1966年、大阪府東大阪市生まれ。bayfm『9の音粋』月曜日に出演中。主な著書に『80年代音楽解体新書』（彩流社）、『チェッカーズの音楽とその時代』（ブックマン社）、『イントロの法則80's』（文藝春秋）、『サザンオールスターズ1978-1985』（新潮新書）、『恋するラジオ』（ブックマン社）など。東洋経済オンライン、東京スポーツ、週刊ベースボールなどで連載中。新著に『EPICソニーとその時代』（集英社新書）、『桑田佳祐論』（新潮新書）

スージー鈴木

<h2>あの事件を超えて</h2>
<p>昭和末期～平成初期のいわゆる「トレンディドラマ」の最終回を（今さら）追っていく連載。今回は、31年前、1992年4月からのクールにフジテレビで放送された『素顔のままで』。</p>
<p>中森明菜と安田成美のW主演というキャスティングが、たいそう話題を呼んだ月曜21時～、いわゆる「月9」のドラマです。平均視聴率26.4%、最終回は最高視聴率31.9%（ビデオリサーチ、関東地区）ですから、なかなかの盛り上がりでした。</p>
<p>お互い不幸な生い立ちを持つものの、いかにもヤンキーでがらっぱち（言葉や動作が荒っぽいこと）のカンナ（中森明菜）と、上品で清楚な優美子（安田成美）が、なぜか意気投合して同居し、共に人生を歩んでいくというストーリー。</p>
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<p>大きな話題を呼んだ理由として、「あの」中森明菜が出演するということが大きかったはずです。『ミ・アモーレ』（85年）と『DESIRE』（86年）で2年連続の日本レコード大賞を受賞。さらに『サザン・ウインド』（84年）から 『TATTOO』（88年）まで、シングル15作連続でオリコン1位を獲得するなど、80年代の音楽シーンを席巻した「歌姫」が、いよいよ連続ドラマに、「月9」に！</p>
<figure id="attachment_307651" aria-describedby="caption-attachment-307651" style="width: 1941px" class="wp-caption aligncenter"><a href="#" data-ident_hash="367fb3af"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/05/jpp01086218.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-307651" class="wp-caption-text">1998年の中森明菜（時事通信社）</figcaption></figure>
<p>加えて、1989年7月11日に起きた中森明菜の「自殺未遂騒動」にも触れざるを得ません。さらにはその年の大晦日の22時、NHK紅白歌合戦の真裏にぶつけた、近藤真彦と中森明菜の記者会見のことも。</p>
<p>以下、中川右介『松田聖子と中森明菜［増補版］一九八〇年代の革命』（朝日文庫）より抜粋。</p>
<p>――中森明菜の傷が癒えたことと、近藤真彦とはいまも仲がよいことをアピールするための会見だった。会見を主導したのは近藤側だと伝えられた。中森明菜は婚約発表をするからと騙されて会見場に連れて来られたという噂もあった。近藤についてしまった「つきあっている女性を自殺未遂に追い込んだ悪い男」のイメージを払拭する必要が、彼と彼の事務所にはあったのだ。</p>
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<p>しかし、中森明菜のすごいところは、このような事件を超えても、音楽活動が停滞しなかったことです。翌90年には『水に挿した花』という、ガラス細工のように美しい作品をリリース。38.0万枚を売り上げ、オリコン1位に輝きます。</p>
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<p><em><span class="strongInContent">＜――♪さあ 少女のころに返してあげましょう　かつて愛された日をもう一度取り戻せるわ＞</span></em></p>
<p>『水に挿した花』（1990年発売）の中盤に出てくるこの歌詞には、歌のことだけを考えていたあの日々に帰りたいという、当時の彼女の彼女の気持ちが込められているようにも感じます。</p>
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<div data-friday-nextpage-lead="強烈な自信を感じて"></div>
<h2>強烈な自信を感じて</h2>
<p>さらに翌91年には『二人静－天河伝説殺人事件より』という48.4万枚を売り上げるヒットを放ちます。ちなみに、同曲のプロデューサー・川原伸司『ジョージ・マーティンになりたくて～プロデューサー川原伸司、素顔の仕事録～』（シンコーミュージック・エンタテイメント）に記されたレコーディングのエピソードがふるっています。</p>
<p>――スタジオで明菜さんに「じゃあ唄ってください」と伝えたら、「いまから3通り唄いますから、どの唄い方が好きか決めてください」……「やるな」と思いましたね。</p>
<p>対して、作詞家の松本隆が負けじと、「今のは全部いいけど、もう1テイクだけ、桜吹雪の中にいるような幻想的なイメージで唄って」と要求、中森明菜はさらにいいテイクを残したというのですが、このエピソードは、彼女の持つ、歌手としての強烈な自信を感じさせます。</p>
