平昌から1年 本橋麻里が立ち向かう「出る杭は打たれる」世界 | FRIDAYデジタル

平昌から1年 本橋麻里が立ち向かう「出る杭は打たれる」世界

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著書の刊行に際し、取材に答える本橋(1月23日)
著書の刊行に際し、取材に答える本橋(1月23日)

本橋麻里が選手としての休養を宣言し、チームマネジメントに注力した新シーズンもクライマックスを迎えようとしている。

チームを法人化し、2010年のチーム結成から昨シーズンまで「LS北見」としていた表記を「ロコ・ソラーレ」へ統一した。自身は社団法人ロコ・ソラーレの代表理事に就任しチーム運営、例えば各スポンサーへの挨拶まわりやチーム活動の説明、チームの渡航手続きなどを引き受ける一方で、JCA(日本カーリング協会)との折衝をこなし、チームへの取材依頼などをさばく。さらにセカンドチーム「ロコ・ステラ」を立ち上げ、コーチとして後進の指導にも当たっている。

「忙しいけれど、時間が経つのが早い。楽しいです」

そう屈託なく笑うが、ある種の逆風や懐疑的な意見がまったくなかったわけではない。

カーリング界は基本的に村社会だ。

選手同士、関係者同士は大きくないコミュニティなので、風通しがいい。そのぶん、挑戦や変革、内外からの新しい動きを受け入れるまでに時間がかかる傾向は否めない。

本橋本人は多くは語らないが「出る杭は打たれる」という言葉が取材中、彼女の口から数回、出た。本橋麻里がチームを会社にして金儲けを始めた、そういう予断を持って接してきた人物もいたようだ。

しかし、「良い意見も悪い意見もあるだろうけど、それをしっかり受け止めた上で」と前置きしつつ、「やりたいことが見えてきたので、難しいけれど、挑戦するのは楽しい。どうやら私は難しい道を歩みたがる傾向があって、自分でも変だなと思います」と本人は自虐めいて語る。

彼女の「やりたいこと」は多いが、その大きな一つにカーリング界の受け皿作り、特に女子選手のそれがある。今月、発売になった著書『0から1をつくる 地元で見つけた、世界での勝ち方』の中で、トリノ、バンクーバー、平昌という、本橋が参加した3度の五輪すべてで金メダルを獲得したスウェーデン代表チームの人生設計についての言及があるが、そこで彼女は女性としての幸せを求めながら競技者としても真摯にプレーする喜びと難しさを痛感している。そしてそれを日本でも実現できると信じている。

カーリングはメンタルスポーツであるため、アイス外の過ごし方、チームを離れた時間も含め、大袈裟に言えば生き方すべてが氷上でのショットに直結する。本橋は育児からグループコミュニケーションのヒントを得たことを著書の中で紹介しているが、結婚や出産が女性のキャリアにプラスに働くことは、カーリングだけではなく現代社会でもっと認められるべき事実だろう。

著書ながら本人へのサプライズでもあった巻末の「エクストラエンド」では、夫の謙次さんが「楽しくなくなったらやめればいいだけ」と彼なりの言葉でエールを贈っているが、本橋本人が楽しんで取り組むことが何よりも重要だ。そして本人の活動と同様に、理解者の存在も欠かせない。

本橋麻里は著書を「私の挑戦は、今始まったばかり」という言葉で結んでいる。その言葉通り、4年に一度だけの注目をどう持続させてゆくか、後進の育成と指導、競技に集中できる環境作りとチーム運営etc……。必ずしもすべてが順風とはいかないが、だからこそ燃える彼女の挑戦は多岐に渡る。

そのためには、マイナースポーツ全体に共通するいくつもの課題に挑む彼女の姿勢を、我々が興味を持って面白がって見守ることもスポーツ界全体の発展につながる。彼女がこれまで通り、楽しく笑顔でチャンレンジできる社会を構築することが、本橋麻里への、カーリング界への何よりの応援なのではないだろうか。

  • 取材・文竹田聡一郎

    1979年、神奈川県出身。幼少の頃からサッカーに親しみベルマーレ平塚(現湘南)の下部組織でプレーした経験を基に、04年からフリーランスのスポーツライターとして活動.
    サッカー、カーリング、メジャーリーグベースボールなどを中心に取材を続けている。本橋麻里『0から1をつくる』では構成を担当

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