1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』（全て光文社電子書籍）『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』（全て講談社）などがある。ジェイ・ビー・シー（株）広報部所属

林 壮一

<figure id="attachment_304388" aria-describedby="caption-attachment-304388" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="44f6740d"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/04/4c8b87b9c44e9a08bd83b5ad28c38f5a.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-304388" class="wp-caption-text">波乱の世界初挑戦だったがドロー（王者の防衛）ではなく無効試合となったのはプラス。「挑戦の年にしたい」</figcaption></figure>
<p><span class="strongInContent">「何で？もう終わり？　って……あの時の気持ちを言葉で表現するのは難しいです。自分はボロボロになってでも戦うつもりでここに立っているのに。すべてをぶつけるつもりだったのに。小学生の頃から、この日のためにやってきたのに。とにかく、不完全燃焼で終わったのが悔しかったですね」</span></p>
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<p>アマチュア時代から負け知らずで、プロ戦績９戦８勝（６KO）。デビュー前から〈必ず世界を獲る男〉と言われていた重岡銀次朗（23）が今年１月、王者のダニエル・バラダレス（28）に挑んだ一戦はノーコンテストとなった。</p>
<p><span class="strongInContent">「バラダレスはメンタルが弱かったですね。ゴング前、僕はロープに両腕を置いて、ずっと睨んでいたんですが、なかなか入場して来なかった。『早く来いや』って視線を送っていたんですが、リングに上がったヤツの目は泳いでいました。レフェリーを挟んで向かい合った時も、無理して目を合わせていることが分かりました」</span></p>
<p>試合開始からリズムに乗った銀次朗は、スピードと的確なパンチでチャンピオンを圧倒。キャンバスに沈めるのは時間の問題――と思われた。</p>
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<p><span class="strongInContent">「１ラウンドだったかな。独特なストレートを一発もらったんですが『これなら大丈夫だ。効かない』と余裕ができましたね。怖さは、まったく無かったです。『ついに世界のベルトを獲る日が来た』と思っていました」</span></p>
<p>そして３回途中、″事件″が起こった。</p>
<p><span class="strongInContent">「ボディストレートを打つために踏み込もうとしたら、自分の左の鎖骨と顎にバラダレスの頭が当たったんです。過去の映像を見ていましたから、バラダレスが頭からくることは分かっていましたし、トレーナーにも気を付けるよう言われていました。実際、バッティングされましたけど、普通はあの程度で試合終了にはならないじゃないですか。だから気にならなかった。『倒すぞ』『行くぞ』とそれだけ考えていました」</span></p>
<p>だが、王者は既に戦意を喪失していた。</p>
<p><span class="strongInContent">「最初は『ただの時間稼ぎだろう』と思いました。実際、５分間休憩って話になった。ぶつけてきたバラダレスが痛いはずがないから、意味わからんと腹が立ちましたけど『別にええよ。５分休憩して続きをやれるなら』というゆとりが僕にはありました。なのに、バラダレスは『頭が痛い。できない』と。試合が終わりそうな空気になってからは地獄でした」</span></p>
<p>試合終了が告げられた後、銀次朗はリング上で号泣した。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="元王者の言葉・・・"></div>
<h2>胸に刺さった元王者の言葉</h2>
<p>銀次朗はあの日、王者に肩入れするレフェリーのクリス・フローレスも相手にしなければならなかった。フローレスは米国籍だがメキシコ系である。同じ民族の選手に有利となるような働きをしたことは想像に難くない。事実、本来なら王者のTKO負けだからだ。</p>
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<p><span class="strongInContent">「頭突きの後、レフェリーがおかしいとは感じていました。IBFのスーパーバイザーなども来ていたのに、僕に対して、何の言葉もありませんでしたよね」</span></p>
<p>それでも、ボクシングを嫌いにはならなかった。試合会場の大阪に応援に来ていた両親と会ってリフレッシュ。大阪グルメを堪能し、故郷・熊本に帰って気持ちを立て直した。</p>
<p><span class="strongInContent">「サポートしてくれたスタッフや友人、色んな方から励ましの声をかけてもらいました。とくに印象的だったのが、ジムの先輩である元世界王者（WBA／IBFライトフライ級）の田口良一さん（36）からの一言です。『こういうことは、ボクシング界では時々ある。でも、お前は必ず世界チャンピオンになれる器だ。ちょっとそれが遅くなっただけだから、また頑張れ』って。一番胸に突き刺さりました。辛い思いも、悔しい思いも乗り越えている先輩の言葉だから、説得力がありましたよ」</span></p>
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<p>王者の敵前逃亡を重岡銀次朗伝説の一ページにしてやる―─銀次朗はジムの先輩で前WBAライトフライ級スーパー王者の京口紘人(ひろと)(29)らとスパーを重ねるなど、再び世界へ向けて歩み始めた。</p>
<p>試合直後から再戦を希望していた銀次朗だが、バラダレスは「左鼓膜を負傷し、リングに立てない」とIBFに診断書を提出。元同級王者で現３位のフィリピン人選手、レネ・クアルト（26）と４月16日に暫定王座を懸けて戦うことが決まった。同じ日に二つ年上の実兄・優大（25）もWBCミニマム級王座に挑む。</p>
<p><span class="strongInContent">「兄貴にはバラダレス戦の後に『バッティングされる前に倒せばよかったんだ』と冗談まじりに言われました。そのバラダレスにクアルトは判定で敗れて世界王座を失っているんです。当時の映像を何度も見ましたが、僕がクアルトに負ける要素はひとつもない。ぶっ倒しますよ」</span></p>
<p>「失意」「試練」「不信」。すべての負の要素を銀次朗は呑みこみ、リングに立つ。その爆発力に期待したい。</p>
<figure id="attachment_304390" aria-describedby="caption-attachment-304390" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="a8939cab"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/04/af492f6f5f22f7e162d0a2188fe6f1ce.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-304390" class="wp-caption-text">小学生時代から無敗。’19年のWBOアジアパシフィックミニマム級王座決定戦は、ボディで１ラウンドKO勝ち</figcaption></figure>
<figure id="attachment_304386" aria-describedby="caption-attachment-304386" style="width: 1613px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="44ab4d3e"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/04/95c2a574af0956d92006e93eff95aa89.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-304386" class="wp-caption-text">本誌未掲載カット　重岡銀次朗 「今度こそ世界を獲る！」 生涯無敗の男の告白</figcaption></figure>
<figure id="attachment_304387" aria-describedby="caption-attachment-304387" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="8d7abe10"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/04/3afca31b03a303e7d5b3f22145f7ebff.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-304387" class="wp-caption-text">本誌未掲載カット　重岡銀次朗 「今度こそ世界を獲る！」 生涯無敗の男の告白</figcaption></figure>
<figure id="attachment_304389" aria-describedby="caption-attachment-304389" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="dedadf5c"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/04/ce627cf1b64a1a92ac4250cfa7ef9c25.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-304389" class="wp-caption-text">本誌未掲載カット　重岡銀次朗 「今度こそ世界を獲る！」 生涯無敗の男の告白</figcaption></figure>
<p>『FRIDAY』2023年4月14日号より</p>


林壮一

鬼怒川 毅

波乱の世界初挑戦だったがドロー（王者の防衛）ではなく無効試合となったのはプラス。「挑戦の年にしたい」 「何で？もう終わり？　って……あの時の気持ちを言葉で表現するのは難しいです。自分はボロボロになって

4・16 IBFミニマム級暫定王座決定戦重岡銀次朗【生涯無敗の男の告白】

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