フリーライターとして雑誌記事の執筆、書籍の構成・編集などを手がける。現在は北海道在住で、ニュースサイトを中心に活動。社会情勢に関する執筆の機会が多い。地方紙の通信員としても取材・執筆。



斉藤 さゆり

<h3>旅先のニューヨークで段ボールに心を奪われる</h3>
「僕は12年近くひたすら段ボールを求め続け、世界中で拾い集めてきました。段ボールの魅力を伝えることが自分の使命だと、勝手に感じているところがあるんですよね」
と、熱い思いを語る人がいる。アーティストであり、カートンピッカー（段ボールを拾う人）とも自称する島津冬樹さん（35歳）だ。
<figure id="attachment_304850" aria-describedby="caption-attachment-304850" style="width: 1500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="abdae0b1"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/04/d6122a495408ab2cb99ca4f9587abfdf.jpeg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-304850" class="wp-caption-text">ジョージアの首都トビリシまで段ボールを拾いに行く日本人は、おそらく彼しかいない</figcaption></figure>
デザインや色づかいに魅せられ、用済みの捨てられた段ボールを収集するために世界をめぐる。その数、38ヵ国。拾い集めた段ボールで財布や名刺入れなどを制作し、段ボール財布のつくり方を教えるワークショップを国内外で開いている。
段ボールとの出会いは、多摩美術大学の学生時代に遡る。
「大学2年の時に財布がボロボロになってしまい、買い替えるお金がなかったので、間に合わせのつもりでたまたま家にあった段ボールで財布をつくりました。地元のスーパーで拾ったレッドウッドクリークというワインの段ボールで、デザインがかっこよかったから何かに使えないかと思って取ってあったんです」
たまたま段ボールで財布をつくったことが「今思えば、全ての始まりだったかもしれない」と本人は振り返る。その翌年、旅先のニューヨークで段ボールに心を奪われることになる。
「段ボールが目的だったわけじゃなくて、初めての海外なのでいろいろ見てみたいと思っていました。それなのに、歩いているとつい段ボールに目が留まってしまって。絵柄とか色づかいが日本と違ってすごくおしゃれで、僕にとってはかなりのカルチャーショックだったんですよ。同時に、他の国にもいろんな段ボールがあるんじゃないかと思うとワクワクしてきました」 
<figure id="attachment_304851" aria-describedby="caption-attachment-304851" style="width: 1500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="f4df62fa"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/04/b59723ce8a9f0ede40da76bfd6946a05.jpeg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-304851" class="wp-caption-text">人種のるつぼNYのスーパーマーケットは多様な食材を扱っているだけに段ボールも国際色豊か。「段ボールの拾いやすさはNYがアメリカで一番」と島津さん</figcaption></figure>
結局、ろくに観光もせず、段ボールの写真ばかり撮って帰ってきた。が――。
「このニューヨーク旅行をきっかけに、段ボールを探し求める僕の旅がスタートするんです」
<div data-friday-nextpage-lead="段ボールからお国柄がわかる"></div>
<div class="expapp-yahoo-paragraph-break"></div>
多摩美を卒業後、大手広告代理店に就職するも、段ボール熱は高まるばかり。アートディレクターとして勤めながら「こそこそと段ボール活動をし」続け、「入社1年目から有給休暇を使う生意気な社員だった」から、段ボールを拾い集める旅にも出かけていた。だが入社から3年半が経った頃、退職を決断する。
「もともとアートディレクターを志望していたので、入社した時は確かに嬉しかったです。でも段ボールへの思いは募る一方だし、広告制作が僕の思い描いていたものづくりとはかけ離れていて、どうしても溶け込めない自分もいて……」
そのまま勤めていたら、「高収入」「将来安泰」を約束されたも同然だっただろうに。
「正直言って、入社した時から3年くらいで辞めようと決めていたんですよ。大学の進路相談で、信頼していた教授から『いったん社会に出て、クリエイティブの流れを見たほうがいい。3年後に独立しても遅くないよ』と言われて。アーティストとしてやっていけるほど足元がしっかりしていたわけではないし、確かにそうだなと思いました。 
いよいよ3年経った時に不安はありましたよ。でも、給料も立場も上がって辞められなくなることのほうが怖かったんですよね」 
<figure id="attachment_304852" aria-describedby="caption-attachment-304852" style="width: 1500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="e79da55e"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/04/ce865c8290356d330baaef7f2d6d88ff.jpeg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-304852" class="wp-caption-text">スタジオに保管してある段ボールの一部。大陸や地域ごとにアーカイブされている</figcaption></figure>
<h3>タイには多種多様のナンプラーの段ボールが、東南アジアは中国製の段ボールだらけ…段ボールを通してその国の事情が見えてくる</h3>
段ボールは、それほど魅力のある存在なのか。
「見たことのない段ボールに出会うたびに、必ず発見があるんです。探しに出ると毎回新しい段ボールが見つかって、どんな人がこの段ボールをつくったんだろうと興味が湧いてきます。だから、段ボールを探し求める旅に終わりはないです」
曰く「段ボールには情報が詰まっている」という。
「段ボールって物流と関わりが深くて、その国でどんな食べ物が流通しているか段ボールを通して見えてくるんです。タイに行くとナンプラーの段ボールがたくさんあって、デザインもさまざま。それだけナンプラーの種類が豊富で消費もされているわけで、タイでナンプラーがいかに重要かわかります。 
