1975年熊本市生まれ。県立熊本高校を経て、早稲田大学商学部卒業。熊本高でラグビーを始め、３年時には花園に出場した。現在、ラグビーマガジンを中心にフリーランスの記者として活動している。著書に『早稲田ラグビー 進化への闘争』（講談社）

直江 光信

<figure id="attachment_304438" aria-describedby="caption-attachment-304438" style="width: 884px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="353ed21a"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/04/2021080104216.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-304438" class="wp-caption-text">2021年8月、東京五輪で女子200m、400m個人メドレーで金メダルに輝いた大橋悠依（右）と写真に収まる平井伯昌監督（写真：共同通信）</figcaption></figure>
<p>競泳日本一の座を争う第99回日本選手権は、4月4日から東京アクアティクスセンターで競技が始まった。今年7月に福岡県で開催される世界水泳の選考会を兼ねたこの重要な大会に挑むのが、日本競泳界を牽引する名将、平井伯昌氏だ。北島康介、萩野公介、大橋悠依という金メダリスト3人をはじめ多くの名スイマーを育ててきた平井氏は、指導者として常に世界で勝つことを追求してきた。このたび<a href="https://www.amazon.co.jp/%E5%8B%9D%E3%81%A4%E7%90%86%E7%94%B1%E3%80%82-3%E4%BA%BA%E3%81%AE%E9%87%91%E3%83%A1%E3%83%80%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%83%88%E3%82%92%E8%82%B2%E3%81%A6%E3%81%9F%E5%90%8D%E5%B0%86%E3%81%8C%E3%81%B2%E3%82%82%E3%81%A8%E3%81%8F%E5%8B%9D%E5%88%A9%E3%81%AE%E3%83%97%E3%83%AD%E3%82%BB%E3%82%B9-%E5%B9%B3%E4%BA%95%E4%BC%AF%E6%98%8C/dp/4583116004">『勝つ理由。――3人の金メダリストを育てた名将がひもとく勝利のプロセス』（ベースボール・マガジン社）</a>を上梓した同氏に、世界一になるための条件や勝つ選手と勝てない選手の違いを語ってもらった。</p>
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
<h3>大谷翔平のWBC活躍に見た内面の強さ</h3>
<p><span class="strongInContent">「テレビ中継を見ていたら、CMで『いま、日本には世界一が必要だ』というフレーズが流れてね。その通り！ と思ったんですよ」</span></p>
<p>そう声に力をこめるのは、オリンピックや世界大会で数々の輝かしい成績を収めてきた競泳界の名将、平井伯昌氏だ。この春、日本中を熱狂させたワールド・ベースボール・クラシック（WBC）を見て、たくさんの刺激をもらったという。とりわけ、大舞台にも動じることなく実力を発揮し、圧巻の活躍を見せた大谷翔平には感銘を受けた。</p>
<p><span class="strongInContent"><em>「大谷君がなぜあれほどの活躍をできたかというと、日頃からメジャーリーグというシビアな環境に身を置いて、MVPまで獲得したことが背景にあると思うんです。最高峰のステージで日々戦っているからこそ、あの舞台に立ってもプレーを楽しむことができる。そこまで行けた人だけがわかる境地があるんだろうな、と思いました」</em></span></p>
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
<p>スポーツは相手との勝負だが、突き詰めていけば最後は自分との戦いになる――。3月末に発刊された自著『勝つ理由。』の中で、平井氏はそう述べている。今回のWBCでの大谷の姿からも、自分との戦いに勝つ内面的な強さを感じたという。</p>
<p><span class="strongInContent">「きっと彼は夢を夢のままで終わらせようとしていないし、そのためにはどんな努力も惜しまないのだと思います。最後のマイク・トラウトへの一球なんて、『ここでこんなボール投げるのか！』と感心しました。もちろん相手と勝負をするんだけど、大谷君はそれ以上に、誰よりも自分自身と勝負しているんだなと感じましたね」</span></p>
<div data-friday-nextpage-lead="育てた3人の金メダリストはみんな違うタイプ"></div>
<div class="expapp-yahoo-paragraph-break"></div>
