<figure id="attachment_303895" aria-describedby="caption-attachment-303895" style="width: 3468px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="c40823c2"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/03/20230323_152334-rotated.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-303895" class="wp-caption-text">ＤＶの被害女性をサポートしている「Ｊｉｋｋａ」の遠藤氏</figcaption></figure>
<p>日本で増加しているＤＶ相談件数。後編の今回は、【<a href="https://friday.kodansha.co.jp/article/303890">前編：「ＤＶ被害の女性たち」生々しい実態ルポ</a>】に続いて、日本におけるＤＶ支援現場の状況について見ていきたい。</p>
<p>すでに述べたように、ＤＶ防止法ができてから、日本では主に女性の被害者を対象にした支援体制が構築されてきた（逆に、男性被害者の支援が不十分であるのも課題の１つである）。</p>
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<p>日本各地には官民の相談窓口が設置されており、そこにアクセスすればシェルターや母子生活支援施設などに一時的に保護され、医療機関で適切な治療を受けたり、新しい仕事を見つけたりして社会復帰を目指すことになる。</p>
<p>だが、問題は、こうしたシステマチックな支援からこぼれ落ちてしまう人たちが一定数いるということだ。そしてその多くが【前編】で見たような障害があるなど社会的に弱い立場にある人たちなのである。</p>
<p>ＮＰＯ法人「くにたち夢ファームＪｉｋｋａ」の代表である遠藤良子は、元々自治体の女性相談員としてＤＶ被害に苦しむ女性たちに向き合い、サポートをしてきた。だが、そこで目にしてきた公的支援は、決して十分と言えるものではなかったそうだ。</p>
<h2>自治体支援でも困難な女性の自立</h2>
<figure id="attachment_303905" aria-describedby="caption-attachment-303905" style="width: 1477px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="8a13d4a6"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/03/0FBE6E2F-6156-4DA8-B906-8C1400881145-1.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-303905" class="wp-caption-text">ＤＶの被害女性をサポートしている「Ｊｉｋｋａ」</figcaption></figure>
<p>遠藤は語る。</p>
<p><span class="strongInContent">「自治体には、法律に基づいてＤＶ被害を受けた人の支援体制が構築されています。ここで行われているのは、ＤＶ被害を受けた女性をシェルターに『隠す』、夫の目の届かない遠くの地域に『逃がす』、そしてその地域で『自立させる』という取り組みです。</span></p>
<p><span class="strongInContent">担当者は逃げてきた女性に、すぐにシェルターに身を隠す判断を促し、安全が保障される地域へ引っ越しをさせ、そこで自立への取り組みをさせます。しかし、問題はそれができない女性が少なくないということなのです」</span></p>
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<p>具体的に考えていこう。</p>
<p>自治体の窓口に、夫のＤＶから逃げてきた女性がいたとしよう。すると、担当者はその場でシェルターへ行くか否かを決定させる。必要なら今保護しますという提案の仕方をするのだ。</p>
<p>しかし、どれだけの女性が即決できるだろうか。これまで何年とＤＶに耐えて、荷物をまとめて意を決して出てきた人ならともかく、暴れる夫から一時しのぎに逃げてきた人はその場で「はい、保護してください」とは答えられないだろう。そうすると、シェルターに入ることはできず、家に帰らざるをえなくなる。</p>
<p>もしシェルターに入ったとしても困難はつづく。自立に当たって、彼女たちは元々住んでいた町を離れて夫から身を隠すことのできる遠方の町へ移り住むことを要求されるのだ。だが、まったく知らない土地で一から仕事を見つけて生活をするのは、簡単なことではない。ましてや障害や精神疾患のある人にとっては猶更だ。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="既存の支援システムの重大な欠陥"></div>
<figure id="attachment_303894" aria-describedby="caption-attachment-303894" style="width: 3883px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="4c5c049a"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/03/IMG_3887-2-1-1.jpeg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-303894" class="wp-caption-text">パートナーの壮絶なＤＶから逃れようと家を出ても行き場のない女性は多い（写真はイメージで一部加工しています）</figcaption></figure>
<p>そうなると、彼女らはせっかく赴いた新しい土地で孤立しかねない。だんだんと心を病み、せっかく見つかった仕事をすることができなくなる。そうなれば、別の精神病などの問題が現れて医療的サポートが必要になるか、寂しさゆえに家に舞い戻って再び夫からＤＶを受けるかする危険が大きくなる。</p>
<p>これではせっかく支援につながっても、彼女らは苦しい状況から脱することができない。ここに既存の支援システムの欠陥がある。</p>
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<p>遠藤が「くにたち夢ファームＪｉｋｋａ」を立ち上げたのは、そうした欠陥を民間団体として補うためだった。遠藤は言う。</p>
<p><span class="strongInContent">「当団体では、行政とは異なる取り組みを目指しています。シェルターを複数所有していて、自立を目指すのは同じです。ただ、すぐにそれができない人たちもいるという前提で、事務所のスペースをオープンにして、自立を急かすのではなく、そこで支援者も含めて様々な人たちと交流する中で心を落ち着けたり、社会性を身につけたり、やりたいことを見つけたりできるようにしているのです」</span></p>
<h2>家事どころか電気代も払えない</h2>
<figure id="attachment_303904" aria-describedby="caption-attachment-303904" style="width: 3888px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="c2447eba"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/03/IMG_3879-1.jpeg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-303904" class="wp-caption-text">行き場やお金に困り夜の街で身体を売る女性も（写真はイメージで加工しています）</figcaption></figure>
