<figure id="attachment_305308" aria-describedby="caption-attachment-305308" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="e361e0cd"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/04/K5R8879re.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-305308" class="wp-caption-text">都内のアトリエにて。奥に見えるのがセッションを通じて「ただ感じるまま何の作為もなく」描くオーラアート</figcaption></figure>
「10歳から東京でひとり暮らしをしていました。兄は大学進学で家を出ていて、姉はアメリカのボストンへ行き、母は大阪で暮らしていたので」
『バチェラー・バチェロレッテ』シリーズの司会進行でおなじみの渋い低音ヴォイスで坂東工(たくみ)（45）は「家庭の都合ってやつです」と、こともなげに言った。
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「生活費は振り込んでもらっていたんですけど、新興住宅地に住んでいたので家の近くにATMがなくてね。自転車で山を越え谷を越え、なんとか銀行に辿り着いても、キャッシュカードを持っていたところで、子供はおカネを引き出させてもらえないんです。小学生がそんなことやっていたら、受け子だと思われるんでしょうね(笑)。月に1回程度、ふらっと帰ってくる親に現金を貰ったり、家にあった貯金箱から小銭をなんとか取り出してしのいでいました。ただ、小学校は給食があったからまだ良かったんだけど、中学に上がると昼食は弁当でしょう？　前日にコンビニでお弁当を買って持っていくしかない。知人を頼って新聞配達などバイトをかけもちしました。体育の時間によく空腹で倒れていましたね」
見かねた友人の父親が面倒を見てくれるようになった。日本大学芸術学部に進学したのも、友人の父が舞台や映画など、アートに触れさせてくれたからだった。
「たまにご飯を食べさせてくれたり、親代わりになってくれました。キップの言い方で僕は『おやっさん』と呼んでいました。ところが日藝進学後、おやっさんに『アートやるのに何を大学で勉強するんだ?　レールの敷かれた人生を歩むのか！』って言われて。その言葉がすごく突き刺さった……。たしかに大学で学ぶことは見つけられなくて、卒業後すぐ、アメリカに発(た)ちました」
大学時代にオフ・ブロードウェイで観た芝居『ファンタスティクス』のエネルギーに圧倒され、「鑑賞後に放心状態になりました。何を目的にするわけじゃなく『将来、ここに住もう』って思った」のがキッカケだった。
「一応、留学という名目での渡米だったんですけど、半年が経ち、完全にNYの日本人コミュニティに染まっている自分に気づいた。『僕はいったい何をやってるんだ？』と自問自答していたときに、当時お付き合いしていた女性のダンスを観に行ったんです。持っていたグラスを落とすほどの衝撃を受けました。『このままでは僕はダメになる！』と居ても立っても居られず、アパートを引き払って旅に出ました」
一緒に行くはずだった恋人は出発当日に帰国してしまったが、坂東は構わず出発した。中古のシボレーを買って１年半で16万㎞。大陸を横断するルート66は３往復した。
「週６日は車で寝て、残り1日はモーテルに泊まるという生活をしていました。あるとき、荒野で車中泊していたら、赤く光る無数のコヨーテの目に囲まれていた。冷や汗をかきながら息をひそめていたら、男が近づいてきて『俺についてこい』って言う。トレーラーハウスで暮らすネイティブアメリカンでした。翌朝、朝食をご馳走してもらった後に、『行くぞ』と狩猟と採掘に連れていかれて……そこから半年弱、彼と一緒に過ごしました。彼から、自然界にあるものを使ってゼロイチで物を作ることを初めて学びました。
彼と別れた後も旅は続きました。アメリカ北部は秋になると冬眠前の熊が出るんですよ。あるとき、遠目に熊がいるのが見えて、『もっと近くで見よう』と丘を越えたら間近に熊がいた。僕の体感で５ｍの距離です。警報を聞いたレンジャーが駆けつけてくれていなかったら、死んでいましたね。レンジャーに『熊と目を合わせたまま後ろに下がれ！』と言われ、腰が抜けそうになりながらなんとか逃げましたよ」
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<h2>自決のシーンでの「再会」</h2>
旅の終わりは、突然やってきた。
「サンフランシスコに寄ったとき、旅の出発の日に帰国した恋人の実家にモーテルから電話したんですよ。そしたら『亡くなった』と告げられました。病気だったそうです。彼女はそれがわかっていたから、僕の旅の邪魔をしないよう気を遣って、何も言わずに帰国したのだとわかりました。絶望が押し寄せてきて、モーテルのベッドの上で、飲まず食わずで１週間過ごしました。不審に思ったハウスキーパーが介抱してくれた後、恋人の実家に電話した電話ボックスをふと見ると、すぐ隣にある掲示板に『演劇学校生徒募集』の張り紙があった。『何かやらないと僕はダメになる』と衝動的に連絡しました。もし掲示板の張り紙が『写真学校生徒募集』だったら、カメラマンを目指していたと思います」
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「君の芝居は痛い」と言われるほど演劇にのめり込んだ。「こうして何かに心を燃やしていれば、彼女は僕の中で生き続けられるのかもしれない」と自分を追い込み、演劇学校の最難関クラスをトップの成績で卒業。わずか２年でハリウッドの大作映画『硫黄島からの手紙』で二宮和也(かずなり)（39）の上官・谷田大尉役を射止めた。28歳のときだった。
「最後の自決するシーンで走馬灯を見ました。自分の頭を銃で撃ち抜いて膝から崩れ落ちたときに、命の糸が心の中でプツッと切れる音を聞いた。撮影現場で当時の軍人の魂を感じました。亡くなった恋人の姿も見えました」
