって、思いっ切りバットを振ることだけを意識したんです。冗談ではなく、本当に目を閉じてスイングしました。そしたらたまたま当たった。だから何を打ったのか、どうやって打ったのかはまったく覚えていません。それくらい、どの球種も超高校級でした」
試合後、ダルビッシュは人目をはばからず大粒の涙を流した。後に本人は、決勝戦前夜に監督の元に「先発で最後まで投げさせてください」と直談判しにいったと明かしている。それほど、この一戦にかける想いは強かった。
この挫折を糧に一回り大きくなったダルビッシュは翌年も春夏ともに甲子園に出場。春はノーヒットノーランを、最後の夏は２試合で完封勝利を果たすも３回戦で姿を消した。しかし、試合後の会見では「悔いはない」と語り、二度と涙を流すこともなかった。松林さんが振り返る。
「’03年夏に優勝したのは確かにウチでしたけど、当時から実力的には間違いなくダルビッシュ選手が大会ナンバーワンだったと思います。今や日本を代表する投手ですが、技術的にもメンタル的にも、当時からその可能性を秘めていました」
そんな二大スターに負けず劣らずの輝きを放つのが千葉ロッテの佐々木朗希（21）だ。５年前、秋季岩手大会の準決勝で&#8221;令和の怪物&#8221;と対戦した盛岡大附属高校の平賀佑東(ゆうと)さんが語る。
「対戦当時、佐々木選手はまだ２年生でしたが、その剛腕ぶりは有名だったので、しっかり対策をして試合に臨みました。野球部に『ローキ君』と名付けられた最速172㎞を投げられるピッチングマシンがあるんですけど、それをマウンドから６ｍ手前に置いて、ひたすら打ち込んで目を慣らしました。それでも打席に入った時は速く感じたから焦りましたよ。ただ、当時は鋭い変化球がなかったので、ストレート狙いで７回に決勝打を打つことができました。今みたいなフォークがあったら不可能だったでしょうね」
強心臓ぶりにも驚かされたという。
「スタンドは観客で埋め尽くされていて、佐々木選手の一挙手一投足に歓声が上がる。普通の高校生だったら緊張すると思うんですけど、彼は顔色ひとつ変えずに投げていて、すごいメンタルだと思いましたね。選手として、圧倒的な差を感じたのを覚えています」
この３人にオリックスの山本由伸（24）を加えた先発陣はWBC出場国でも屈指の陣容を誇る。見据えるのは高校時代に掴めなかった&#8221;テッペン&#8221;ただ一つだ。
<h3>ダルビッシュ有 (36) 
出身高校：東北（宮城県）</h3>
<figure id="attachment_301258" aria-describedby="caption-attachment-301258" style="width: 1859px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="b18f9020"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/03/7dded24818dc77daf02d3451a34ce957.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-301258" class="wp-caption-text">甲子園期間中に合宿所で取材に応じた。当時から背筋力240㎏、握力は両手ともに57㎏と、身体能力でも超高校級の数字を残していた</figcaption></figure>
<h3>佐々木朗希 (21) 
出身高校：大船渡（岩手県）</h3>
<figure id="attachment_301257" aria-describedby="caption-attachment-301257" style="width: 1871px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="4efaec05"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/03/0a3d52f40adaa5d1f693c6f52b042fcf.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-301257" class="wp-caption-text">甲子園には一度も出場できなかった。その悔しさをバネにプロの舞台でさらに進化。ストレートの最速は165㎞までアップしている</figcaption></figure>
<div data-friday-nextpage-lead="村上のパワー、吉田の技術"></div>
<h2>村上のパワー、吉田の技術</h2>
侍ジャパンの４番に座るのは、&#8221;最年少三冠王&#8221;のヤクルト・村上宗隆（23）だ。そんな村上の甲子園出場を春夏合わせて４度も阻んだのが熊本の強豪・秀岳館である。村上の同学年で、正捕手を務めていた幸地(こうち)竜弥さんは’17年夏の県予選・決勝をこう振り返る。
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「村上選手は外角が苦手だったので徹底してそこを狙いました。高さだけ間違えないようにと、投手陣とは綿密な打ち合わせを行いました」
作戦は功を奏し、内野安打こそ許したものの４打席で３三振と抑え込んだ。その背景には、新入生の時に見た、１年生の村上が放った120ｍ超えのホームランがあるという。
「当時からパワーは規格外でした。甘く入ったら全部ホームランにされると思わせるほどで、長打力はズバ抜けていましたね。甲子園でもいろんな打者と対戦しましたけど、高校時代は村上選手以上の打者はいなかった」
１次リーグでは好調なチームと裏腹に打率.143と低迷した村上。かつてのライバルの苦しい現状をどう見ているのか。
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「プロになった後に一番驚いたのが、外角の球でもホームランを打てるようになっていたことです。手首の返しがスムーズになっていて、対応できる範囲が広がった印象です。１次リーグでも最後の２試合はヒットを打ちましたよね。適応期間は終わったはず。これからの爆発に期待しています」（幸地さん）
金沢高校（石川）のエース・釜田佳直さんは、日本代表の５番を務めるレッドソックス・吉田正尚(まさたか)(29)としのぎを削ってきた。’10年の秋季北信越大会準々決勝で対戦した両者だが、試合前、釜田さんは吉田攻略に自信満々だったという。
「武器であるストレートとスライダーを強打者の泣き所であるインコースに投げ込めば、抑えられると考えていました」
実際に試合では吉田を５タコに切って取った。しかし初めてスイングを体感したときの衝撃は、今でも忘れられないという。プロトップレベルで時速150㎞と言われる中で、吉田は高校時代に時速148㎞をマークしていた。