フィリピンはバナナの段ボールをたくさん拾えると期待して行ったけど、結局、手に入りませんでした。その理由は、段ボールはプランテーションで栽培される輸出向けのバナナ用で、国内の流通には麻袋を使うから。こういうことは、現地に行かないとわからない。 
中国製の段ボールは東南アジアの国々でけっこう目にしました。特に多かったのが、リンゴと生姜の段ボール。中国と東南アジアの力関係を垣間見た気がしましたね」 
<figure id="attachment_304901" aria-describedby="caption-attachment-304901" style="width: 1500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="b3202a6c"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/04/t1wqKKRQ.jpeg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-304901" class="wp-caption-text">タイで拾った段ボールの中でも特にナンプラーの箱がデザイン豊か。文字も魅力のひとつ</figcaption></figure>
そう、こんなふうに島津さんは、いろいろ考察しながら段ボールを拾い集めているのだ。しかし、現地の人々の目には、段ボールを抱えて歩くひげを生やした青年が「変な外国人」と映りはしないだろうか。
「変な人だから、睨まれますよ。捨ててある汚れたピザの箱なんかも拾うので、ゴミをあさっていると見られるようです。段ボールを大量に持ち帰る時は、空港で係の人に聞かれることもあります。日本の空港もけっこう厳しいです。市場で拾った段ボールは臭いがするので、犬に怪しまれて検査されたこともありました」 
<div data-friday-nextpage-lead="段ボールとの出会いは、一期一会"></div>
<div class="expapp-yahoo-paragraph-break"></div>
<h3>段ボールとの出会いは、一期一会</h3>
こうして時に大変な思いをしながら海外から持ち帰った段ボールを、財布などに生まれ変わらせるのかと思いきや……。
「実は、世界中で拾ってきた段ボールを財布にしたことはないんです。一期一会だし、もう一度その国に行っても同じ段ボールを拾えるとは限らないし。それらは僕の大切なコレクション。財布にするわけにはいきません。 
僕の中では、段ボールそのものが完成されたアート作品という感覚なんです。だから取っておきたいし、コレクションが段ボール活動のコアでもあります。アップサイクルしたいという気持ちより、段ボールへの愛のほうが強いんです」
<figure id="attachment_304853" aria-describedby="caption-attachment-304853" style="width: 1500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="03603f09"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/04/b31841921c41d62605e9242a03edb5e3.jpeg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-304853" class="wp-caption-text">アゼルバイジャンのバクーで見つけた段ボール。バクーの名所が描かれており、「ご当地感がたまらない」とか</figcaption></figure>
作品づくりやワークショップには、日本で何度でも拾えそうな外国産やデザインが気に入った国産の段ボールを用いるという。「日本の段ボールは色を使っていないシンプルなものが多い」が、色を塗ったり絵柄を描き加えたりはしない。
「完成されたデザインに何か足すのは御法度な気がして。そこにもやっぱり段ボール愛があります。日本の段ボールも色鮮やかでかわいいデザインがあるので、切り取り方次第でこんなにおしゃれな財布になるんだってことを知ってもらいたいんですよね。見慣れたAmazonの箱も、財布につくり変えると意外とキャッチーだったりします」 
段ボールの魅力、段ボールの物語性、伝えたいことはそれだけではない。
「段ボールを拾いに旅をするのも財布づくりのワークショップもそうですが、僕は一貫して『不要なものから大切なものへ』をテーマに活動しています。そのフレーズには、捨てられるものにも価値があり可能性があるというメッセージを込めました。
ただ、それを前面に掲げて押しつけるようなことはしたくないんです。自分の段ボール愛が結果的に、SDGsやサステナビリティと捉えられるのは光栄なことだと思っています。 
段ボールってリサイクルされますよね。僕は財布をつくることで段ボールをアップサイクルしているけど、それはリサイクルの循環を崩すことでもあるんですよ。段ボールがリサイクルされる工程を知ると、車で運搬するとかいろんな薬品で洗浄するとか、本当に環境に優しいのかと複雑な感情も湧いてくる。
今、リサイクルの優等生と言われているものも、本当にリサイクルに頼っていいのかと考えさせられます。そういうことを、あくまでも自分の好きな段ボールの活動を楽しみながら伝えていくのが僕らしい気がします」
<figure id="attachment_304854" aria-describedby="caption-attachment-304854" style="width: 1500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="b92223fd"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/04/20d94e62acc93177d3cffdbdeb574e2f.jpeg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-304854" class="wp-caption-text">日本で最も鮮やかなのはみかん、柑橘系の段ボール。産地によってデザインがさまざまで、センスの違いを見比べるのも楽しい</figcaption></figure>
さらに、段ボール好きにはこんな夢もある。
「昨年7月に、世界中の誰もが各地で見つけた段ボールの写真を世界地図にマッピングできる『Carton Picker Finder』というWebアプリを公開しました。段ボールを好きになってくれる人がどんどん増えて、コミュニティが生まれればいいなと思っています」
島津冬樹（しまづ・ふゆき）アーティスト。1987年、神奈川県生まれ。多摩美術大学卒業後、広告代理店勤務を経てアーティストに。捨てられた段ボールを財布やコインケースなどの実用品にアップサイクルする活動が注目を集める。2018年、段ボールを拾い集める姿を追ったドキュメンタリー映画『旅するダンボール』（監督：岡島龍介／配給：ピクチャーズデプト）が公開。今年2月に成田国際空港内に新設されたSUSTAINABLE MARKET（サスティナブルマーケット）の空間デザインを担当。著書に『段ボールはたからもの　偶然のアップサイクル』（柏書房）、『段ボール財布の作り方』（ブティック社）がある。
