ノンフィクション作家。産経新聞社で警察庁記者クラブ、警視庁キャップ、神奈川県警キャップ、司法記者クラブ、国税庁記者クラブなどを担当しフリーに。近著に『俺たちはどう生きるか　現代ヤクザのカネ、女、辞め時』（講談社＋α新書）。

尾島 正洋

<figure id="attachment_303023" aria-describedby="caption-attachment-303023" style="width: 2263px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="d38fc076"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/03/IMG_0872-1-1.jpeg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-303023" class="wp-caption-text">フィリピンから強制送還された渡辺（PHOTO：蓮尾真司）</figcaption></figure>
「ルフィ」などを名乗る人物らによる指示で首都圏を中心に発生した連続強盗事件は、実行犯たちが次々と逮捕され、警視庁による取り調べが本格化している。一連の事件のうち、&#8217;23年１月に東京都狛江市で発生した強盗殺人事件では、逮捕されていた実行犯らが３月16日に強盗致死罪で起訴された。強盗致死罪の法定刑は「死刑または無期懲役」のため刑事裁判で有罪の場合は厳しい判決が予測される。
一方で、指示を出していたとされる渡辺優樹（38）ら４人の逮捕容疑は今のところ、特殊詐欺事件に関係する窃盗罪のみ。窃盗罪や詐欺罪は「10年以下の懲役」などの規定のため、ルフィを名乗る指示役を特定して連続強盗事件への関与を立件できなければ、指示役と実行犯の間で刑事責任に大きな差が開くことになる。
「闇バイトに安易に応募した一連の連続強盗事件の実行犯の若者たちは、強盗殺人罪、強盗致死罪の法定刑を知らないのではないか」
続発する事件について刑事事件に詳しい弁護士が量刑について指摘したうえで、次のように解説する。
「強盗殺人罪、強盗致死罪は死刑か無期懲役しか規定がない重罰。有罪判決となったら有期刑はない。現在の有期刑の最長は懲役30年となっているため、仮に無期懲役となっても30年間は服役することになる。仮釈放の対象となるのはそれ以降。仮釈放の制度はあるが、認められるかどうかは不明だ」
強盗殺人罪は金品を奪うために殺意を持って被害者を死亡させた場合に適用される。今回、起訴理由となった強盗致死罪は金品を奪おうと押し入り被害者に暴行したところ、結果として死なせてしまった場合で、犯行での殺意の有無に違いがある。ただ、殺人罪の「死刑または無期懲役、５年以上の懲役」と比較しても、金品のために命を軽視しているといった点から悪質性が高いとされ量刑は非常に重い。
<div data-friday-nextpage-lead="警察が行っている“電子鑑識”とは何か？"></div>
<figure id="attachment_303026" aria-describedby="caption-attachment-303026" style="width: 1363px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="55df4344"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/03/5978a014bc8c4f9704c261150a1e92a7.jpeg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-303026" class="wp-caption-text">複数の事件に関わっていたと思われる永田（写真は一部加工しています）</figcaption></figure>
一連の強盗事件は&#8217;21年以降、全国の14都府県で60件近く発生しており、全国各地で60人以上の実行犯が逮捕されている。なかでも&#8217;23年１月に東京都狛江市の住宅に４人で押し入り、大塩衣与さん（90）を結束バンドで手足を緊縛したうえで殺害した事件は初めて死者が出たことで大きく報道された。
この事件で実行犯として強盗殺人容疑で逮捕された４人のうち強盗致死罪で起訴された土木作業員の永田陸人（21）は、東京都中野区で約3000万円が奪われた強盗事件でも起訴されている。このため、「裁判ではかなり重い判断が待つことになりそうだ」（前出の弁護士）。
一連の事件は、「ルフィ」「キム」と名乗る人物たちからの指示を受けて実行していたことが分かっている。フィリピンから移送されて逮捕された、渡辺のほか今村磨人（38）らによって指示があったとされているが、警察当局の捜査幹部は、「実行犯の若者たちは、誰が『ルフィ』なのかは知らないはずだ」と指摘する。
ルフィから実行犯への指示は、匿名性の高いスマホの通信アプリ「テレグラム」で行われていたが、押収されたスマホの指示内容はほぼ消去されていた。現段階では一連の事件の実行犯とルフィを共犯に問うのは非常に難しいが、デジタル・フォレンジック（電子鑑識）という技術で指示内容の復元が試みられている。
警察当局の捜査幹部は、「非常に困難だが、断片的にでも復元できれば主犯格４人のうちルフィを特定し、共犯として強盗について（刑事責任を）問うことはできないわけではない」との見通しを示す。
渡辺らについては、前述のように特殊詐欺にかかわる窃盗容疑で逮捕、再逮捕が繰り返され、今後もさらに特殊詐欺での余罪について再逮捕されるとみられる。ただ、窃盗罪、詐欺罪は「10年以下の懲役」などと規定されているため、逮捕が繰り返されても併合罪の規定で最も重い判決が下っても懲役15年止まりとなる。
現状では実行犯は死刑の可能性もあるが、共犯として指示役のルフィの強盗事件での立証がなされなければ刑事責任の落差は大きすぎると言えそうだ。
連続強盗事件の捜査の行方を注視してきた別の警察当局の捜査幹部は、「実行犯の若者たちを、使い捨ての駒のように扱っていた指示役のルフィたちが強盗事件などに関与したことを何かしらの形で立証しなければ、国民感情としては納得がいかないのではないか」と強調した。
そのうえで、「テレグラムなどの匿名性の高い通信アプリを使えば、指示役の刑事責任は問われないとなれば、この手の事件はまた起きる。同種事件の抑止のためにも今回の事件の全容を解明し、ルフィを特定して一連の強盗事件での検挙が必要だ」との考えを示した。（文中敬称略）

ノンフィクションライター。産経新聞社で警察庁記者クラブ、警視庁キャップ、神奈川県警キャップ、司法記者クラブ、国税庁記者クラブなどを担当し、フリーに。近著に『山口組分裂の真相』（文藝春秋）

尾島正洋

蓮尾真司

フィリピンから強制送還された渡辺（PHOTO：蓮尾真司） 「ルフィ」などを名乗る人物らによる指示で首都圏を中心に発生した連続強盗事件は、実行犯たちが次々と逮捕され、警視庁による取り調べが本格化している

「テレグラム」を”電子鑑識”を使って復元を試み…「闇バイト事件」警察はいま何を捜査しているのか

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