<figure id="attachment_304439" aria-describedby="caption-attachment-304439" style="width: 1024px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="2cd4e5ae"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/04/2012072400064.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-304439" class="wp-caption-text">2012年、日本代表の練習で大笑いする北島康介（左）と平井伯昌ヘッドコーチ（写真：共同通信）</figcaption></figure>
<h3>「大きな成功とは小さな成功をいくつも繰り返して到達する」</h3>
<p>幾多の国際大会を戦い、日本代表のヘッドコーチや日本水泳連盟の競泳委員長を歴任してきた平井氏もまた、日本が世界で勝つことを追求してきた人物だ。いくつもの勝利と敗北を経験してきた平井氏は、世界で勝つための条件を、「変化を恐れないこと」と表現する。</p>
<p><span class="strongInContent">「金メダルというのはとても大きな成功ですが、大きな成功とは小さな成功をいくつも繰り返り返して到達するものなんです。そしてその過程では、進歩するために変えなければならない部分が必ず出てくる。ただ、ひとつの完成形に到達して結果が出ると、変化するのが怖くなります。そこで勇気を持って変えられることが大切なんです」</span></p>
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
<p>完成形とは、いわばさまざまな要素のバランスがとれた状態だ。そこからさらにレベルアップしようとすれば、一時的に全体のバランスが崩れるのは避けられない。</p>
<p><span class="strongInContent">「たとえば力強さを上げようとすると、テクニックが乱れる。出力が変われば、それをコントロールするための技術も変わるので、乱れるのが当たり前なんです。ウエートトレーニングをやると『違和感があるのでやめたい』という選手がよくいますが、違和感を覚えるのは当然で、そこでやめると成長も止まってしまう」</span></p>
<p>変化を恐れないことは、指導者にとっても大切な要素だという。スポーツは相手がいて、人間が行うものだ。どれほど入念に計画を立てたところで、予定通りに運ぶことなどほとんどない。平井氏自身、さまざまな機会でそうした状況を経験してきた。</p>
<p><span class="strongInContent">「北島康介と出場した&#8217;04年のアテネオリンピックの時は、大会5週間前にアメリカのブレンダン・ハンセンに世界記録を破られました。当初の予定では最後に軽めの調整をして本番に向かうつもりだったのですが、それでは追いつけないから、ギリギリまで強化しようとなった。『康介、それでいいか？』と聞くと、『先生がそう言うならやりましょう』と。そう言われたらこっちも責任を感じるし、覚悟が決まりますよね」</span></p>
<p>これまで北島康介、萩野公介、大橋悠依という3人のオリンピック金メダリストを育ててきた平井氏だが、その3人は「それぞれ見事にタイプが違いました」と苦笑する。</p>
<p><span class="strongInContent">「北島には、周囲に『こいつのためならなんでもやってやろう』と思わせる人間的な魅力がすごくありました。あの時は“チーム北島”として多くの人にサポートしてもらったのですが、いろんな人の力を集結させて作り上げたものをすべて背負って、レースで100パーセントのパフォーマンスを出す能力も、ずば抜けて優れていた。萩野は努力の天才で、人が到底できないようなきつい練習もへっちゃらでできてしまう。忍耐力と克己心ということでいえば、北島は何より己に勝つ克己心がすごくて、萩野は忍耐力が並外れていましたね」</span></p>
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
<p>では、東京2020オリンピックの個人メドレーで2冠を達成した大橋についてはどうか。</p>
<p><span class="strongInContent">「スイマーとしての能力は、これまで出てきた女子選手の中でトップクラス。いまもまだ才能がすべて開花していないというくらい、ポテンシャルを秘めた選手です。ただ彼女はすごく繊細で、東京2020の時も不安感から大会直前になって精神的に崩れそうになりました。でも『もう一回がんばってみます』と言うので、私もそれまでの自分の考え方を捨てて、大橋がよくなるためなら何でもやるという姿勢に徹したんです。そうしたら、ちょっとずつよくなっていって。</span></p>
<p><span class="strongInContent">先が見えないことにも挑戦できる大胆さは北島が一番で、萩野は慎重派。大橋は繊細だけど、調子がいい時は無敵。3人とも本当にタイプが違うし、もし順番が逆だったら、きっと一人目で挫けていたでしょうね（笑）」</span></p>
