<figure id="attachment_303739" aria-describedby="caption-attachment-303739" style="width: 6000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="518ad885"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/03/KIN_0149.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-303739" class="wp-caption-text">4月1日付でテレビ東京の制作局長に昇進した伊藤隆行氏</figcaption></figure>
「そりゃ寂しい思いはありますよ……でも、引き止める理由はないですね。むしろ背中を押します」
一昨年3月に佐久間宣行氏（47）、昨年６月に上出遼平氏（34）、今年2月には高橋弘樹氏（41）と、名物プロデューサーがテレビ東京を退社した。管理職として、人材流出をどう考えているのかを問うた相手は、4月1日付けで同社の制作局長に昇進した伊藤隆行氏（50）。
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『モヤモヤさまぁ～ず2』（以下、『モヤさま』）『緊急SOS！池の水ぜんぶ抜く大作戦』など数々のヒット作を生み出すだけでなく、『ゴットタン』を手掛けた佐久間氏をはじめ、錚々たる後輩たちを育ててきたカリスマだ。
「流出していくことに対して、実はそんなにネガティブではない。テレビ局も人材がどんどん代謝する文化になるべきです。辞めても組んで仕事ができるし、外ででっかくなってくれたほうがいい。テレビマンもクリエイターで、もっと自由でいいはずです。局でできないことがあり、外にそれができる景色が見えたなら進めばいい。その代わり『テレビ東京で働きたい』という人に、どんどん入ってきてほしいです」
入社当初はドラマ班にいた佐久間氏をバラエティに引き込んだのも、伊藤氏だ。
「僕はお笑いがイマイチで、お笑い好きな人材を探していました。『お笑いやってみない？』と聞いたら、“嬉しそうだな、こいつ”って。それにカッコイイのが好きそうだから、局になかった『総合演出』の肩書をつけたんです。まだ2人共20代で周りからは『何を偉そうに』と叱られたけど、本人はノリノリでした（笑）」
キャラクターを見抜き、相手によって言い方や伝えるべきポイントを変える。人を動かす上で、欠かせない技術だ。しかし、それが上手くできる人は意外と少ない。「同じ球しか投げなかったら、キャッチボールは成立しない。別々の人間なんだから、当たり前じゃないですか？」と伊藤氏は笑った。
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そんな“猛獣”佐久間氏をどう見ているのか問うと、「猛獣は、ちょっと言いすぎかな……」と呟いたものの、「お笑いモンスター」ときっぱり。
「あれだけお笑いを愛し、愛されるやつは、そういないですよ。佐久間はお笑いが好きで、ずっと変わらない。ずっと子どもみたいに変わらないやつって、ちょっと怖いじゃないですか？（笑）でも好きなことを貫いていて、変わらないところがすごい。『お前天才じゃない？』って言うと、『ですよねー！』って、殴ってやろうかと思う（笑）。でも、自己愛に満ちているし、自分の作るものも大好きなところを止める必要ない。佐久間にとってエンジンになっているのは、例えばオークラさんをはじめとするお笑い好きの作家と芸人さん。彼らと組んで面白いものを作れるのが、喜びなんだと思いますね」
<figure id="attachment_303740" aria-describedby="caption-attachment-303740" style="width: 6000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="bdbd8645"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/03/KIN_0041.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-303740" class="wp-caption-text">『来世ではちゃんとします』シリーズや『シガテラ』など、注目のドラマプロデューサー・祖父江里奈氏と。担当領域が違う人たちと積極的に雑談し、ソリューションを生み出していく</figcaption></figure>
人気バラエティ『家、ついて行ってイイですか？』を手掛けた高橋氏には、ドキュメンタリストとしての才を感じているという。
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「高橋弘樹は元々、何でも面白がって作るタイプなんでしょうけど、『家、ついて行ってイイですか？』で変わりました。ドキュメンタリストとしての熱量が出たというか……素人バラエティの追いかけ方、ヒューマンドキュメンタリーの難しい部分。それを読後感で、『「Let It Be」をかけちゃったら、全て収まるよね』というフォーマットを見つけたのは、すごいと思いますよ」