極限まで追い込んだ代償か、言語障害になった。ハリウッド俳優となった坂東に次々と出演オファーが届いたが、自己紹介で自分の名前が言えない。セリフも出てこない。失意のまま帰国した坂東を救ったのはアートだった。ネイティブアメリカン譲りの技術で作った革の小物がギャラリー店主の目に留まり、アーティストとしての活動が始まったのだ。
<figure id="attachment_306362" aria-describedby="caption-attachment-306362" style="width: 8192px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="577f70b0"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/04/K5R8889re-1.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-306362" class="wp-caption-text">アトリエにしつらえられた画材等の置き場にて。アーティスト活動歴は12年超</figcaption></figure>
「店主に『私にも同じものを作って』と頼まれて、名刺交換をしたんです。僕の名刺の裏にはアメリカの思想家で建築家のバックミンスター・フラーの散文が書いてあるんですけど、それを見た店主が『これ、バックミンスター・フラーじゃない？　ウチの店の名前、彼の建築物から取ったのよ』と言った。この出会いは偶然じゃないと確信して、作品を持っていったら『アーティストとして店に参加しなさい』って命ぜられて……1ヵ月後には、僕の作品が渋谷の西武デパートに並んでいました(笑)。
”これを造る”というプランはまったくなかったんですが、自宅に戻ってふと目に飛び込んできたのがアメリカから持ち帰った石と革でした。デザインもせず、身体が動くままに革に石を貼り付けました。いろんなことを思い出し、トラウマが押し寄せる中、貼り続けながら嗚咽していました。ほぼ不眠不休で1ヵ月半ほど作業して、体重は15㎏も減りました。出来上がった作品を見て『これは僕が創ったものではない。何かに創らされたものだ』と実感した。気づくと言語障害が治っていました。僕の精神的な何かが整ったのだと思います」
勧められるまま個展を開くと、衣装美術家で大河ドラマの衣装も担当している黒澤和子氏がやってきた。彼女のオファーで堤幸彦監督『真田十勇士』の衣装を10着制作。その衣装がアジアンフィルムアワードの衣装美術賞にノミネートされた。最近では大河ドラマ『西郷どん』の衣装も手掛けている。
<div data-friday-nextpage-lead="バチェラーシリーズでの「特命」"></div>
<figure id="attachment_306380" aria-describedby="caption-attachment-306380" style="width: 1920px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="a079bffc"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/04/IMG_1357.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-306380" class="wp-caption-text">(C) 2022 Warner Bros. International Television Production Limited</figcaption></figure>
「僕の人生、自分から動いて何かを始めたことってあまりないんです。バチェラーシリーズも、『この作品で有名になろう』『これに賭けよう』という気持ちは一切なかった。バチェラーという番組のフォーマットは日本に合わないかもしれないな、と思っていたくらいですから。声をかけていただいた際の条件に、たまたま僕がハマったという感覚です。海外での撮影が多いから英語が話せた方がいいですしね」
だが今や、欠かせない存在だ。
「ここまで長くバチェラーシリーズに出続けることになるとは、想像もつかなかったですね。シーズン１のときなんて、ネットで『なんだ、あのうさん臭いオッサンは！』とたくさん書かれましたから。それがシーズン２で『なんだか、病みつきになってきたぞ』になり、シーズン３で『やっぱり、この人じゃないと！』みたいになった(笑)。お褒めの言葉が多くてありがたいですけど、賛否両論あるぐらいが健全だと思っています。
最近、シーズン４のバチェラー・黄皓（こう・こう）さんが、秋倉諒子さんと入籍されました。黄さんとはバチェロレッテ・ジャパンとバチェラー・ジャパンと2つの旅を共にしましたが、心が折れそうになる瞬間や揺れ動く思いなど、本当に過酷な体験をしていく中で、彼自身をしっかりと支えてくれる方に最後のローズを渡されました。それがこのような運びとなったのは、嬉しい限りです。バチェラー／バチェロレッテをめぐる恋愛を６シーズン見守っているうちに、僕自身に変化がありました。自分のことばかり考えて生きていたのが、いつの間にか他人の人生を応援できる人間になっていた。人の幸せが、自分の幸せだと思い始めた。これはここ数年、僕が描いている『オーラアート』にもリンクしています。オーラアートは、ただ感じるまま、何の作為もなく描いた絵。セッション形式で描くのですが、純粋な心に触れると、それを感じた僕も、僕を通して自分の心に触れる目の前の方も浄化されるのです」
<figure id="attachment_306375" aria-describedby="caption-attachment-306375" style="width: 1920px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="e2263e77"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/04/IMG_1404.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-306375" class="wp-caption-text">(C) 2022 Warner Bros. International Television Production Limited</figcaption></figure>
