「ひどい話ですよ」福井県が道路の側溝のフタを外す“落とし穴“を作った驚きの理由
原発事故は回避できても、落とし穴は回避できない!「恐怖のフタ無し側溝」を設置した福井県に責任はないのか。
東日本大震災による福島第一原発の事故から12年経った現在。原子力発電所を有する全国の自治体では原発災害時の避難道路が整備されつつある。日本原子力発電所がある福井県敦賀市近辺にも原発事故が起きた時の事故制圧や避難用の道路が県や市によって続々と開通した。2022年春に開通した市道西浦2号線鈴ケ崎トンネルもその一つだ。
「駐車をしないよう側溝のフタを外してほしい」
敦賀市在住のAさんが体験した「落とし穴事故」は昨年11月13日、その鈴ケ崎トンネルのすぐ近くで発生した。
「その日はマツダデミオで敦賀市色浜近辺の県道141号線を北(鈴ケ﨑トンネル)に向かっていました。ふと気づくと、後ろから接近してくるクルマがいたので先に行かせようと思ったんです。煽られている雰囲気ではなかったのですが『追いつかれた車両の義務』(道路交通法第27条)のことが頭に浮かんだので。これはよけるべきだと。
しかし色浜周辺はずっと海沿いの片側一車線で左側は路肩も狭く…やっと左前方に見えてきたのが事故現場となった空き地でした。左ウィンカーを出して空き地に入ろうとした瞬間、落とし穴に落ちたような強い衝撃を感じました。ガガッ、ゴゴッという下回りをぶつけた鈍い音もしました。その時点で後続車は一気に加速して私の車を追い抜いていきました」
Aさんの愛車は空き地の入り口近辺の路肩にずっと連なる「フタのない側溝」に落ちたのだ。その後すぐにハンドルを切ったため、元の道路に戻ることができたものの、車には傷がついた。Aさんが続ける。
「運転席からフタが飛び飛びになっていることなど確認できなかったばかりか、一部フタで覆われている部分もあり混乱しました。車を空き地に入れようとした時に初めてそれが確認できましたが、まさにトラップ。道路の左脇にある空き地に入るには必ずその側溝を横切るわけですが、入口には進入禁止や立ち入り禁止などの警告看板やポールも何もありませんでした」
Aさんの車はコンクリートでできた固い側溝で激しく損傷したため、その修理代は約60万円と高額なものになってしまった。
「道路の欠陥による事故ではないか、と考えたので、事故の翌日、福井県庁の土木部道路建設課にメールを送りましたが、数週間経っても何の反応もなかったんです。それで敦賀市役所など様々なところに問い合わせて、鈴ケ崎トンネル手前の側溝は福井県の管轄だとわかりました。結局、事故現場の道路を管理している土木事務所の担当者と現場確認に行けたのは、事故から1ヵ月半が経過していました」
そして、Aさんは担当者の指示によって、管理者である県知事へ損害賠償の申し立てを行う申立書を提出した。
上記の情報をキャッチして、事故現場の道路を管理していた「嶺南振興局敦賀土木事務所」を取材した。「あの場所の側溝のフタがなぜ外されていたのか」と質問すると、担当者からは耳を疑う驚愕の理由が語られた。
「フタを外したのは地元からの要望です。釣り客がたくさん訪れて、道路沿いに何台も違法駐車をする。駐車をしないよう側溝のフタを外してほしいという要望にこたえたものです」
これにはびっくりである。側溝のフタを外してわざと危険な状態にして駐車をさせないようにしていた…ということなのか?後日、福井県の担当者より「わざと危険な状態にした」という発言を訂正する説明は受けたが、結局、なぜフタを外していたかについては、いまだに説明はない。
「そもそもあそこは退避所ではなく鈴ケ崎トンネルを作る前に通っていた昔の道路で工事の資材などを置いていた場所です。一般車両が入る想定はしていませんでした」
「退避所ではない」「一般車が入る想定はなかった」とはいうものの進入禁止の掲示はなく、ポールやロープで入口がふさがれていたわけでもない。開通から2ヵ月、2022年5月に撮影されたストリートビューの写真には側溝にはまった際についたと思われる複数のタイヤ痕が写っている。
また、トンネルの入り口には駐車禁止の標識がかすかに見えるが、現場は駐停車禁止ではない。左脇の空き地にちょっと車を寄せて停車することは不自然ではないだろう。

60万円以上の損害に対して33000円の賠償で済むのか
その後、Aさんのもとには申立書の提出から約2ヵ月経過した今年2月下旬にやっと損害賠償に関する連絡が福井県道路保全課の担当者から届いた。
「ひどい話ですよ。まず、保険会社の言い分は車の時価が支払いの最大なので『11万円』ですと。さらに(Aさんのケースは)ドライバーの前方不注意による事故だから私に7割の過失がある。またあの場所は待避所ではない。
側溝は『道路構造令によって75cmの路肩の外側に設置されたものだからフタがなくても問題ない』とも言われました。フタを外していた理由もはっきりとは答えてもらえませんでした」
つまり、写真に示す道路に置き換えれば、白線(車道外側線)から幅75㎝以上路肩として確保しなければいけないが、それは確保されていて、それより外側は道路とはみなされない。つまり、側溝のある場所は道路外にあたるので、仮にフタがとれている部分があっても県として道路の安全管理を怠ったとは言えない、という言い分なのだ。
福井県側が伝えてきた、道路管理の不備で発生した損害を「時価」で支払おうとすること自体、極めて異例で、また「ドライバーの前方不注意」という指摘も大いに疑問が残る。そもそも運転席からフタのない側溝が続いているのが見えていたら、運転手はその場所を横切ろうとは思わないだろう。前方に注意して安全だと思ったから空き地に車を寄せたのである。
福井県は60万円以上の損害を受けたAさんに対して、『Aさんの過失が7割』という理由でわずか33000円の賠償で済ませようとしていることになる。福井県の道路保全課に改めて聞いてみたところ、「道路の保険で対応することになりますが、金額については折り合いがついていないので再度検討しているところです」という返答があったが、「Aさんの過失が7割」という言い分は、不条理だろう。
現場は今どうなっているのか。『この先路肩注意』という看板がトンネルのはるか手前に立てられているのみで、空き地への進入を禁止する道路標識もなくポールなども一切ない。『この先路肩注意』という看板だけでは、運転手は結局、何に注意すればよいのかわからない。今まで通り、空き地にも自由に入れることから、今後も同様の事故が起きる可能性はあるだろう。
「危険箇所を放置し続けることに対してもそうですが、危険箇所の放置を理由にもならない理由で正当化しようとする態度に、より一層の怒りを覚えます」(Aさん)
原発事故を回避するための道路なのに、落とし穴事故の回避には無頓着。重大な事故が新たに発生しないことを願うばかりだ。








取材・文:加藤久美子