カリスマプロデューサーとして多くのヒット作を手掛けてきた伊藤氏。番組を統括する仕事は、一般企業のチームマネジメントに通じる。多忙を承知の上で出版社がマネジメント論の執筆を依頼するのも納得だが、「『今はやめておく』って返事をした」という。
「人によってやり方は違いますが、僕はディレクターなどのスタッフ、出演者を選んで企画を預ける。企画書はあるけど1P目にタイトルやキービジュアルを詰め込んでいるので、それだけ見せて『考えてみてほしい』と託し、その人が考えたものにしてもらう。『伊藤さんに言われて作った』になっちゃダメなので、具体的なイメージは伝えません。企画に合う人を探して、その人に得意なことを振る。そうすると想像を超えてくるし、任せた方がいい形になると思っています」
企画にこだわり、イメージ通りにコントロールする人も多い。しかし、伊藤氏はスタッフや出演者に委ねる。そこで大事にしているキーワードは、熱量だ。
「僕はあんまり熱量がない人間なんですよ（笑）。いいものを作るには、愛や全力でやりきる熱量が必要で、番組を直接作るスタッフや出演してくれるキャストの方が、圧倒的に熱量が高い。その人たちの熱量や原動力を増幅する環境を作るのが、プロデューサーの仕事です。『これが絶対やりたいです！』と言う人間がいれば背中を押すし、自分の感性と違う方向でも、その熱量にベットしますね」
結果を求められるのは、仕事の常。テレビでは視聴率で評価が下されるが、数字や上層部からの叱責を“壁”となって受け止め、現場に伝えることは少ない。
「数字は猛烈に言われますよ（笑）。でもそれは結果論。低ければ、言わなくてもみんなが残念に思っています。その時、全員ができる“最大限”で作っているのに、結果だけ言うのは違うと思うんですよ。同じ企画を3年後にやったら、ヒットすることもある世界。反省はするし、やったことの責任は持ちます。でも結果に関しては、『良かったことを先に言う』文法。結果的にハマらなくても、棚卸しをする時には、次に活かすべき点から話します。ネガから入っちゃダメ。どんな企画もダメなものはないんです。ダメって言うと、なくなっちゃうから」
通らなかった企画書も残している。最近も過去5年分の企画を整理して、30本残った。今の時代に合ったフレーム、キャスト、タイトルにして出し直す。企画に時代が追いつくこともあるからだ。「人の見方も、企画と同じ感覚がありますね」という伊藤氏。後輩たちへの接し方も、得意なことを振り、熱量を感じれば形にするよう促す。
「『有吉ぃぃeeeee!』の総合演出や『やりすぎ都市伝説』のプロデューサーをやっている岩下（裕一郎氏）が、『ポケモンカードが熱いんですよね』って、ボソボソ言う（笑）。イベント事業部の子と盛り上がってるって話すから、『1枚でいいから企画にまとめて、アニメ担当のところへ2人で行け』と言いました。好きなことで熱量があり、テレ東にいて『ポケモン』なんだから、イベントでも配信でも形になる可能性を探ればいい。権利関係とか難しい要素は、アニメの担当者と考えたら答えが出せます」
<div data-friday-nextpage-lead="テレ東のバラエティを担うプロデューサーたち"></div>
人材流出に話題が集まったテレビ東京だが、バラエティ班だけを見ても、次世代を担うプロデューサーたちは少なくない。『モヤさま』で演出を兼務する、株木亘プロデューサーもそのひとり。
「僕を『モヤさま』に出演させ『伊藤P』と名付けた株木は、『怒りオヤジ3』に『僕を入れてください。やりたいんです』と言ってきたのが最初。頭がよくて、ディレクターとして元々『TVチャンピオン』などをキチッとやっている印象がありました。それが『モヤさま』で、『パッケージを全部変えていいですか？』って言う。
<figure id="attachment_303741" aria-describedby="caption-attachment-303741" style="width: 1478px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="8f341b7d"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/03/A.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-303741" class="wp-caption-text">スタッフや後輩たちとの飲み会は大事な時間。「後輩が『別部署のメンバーと飲んでるんです。今から来られませんか？』と、呼び出してくれたのはすごく嬉しかった」（提供：テレビ東京）</figcaption></figure>
任せてみたら、テロップや効果音などのパッケージを変更し、一気に番組が面白くなった。ムダに多くなく、メリハリがついて、センスあると思いましたね。元はお笑いをやるタイプじゃないと思ったけど、さまぁ～ずさんと会って変わりました。勘どころがあって、見せる編集というか、頭の中で撮影しながら編集が見えている。だからロケ中に『撮れ高OK』のカンペが出せる。『すげーヤツいたな！』って、思いましたよ」