<div class="expapp-no-provided-scope expapp-no-provided-scope-start"></div>
<a href="https://carton-f.com/" target="_blank" rel="noopener noreferrer">■島津冬樹さんのWEBサイト『Carton Studio』はコチラ</a>
<div class="expapp-no-provided-scope expapp-no-provided-scope-end"></div>
<div>
<figure id="attachment_305399" aria-describedby="caption-attachment-305399" style="width: 1182px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="9040c05d"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/04/fb6e2b8a5d4bfa30438bf77b5f7f43a0.png" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-305399" class="wp-caption-text">島津さんのインスタグラムより</figcaption></figure>
<figure id="attachment_305400" aria-describedby="caption-attachment-305400" style="width: 1178px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="b253898a"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/04/ca6628c9693217836e37aff1c836c166.png" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-305400" class="wp-caption-text">島津さんのインスタグラムより</figcaption></figure>
<figure id="attachment_305401" aria-describedby="caption-attachment-305401" style="width: 1176px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="8cee0776"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/04/17972d8eaab99039f13ccce881768a21.png" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-305401" class="wp-caption-text">島津さんのインスタグラムより</figcaption></figure>
<figure id="attachment_305402" aria-describedby="caption-attachment-305402" style="width: 1156px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="58c33b37"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/04/52df916c0316e94f3591892b2385f3d0.png" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-305402" class="wp-caption-text">島津さんのインスタグラムより</figcaption></figure>
<figure id="attachment_305404" aria-describedby="caption-attachment-305404" style="width: 1184px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="340f8bf1"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/04/37d037b3fd385caa7b84143c3babb314.png" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-305404" class="wp-caption-text">島津さんのインスタグラムより</figcaption></figure>
<figure id="attachment_305405" aria-describedby="caption-attachment-305405" style="width: 1188px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="1c6455e7"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/04/9713b48b65ab25d2bc71f64512f8d8ca.png" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-305405" class="wp-caption-text">島津さんのインスタグラムより</figcaption></figure>
<figure id="attachment_305406" aria-describedby="caption-attachment-305406" style="width: 1184px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="4cb5a59e"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/04/5af1ab0a950a2db49da117fd0c4b9a1c.png" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-305406" class="wp-caption-text">島津さんのインスタグラムより</figcaption></figure>
</div>

斉藤さゆり

用済みの捨てられた段ボールを収集するために世界をめぐる。その数、38ヵ国。「段ボールの魅力を伝えることが自分の使命だと、勝手に感じているところがあるんですよね」と、熱い思いを語る人がいる。

「東南アジアは中国の段ボールだらけだった…」世界中で捨てられた段ボールを拾い集める男の正体

あなたへのオススメ

関連記事