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<p>そんな中森明菜が、満を持して連続ドラマに進出した『素顔のままで』。</p>
<p>しかしまずこのドラマと言えば、まずは主題歌、米米CLUB『君がいるだけで』でしょう。売上枚数は何と289.5万枚（こちらも92年の日本レコード大賞-ポップス・ロック部門-を受賞）。</p>
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<p>同じく「月9」主題歌のCHAGE&amp;ASKA『SAY YES』や小田和正『ラブ・ストーリーは突然に』 （ともに91年）を超える特大ヒットをバックに、伊豆急行に乗って海を見つめる中森明菜と安田成美のタイトルバックが忘れられません。</p>
<p>では、そんな『素顔のままで』の最終回はどうなったのか。中森明菜はどんな演技を披露したのでしょうか。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="沢田研二とドラマとの意外な関係"></div>
<h2>沢田研二との意外な関係</h2>
<p>（ここと次の段落はネタバレあり）童話作家となっていた優美子（安田成美）が妊娠。父親は、ミュージカル女優を目指すカンナ（中森明菜）の元彼氏で（このあたりのややこしい人間関係がトレンディドラマ的）、ミュージカルの勉強目的で渡米した一也（東幹久）。しかし、優美子が心臓病を抱えていることが発覚。母体に危険があることから、カンナは優美子に中絶を要求するも、優美子は出産。それでも心臓病が悪化して亡くなってしまう。</p>
<p>その後、カンナはミュージカルで成功し、優美子が遺した娘「優奈」（ゆうな＝優美子＋カンナ）の母親代わりとなる。ラストシーンは浜辺で、優美子が描いた絵本を、カンナが優奈に読み聞かせる。そのタイトルは――『素顔のままで』。</p>
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<p>最終回をあらためて見て、ストーリーよりも、ヤンキーでがらっぱちなカンナを体当たりで演じて、踊って・叫んで・号泣する中森明菜の姿の方が印象に残るのです。</p>
<p>西﨑伸彦『消えた歌姫　中森明菜』（文藝春秋）によれば、中森明菜のマネジメント体制は、この時期、そうとう不安定だったらしく、また彼女も、このドラマの収録時はギリギリの状態だったようです。同書にある、90年代前半にスタッフとして彼女と接した栃内克彦氏のコメント。</p>
<p>――「明菜が楽屋からまったく出て来なくなり、共演の安田成美さんも困惑していました。一報を受けて私がスタジオに駆け付けると、今度はトイレに籠もって出て来なくなったのです。ようやく出て来たかと思ったら、目は真っ赤で、何度も嘔吐し、フラフラの状態になっていました」</p>
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<p>そんなギリギリの状態の中、体当たりでカンナを演じる中森明菜に目を奪われながら、私は、ある昔のドラマを思い出しました――TBS『悪魔のようなあいつ』（75年）。主演は沢田研二。</p>
<p>音楽シーンの天下を取った歌手の主演ドラマということ。その歌手が演じるのは、かなりやさぐれたキャラクターだということ（ちなみに沢田研二が演じたのは、三億円事件の犯人）、そして体当たりで迫真の演技を見せるという共通点。さらには『素顔のままで』の中森明菜と『悪魔のようなあいつ』の沢田研二（初回放送時）は、2人とも26歳！</p>
<p>そもそも中森明菜と沢田研二は浅からぬ関係があります。そもそも彼女は「目標とする歌手」に沢田研二を挙げていたり、彼女のヒット曲『少女A』（82年）の歌詞は、元々、沢田研二に提供される予定のものだったり、またTBSの番組『沢田研二ショー』（83年）の2回目のゲストが彼女で、一緒にコントを披露していたり――。</p>
<p>そして何より2人に共通する、孤独を怖れない独立独歩の「ザ・ボーカリスト」という、日本の音楽シーンでは極めて珍しい共通点――。</p>
<p>沸騰する「中森明菜待望論」。一向に収まる気配がありません。対して沢田研二はいよいよ元気。意欲的にライブを続け、来たる6月25日、75歳の誕生日には、（因縁の）さいたまスーパーアリーナでのコンサートが組まれています。</p>
<p>中森明菜復活の日が待たれます。『水に挿した花』をもう一度歌ってほしい。もう虚飾は必要ない。今の沢田研二のように、ありのままの姿と心で歌ってほしいと思うのです。そう、素顔のままで。</p>


音楽評論家。1966年大阪府東大阪市生まれ。bayfm『9の音粋』月曜日に出演中。主な著書に『80年代音楽解体新書』（彩流社）、『チェッカーズの音楽とその時代』（ブックマン社）、『イントロの法則80's』（文藝春秋）、『サザンオールスターズ1978-1985』（新潮新書）、『恋するラジオ』（ブックマン社）など。東洋経済オンライン、東京スポーツ、週刊ベースボールなどで連載中。新著に『EPICソニーとその時代』（集英社新書）、『桑田佳祐論』（新潮新書）

時事通信社

あの事件を超えて 昭和末期～平成初期のいわゆる「トレンディドラマ」の最終回を（今さら）追っていく連載。今回は、31年前、1992年4月からのクールにフジテレビで放送された『素顔のままで』。 中森明菜と

中森明菜＆安田成美のＷ主演『素顔のままで』31年ぶりに観て湧き上がる「明菜復帰の待望論」

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