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街をブラブラするのがメインで、ほぼ台本のない『モヤさま』。普通なら多くの素材を集め、後から構成を考えて編集するタイプの番組だが、収録しながら組み立てが“見えている”というのは、確かにとんでもないセンスだ。
「僕を出演させる時も、前の日に台本を渡して構えられちゃうと面白くないと思っていて、『今日、伊藤さん出ます』ってわざと突然言う。テレビを作っているけど、出るのは素人の僕がこなれた感じになるのが嫌で、上手くやると『今日の伊藤さん、面白くないです』って文句を言うから、『お前、出しておいてなんだよ！』って（笑）。物おじしないから、50周年特番とか大きなものをやる時は、必ず入れます。株木は大きいもの、太いものを与えると、自分なりに料理をしてくれる信頼感がありますね」
テレビ東京のバラエティは、芸人が中心のお笑い番組だけではない。『家、ついて行ってイイですか？』『Youは何しに日本へ？』など、一般人をメインに据えた番組の系譜として伊藤氏が挙げたのは、『ありえへん∞世界』『ナゼそこ?』などを手掛ける水谷豊チーフプロデューサー。
「僕が先輩として『ありえへん∞世界』の初期にアドバイザーで参加した時、いきなり『僕は伊藤さんにはなりたくないんです！』って。『わかんないけど、なんかお前に悪いことした？』と思うくらい強い調子で（笑）。水谷はバラエティに対するロジックが僕と全然違っていて、『僕はもう徹底的に素人さん、一般人でいきます。そこに笑いとかいらないんで』と、芸人と組んで笑いを作るのではない形を追求しているんです。かつてテレビ東京で放送していた、『テレビあっとランダム』や『徳光和夫の情報スピリッツ』を現代風に蘇らせたいと考えていて、“テレ東の遺伝子”を受け継ぐマインドを感じますよね」
<figure id="attachment_303742" aria-describedby="caption-attachment-303742" style="width: 4032px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="b507ce98"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/03/image_50444801.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-303742" class="wp-caption-text">別の収録の合間に『内村のツボる動画』スタッフと打ち合わせ。カッチリした場だけでなく、構成作家や外勤スタッフなどとの雑談から、アイデアが広がることが多い（提供：テレビ東京）</figcaption></figure>
プロデューサーとして育ち上がった人材だけでなく、発展途上の若手にも期待を寄せる。
「若くても、経験値がなくても、その年齢でしかできないことを、その年齢でしかできない感性で、どんどんアウトプットしてほしい。身を投じる苦しさもあるけど、その経験がどこに繋がるかわからない。キツくても、考えるのをやめない方がいいと思いますね。僕らの世代は、彼らにそうしたことができる環境を作らないといけない。ちょっと抽象的だけど、これからの若手には『今のテレビの理想や正解』みたいなものを壊す人に、出てきてほしいと思っています」
伊藤氏自身に「今のテレビを壊す」気持ちはないのか。「僕はもう、あんまり壊せないと思いますね。いい年だし、謝りに行く時、ちゃんとスーツ着てきちゃうようになっちゃったし（笑）」と、ふざけた調子で笑った。そんな大人がいてくれる、スーツ姿でちゃんと一緒に謝ってくれる人がいる環境なら、「今のテレビを壊す」人材が生まれてくるのかもしれない。
<figure id="attachment_303743" aria-describedby="caption-attachment-303743" style="width: 4000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="7bdd41c4"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/03/KIN_0238.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-303743" class="wp-caption-text">取材に答える伊藤氏</figcaption></figure>

鍬田美穂

鬼怒川毅

佐久間宣行氏、高橋弘樹氏ら名物Ｐの元上司が期待を寄せる次世代のテレビ東京プロデューサーとは？　異能だらけのテレ東を仕切る制作局長・伊藤隆行氏の組織論

テレ東のカリスマ『伊藤Ｐ』の人材活用術「猛獣使いになればいい」

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