<div data-friday-nextpage-lead="「世界一」と「世界で戦うこと」は違う"></div>
<div class="expapp-yahoo-paragraph-break"></div>
<figure id="attachment_304441" aria-describedby="caption-attachment-304441" style="width: 1024px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="055bef81"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/04/2015112300384.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-304441" class="wp-caption-text">2015年11月、競泳の招待公認記録会で男子400m個人メドレーで1位となり、平井伯昌コーチ（左）と話す萩野公介（写真：共同通信）</figcaption></figure>
<h3>勝てる選手と勝てない選手を分けるもの</h3>
<p>長い指導者人生の中では、飛び抜けた才能を有しながら、思うように結果を残せなかった選手を何人も見てきた。では、勝てる選手と勝てない選手の違いは、一体どこにあるのだろうか。</p>
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
<p><span class="strongInContent">「結局は、変化を恐れる、ということだと思います。一度築き上げた形が壊れるのを嫌がるから、そこで成長が止まってしまう。『あの時はこれでよかった』と言っている選手は、自分のやり方が成功していると思い込んでいるから、せっかく周りの人が『こうすればもっとよくなるよ』と言ってくれているのに、何かケチをつけられているようにとらえるんです。そうした部分のちょっとした差が、最終的には大きな差になる」</span></p>
<p>冒頭で紹介した大谷もまた、昨季終了後の会見で「前年と同じようなことをやって同じ数字が残るかというと、そうではない。むしろ下がると思う」とコメントを残している。変化しなければ生き残れない厳しい環境で日々しのぎを削っているからこそ、あれほどの選手に進歩できたのだろう。</p>
<p>『勝つ理由。』のエピローグでは、『世界一と世界で戦うことは違う』という平井氏の言葉が登場する。その真意を聞くと、こんな答えが返ってきた。</p>
<p><span class="strongInContent">「金メダルや世界記録を目指すということは、今まで誰もやってないことにチャレンジするということです。一方で世界で戦うだけなら、誰かの真似をしていても意外とできる。世界で戦うことと、そこで勝つことは、アプローチから求められる覚悟までまったく違います。</span></p>
<p><span class="strongInContent">精神的なエネルギーは体力と違ってすごく変動するもので、明確で壮大な目標や目的がないと弱くなってしまう。世界一という壮大な目標を掲げるからこそ、それに立ち向かう大きなエネルギーも湧いてきます。世界一になると思い込んでとことんやり続けたら、本当になれた。それをわかったことが、私が金メダルをとって一番よかったと思うことですね」</span></p>
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
<p>7月の世界水泳、さらには来年のパリオリンピックに向け、「もっと新しいことに挑戦していきたい」と意気込む平井氏。今後もどんなチャレンジを見せてくれるのか、楽しみだ。</p>
<figure id="attachment_304442" aria-describedby="caption-attachment-304442" style="width: 5200px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="dd88ab0d"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/04/ph.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-304442" class="wp-caption-text">東洋大学で選手を指導する平井氏（提供：ベースボール・マガジン社）</figcaption></figure>


直江光信

2021年8月、東京五輪で女子200m、400m個人メドレーで金メダルに輝いた大橋悠依（右）と写真に収まる平井伯昌監督（写真：共同通信） 競泳日本一の座を争う第99回日本選手権は、4月4日から東京アク

「大谷の最後の1球に感心した」金メダリスト3人を育てた競泳界名将が明かす「世界で勝つ人の条件」

あなたへのオススメ

関連記事