「第１打席は狙い通りサードフライに打ち取りました。しかしそのフライの高さには驚きました。内野フライなのに全然落ちてこないんです（笑）。屈強な打者が多い敦賀気比(つるがけひ)の中にあって、ひと際小柄にもかかわらず、どのバッターよりも遥かにスイングが鋭かったんです」
スイングが速ければ、どんな球でもギリギリまで待って対応できる。「日本で一番、三振しない男」と呼ばれる吉田の片鱗は、この頃すでに垣間見えていた。
「当時は今ほど対応力が高くなかったので、なんとか最後まで抑えることができました。その後、僕は楽天イーグルスに入団し、彼もオリックスに入った。プロの舞台で何度も対戦しましたが、そのたびに成長を痛感させられました。最後の対戦は’20年。ライトに、綺麗な二塁打を打たれたことをよく覚えています」
プライベートでも交流があるという二人。釜田さんは「そのひと振りで世界を驚かせてほしい」とエールを送った。
そんなクリーンナップの後に控えるのが３度のパ・リーグホームラン王に輝いた西武ライオンズの山川穂高（31）である。現在は球界屈指の強打者に成長した山川だが、’09年の夏の甲子園・沖縄大会決勝戦では辛酸を舐めている。
「豪快なフルスイングと逆方向へのホームランが代名詞で、当時から県内では有名な存在でした」
こう語るのは対戦した興南高校のエース島袋洋奨(ようすけ)さんだ。トルネード投法を武器に、翌年には史上６校目となる春夏連覇の偉業を成し遂げている。
「初対決は、２アウト満塁の場面でした。山川さんは芯を外した打球でもホームランやヒットにしてしまうので、フルスイングをさせないために狙い球を絞らせない配球をしました。ストレートとスライダーを内外に投げ分けて追い込み、最後はアウトコースいっぱいのストレートで見逃し三振に抑えました」
抜群の安定感を誇った島袋さん。しかし、山川は「精密機械」を力でねじ伏せようとした。
「次の打席ではこちらの狙いを読んで勝負球のストレートをフルスイングされました。それでも『詰まらせた』と思ったんです。普通ならなんてことはない三遊間へのゴロですが、打球速度が速すぎてレフト前ヒットにされた。対応力といい、パワーといい、さすがだと思いました」
取材の中でかつてのライバルたちは、「戦ったことを誇りに思います」と口をそろえた。共に戦い、誰よりもその実力を熟知しているからこそ、彼らは侍ジャパンの世界制覇を確信している。
<h3>村上宗隆 (23) 
出身高校：九州学院（熊本県）</h3>
<figure id="attachment_301255" aria-describedby="caption-attachment-301255" style="width: 1764px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="0524a6b1"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/03/25bbcea092e3ad9bf581c5b3d305dc03.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-301255" class="wp-caption-text">強豪校で1年生から４番を務めた。高校通算52本塁打を放ち、「肥後のベーブ・ルース」と呼ばれ、恐れられた</figcaption></figure>
<h3>吉田正尚 (29) 
出身高校：敦賀気比（福井県）</h3>
<figure id="attachment_301254" aria-describedby="caption-attachment-301254" style="width: 1782px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="d115f231"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/03/18d33262ebd56530261064a05d416300.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-301254" class="wp-caption-text">高校通算52本塁打というパンチ力に加え、甲子園では通算打率3.13という安定感抜群のパフォーマンスを披露</figcaption></figure>
<h3>山川穂高 (31) 
出身高校：中部商業（沖縄県）</h3>
<figure id="attachment_301253" aria-describedby="caption-attachment-301253" style="width: 1836px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="9d1e7e6f"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/03/584fb1b059590f8237eb1805bb3ea008.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-301253" class="wp-caption-text">当時から並外れたパワーを誇っていた山川。甲子園優勝投手との激闘を経て、大学では日本代表に選ばれるスラッガーに成長した</figcaption></figure>
<figure id="attachment_301256" aria-describedby="caption-attachment-301256" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="97afee14"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/03/f78dfd4310c0a3f73edc09c74b74460f.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-301256" class="wp-caption-text">４人の現役メジャーリーガーを中心に日米の球界を代表するスターが集結。14年振りの世界一奪還なるか</figcaption></figure>
『FRIDAY』2023年3月31日・4月7日号より

荒川祐史（大谷）　霜越春樹（ダルビッシュ）　船元康子（佐々木）　アフロ（村上、吉田、集合写真）　共同通信社（山川）

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