<p>国立にあるこの事務所は平日の11時～16時までオープンにしている。ここは、シェルターに暮らす女性はもちろん、まだ家で夫との関係に悩んでいる人、シェルターから自立した人などが自由に出入りできる。</p>
<p>100円以上のカンパで昼食やコーヒーが飲めるし、火曜日や水曜日はハンドメイドなどを作って販売するような取り組みも行っている。もちろん、専門の支援者がいるので、ＤＶや子育てや精神疾患のことで困れば相談に乗ってくれる。生活保護など各種申請の手伝いもする。</p>
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<p>こうした施設は、障害や病気のある女性や、何重にも絡み合う複雑な事情を抱えている女性ほど役に立つだろう。彼女たちの中には家事どころか、処方された薬をちゃんと飲むとか、電気代など各種料金を払うといったことすらできない人もいる。そういう人たちにきめ細やかな支援ができるのだ。</p>
<p>いわば、システムの通りに行われる行政の支援とは異なり、「Ｊｉｋｋａ」という中間施設を設けることによって、長期的に、個々の事情に応じた支援をすることが可能になっているのである。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="勇気を出して逃げ出したものの……"></div>
<figure id="attachment_303915" aria-describedby="caption-attachment-303915" style="width: 3468px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="70e44a7f"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/03/20230323_152223-rotated.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-303915" class="wp-caption-text">「Ｊｉｋｋａ」に設置されたハンドメイドコーナー</figcaption></figure>
<p>遠藤は言う。</p>
<p><span class="strongInContent">「新型コロナが広まった後は、相談窓口に女性から生活困窮を訴える声が集まる傾向にあります。お金がないので逃げたけど家を借りられないとか、友だちや男性の家を転々としているけど限界だとか、頼っている人の家から追い出されそうだといった相談です。勇気を出してＤＶから逃げても、その先で生活ができなくなっているのです。</span></p>
<p><span class="strongInContent">女性たちの中には、苦し紛れに再び夫のいる家に戻ってしまったり、犯罪に巻き込まれてしまったりする人もいます。家から逃げ出してきたばかりの人というより、逃げ出したものの生活に困っている人への支援が必要になっているのです」</span></p>
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<p>こうしたことを踏まえ、遠藤たちは昨年からＵＲ都市機構との提携居住支援事業をスタートさせた。</p>
<p>ＵＲの提供可能な部屋を「Ｊｉｋｋａ」が低家賃で借り上げ、部屋の管理や入居者支援を行うことを前提に、住まいに困っている女性に貸しているのだ。もちろん、ここに身を寄せた人々もいつでも「Ｊｉｋｋａ」にやってきて直接的な支援を受けることができる。</p>
<h2>「被害者の『実家』でありたい」</h2>
<figure id="attachment_303907" aria-describedby="caption-attachment-303907" style="width: 3468px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="aab351ea"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/03/20230323_152244-rotated.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-303907" class="wp-caption-text">ＤＶの被害女性を温かく迎える「Ｊｉｋｋａ」</figcaption></figure>
<p>遠藤は言う。</p>
<p><span class="strongInContent">「いろんな問題を抱えていても、実家があって頼れる人は、どうしようもないような状況にはなりにくいのです。本当に苦労している人というのは、いろんな事情で親やきょうだいの支援が受けられない人が大半です。ただでさえ大変なのに、実家に頼れなければ、どこまでも落ちていってしまうのは当然ですよね。</span></p>
<p><span class="strongInContent">うちの団体は、そんな彼女たちの『実家』でありたいと思っています。彼女たちがいつでも立ち寄り、落ち着いていろんなことを相談できるための空間。『Ｊｉｋｋａ』という名称は、そこからつけたのです」</span></p>
<p>この連載で何度も見てきているように、困難にある女性たちに必要なのは、いつでも頼ることのできる安心で安全な場だ。特に弱い立場の人であればあるほど、それは重要なものになる。</p>
<p>逆に言えば、それを作らずに、いくら物理的、医療的な支援をしたところで、彼女たちの抱えている困難が改善されることにはならない。</p>
<p>物理的な支援だけでこと足りるのは、それなりの社会性を持った人だけだ。だからこそ、心の支援とはどうあるべきなのかということを、社会全体で考え、取り組んでいく必要があるだろう。</p>
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<p>【募集】</p>
<p>シリーズ「ヤング・ホームレス」では、定住先のない10～40代の人を探しています。車上生活者、ネットカフェ難民、出稼ぎ風俗嬢、寮暮らしの日雇い労働者、ホテル生活者、店舗生活者、支援施設での生活者など、現在でも過去でも、住居を失った経験のある人の実体験、あるいはその支援をされている方々の声を募集しています。匿名などの条件にも応じますので、著者までご連絡下さい。</p>
<p>石井光太（作家）</p>
<p>ツイッター　@kotaism</p>
<p>メール　postmaster@kotaism.com</p>
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'77年、東京都生まれ。ノンフィクション作家。国内外の文化、歴史、医療などをテーマに取材、執筆活動を行っている。著書に『絶対貧困』『遺体』『「鬼畜」の家』『43回の殺意』『本当の貧困の話をしよう』『格差と分断の社会地図』『ルポ 誰が国語力を殺すのか』などがある。

石井光太

「バカが子供にうつる」「家ではしゃべるな」……。夫から壮絶なＤＶを受けた女性の実態です。被害件数は19年連続で増加。深刻化しています。ノンフィクション作家・石井光太氏が描く壮絶なルポ「前後編」です。

対象女性を「隠し」遠くの地域へ「逃がす」…支援者が明かす「ＤＶ被害者」の画期的自立メソッド

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