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坂東は撮影現場にいる唯一のプロ。出演者たちと心を通わせ、緊張をほぐすことが「僕の役目」だと言う。
「僕は節目、節目にしか登場しないので、『画面に映っていないときは何をしているんですか？』とよく聞かれます。ただ、空き時間がたくさんあるように見えるかもしれませんが、実際は全然ないんです。デート先で起きる出来事に合わせて臨機応変に動けるよう、参加者の動向を常に把握しておかねばならない。人知れずトラブルシューティングもしています。いつ出番があるかわからないから、序盤はおちおち眠ることもできない。戦場にいるような感覚ですね。リムジンにもヘリにも乗ったことないです。お酒を飲む時間もほとんどない！(笑)
『姿勢がいいですね』とよくお褒めいただくんですけど、実は衣装のスーツがフルオーダーで、ミリ単位で調整されているので座ることすらできない。少しでも太ったらパツンパツンになるので体重管理のもツラいところです。真夏のビーチだろうが、雪山だろうがスーツというのもなかなか大変です(笑)。
ただ――バチェラーシリーズを通してファンになって下さる方や、アーティスト・坂東工の存在に注目してくれる方が増えました。大手企業さんから表彰式やセレモニーの司会を依頼されることもあります。おかげさまで去年のお休みは２日だけでした。今年も絵画の奉納とか坂東工展!?　とか、大きな仕事が決まっています」
数奇な人生が彼の人柄や作品に奥行きを生み、人々を惹きつけているのだろう。
<figure id="attachment_306381" aria-describedby="caption-attachment-306381" style="width: 1920px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="29ee0ec5"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/04/IMG_1407.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-306381" class="wp-caption-text">(C) 2022 Warner Bros. International Television Production Limited</figcaption></figure>
<figure id="attachment_306383" aria-describedby="caption-attachment-306383" style="width: 1200px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="730734bb"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/04/IMG_7435-1.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-306383" class="wp-caption-text">(C) 2022 Warner Bros. International Television Production Limited</figcaption></figure>
<figure id="attachment_305306" aria-describedby="caption-attachment-305306" style="width: 1667px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="ed6fe6d7"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/04/K5R8827re.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-305306" class="wp-caption-text">本誌未掲載カット　俳優･坂東 工　恋愛リアリティ番組『バチェラーシリーズ』進行役が明かす「僕の数奇な人生」</figcaption></figure>
<figure id="attachment_305307" aria-describedby="caption-attachment-305307" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="ff677641"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/04/K5R8878re.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-305307" class="wp-caption-text">本誌未掲載カット　俳優･坂東 工　恋愛リアリティ番組『バチェラーシリーズ』進行役が明かす「僕の数奇な人生」</figcaption></figure>
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『バチェロレッテ・ジャパン』シーズン2　Amazon Prime Videoで独占配信中
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小松寛之

世界で最も人気の恋愛リアリティ番組『バチェラー』シリーズ。司会としておなじみ坂東工氏の人生は、バチェラー・バチェロレッテに負けず劣らず特濃だった

激白！『バチェラー』坂東工「アメリカで狩猟＆採集生活してました」

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