<figure id="attachment_307749" aria-describedby="caption-attachment-307749" style="width: 1999px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="478b25f7"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/04/pl-2013225426172.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-307749" class="wp-caption-text">特に女性には「やせたい」という願望が強いようだ（写真はイメージです）</figcaption></figure>
近年、摂食障害の一つ「神経性やせ症」が低年齢していることを知っているだろうか。
現在は10代後半から20代だけでなく、中学生、あるいは小学生にまで広まっているのである。
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
ネットには、神経性やせ症の発症を促すような情報が溢れている。動画サイトには素人が作った「激やせ法」を解説する動画が並び、ＳＮＳには明らかにやせすぎと思われる女性が賛美される投稿やコメントが寄せられ、海外から直輸入された得体の知れないやせ薬が何種類も売られている……。
私自身、神経性やせ症の女性から、極度にやせた女性がダンスをしている動画を見せられ、「私、こんなふうになりたいんです」と言われたことがある。私には骨と皮ばかりの飢餓に瀕した人にしか見えなかったが、彼女の目には違うように映っていたのだろう。
<h2>日本の「やせすぎ人口」は先進国トップ</h2>
<figure id="attachment_307780" aria-describedby="caption-attachment-307780" style="width: 890px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="86267a4e"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/04/IMG_7091m23.4.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-307780" class="wp-caption-text">過度なダイエットに警鐘をならす河合医師（提供写真）</figcaption></figure>
日本の「やせすぎ人口」の比率は、男女共にＯＥＣＤ加盟国の先進国中でトップだ。特に女性のそれは顕著で、アジアやアフリカの開発途上国と肩を並べるレベルである。
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
現場の医師は次のように話す。
「かつて神経性やせ症の患者さんは10代後半から30代の女性がほとんどでした。しかし、近年は小学生の患者さんも出てきています。本人はそこまで自覚していないのですが、親御さんや学校の先生の方が気づいて病院に連れて来られることが多いのです」
日本では、年間に20万人以上が摂食障害で医療機関を受診しているとされるが、専門医療機関は意外なほど少ない。
昨年１月、国立国際医療研究センター国府台病院は「摂食障害全国支援センター：相談ほっとライン」を開設した。同病院の河合啓介医師と、相談を担当している看護師の中野昌子（仮名）に話を聞いた。
同病院の相談ほっとラインには、週４回の開設日にひっきりなしに相談の電話がかかってくる。本人からの電話が３割、保護者が６割弱、残りが学校の養護教員などの教育関係者だ。
<div data-friday-nextpage-lead="「ほっとライン」に寄せられた切実な悩みの中身"></div>
<figure id="attachment_307781" aria-describedby="caption-attachment-307781" style="width: 4032px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="ecba9d7c"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/04/IMG_1140.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-307781" class="wp-caption-text">相談を受けつける「ほっとライン」の様子（提供写真）</figcaption></figure>
――食べてはもどしをくり返しているのですが、もう自分ではどうにもなりません。
――（やせすぎで）学校へ登校することができなくなりました。
――病院へ行きたいのですが、体力がなく歩けません。
――娘が何も食べずひきこもっているのですが、どうしたらいいでしょうか。
――体育の授業に摂食障害の生徒を出席させてリスクはないのでしょうか。
平均20～40分の相談の間には、切実な悩みが次から次に出てくる。
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
神経性やせ症は、思春期の女性によく見られがちだが、実は死亡率が５％もある危険な病だ。すぐに死につながるというより、10年くらいつづいた末に、餓死、不整脈、自殺といったことが原因で命を落とすケースが目立つ。
<h2>自覚の乏しいやせすぎ</h2>
<figure id="attachment_307747" aria-describedby="caption-attachment-307747" style="width: 1999px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="7a799a65"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/04/pl-2013228956434-1.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-307747" class="wp-caption-text">過度にやせるのは心身に異常をきたすことも（写真はイメージです）</figcaption></figure>
相談ほっとラインに寄せられる相談の内容を細かく分析していくと、さらに深刻な現実も浮き彫りになる。河合は次のように語る。
「神経性やせ症は、主に若い女性がやせることを目的として過度なダイエットをすることが誘因になります。低体重で体力が失われ、動けなくなったり、心身に異常が現れたりします。
人がどれくらいやせているかはＢＭＩの指標で測られます。問題なのは、命の危険があるレベルの人ほど、やせすぎていることに対する自覚に乏しいことです。客観的に見れば、日常生活を営めないほどになっているのに、本人はどんどん美しくなっていると思い込んでいるので、危機感がなく、本人もダイエットを止めることができなくなるのです」
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
一般的に、ＢＭＩが18.5以下だと「低体重」とされる。中でも深刻なのは、ＢＭＩが15以下（身長160cmで体重30kg台）にまでなり、生命の危険にさらされている人たちだ。
先ほどの話に当てはめれば、ＢＭＩが18前後の人より、15を下回る人の方が逆に危機感を抱きにくい。それゆえ、本人が自ら相談をしてくる率は、15を下回る人の方が少なく、相談ほっとラインに寄せられる相談では、本人からの連絡が４割にも満たない。ちなみに、15以下の当事者は10代が４割、20代が２割、30代が1.5割と若年層が目立つ。
河合は神経性やせ症の発症要因について言う。
「この病気の要因は一つではなく、ダイエットブーム、自分の存在価値に自信を無くすエピソードなど様々です。ただし、世の中にある『やせている人ほど美しい』という考え方が、若い女性たちがダイエットをする大きな誘因になっているのは事実です。だから、彼女たちは他人の目に自分がどう映るかを気にしてダイエットをはじめて、どんどん体重を落としていくうちに止まらなくなっていくのです。
こうした傾向は’80年代にメディアがやせたアイドルを美しいとしてもてはやしたことがきっかけになって生まれたと言われています。若い子たちが、それに憧れて真似をした。最近ではテレビのアイドルだけでなく、インターネットによる影響も多大だと考えています」
<div data-friday-nextpage-lead="「いいね」がもたらす最悪の結果"></div>
<figure id="attachment_307784" aria-describedby="caption-attachment-307784" style="width: 2000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="becb9af9"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/04/pl-2013229381149.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-307784" class="wp-caption-text">一線を越えた人々には最悪の結末が……（写真はイメージです）</figcaption></figure>
近年、ＳＮＳの普及によって、女性たちが画像で自分の容姿を世間にさらすことが増えた。画像編集が当たり前になった今では、やせた女性の画像が溢れ返り、それに影響を受けて過剰なほどのダイエットをする人が出てきている。やせればやせるほど、「いいね」がもらえてコメントがつくのだから当然だろう。
極端なダイエットをしている人たちが、ＳＮＳでコミュニティを形成する傾向も高まっている。ハッシュタグをたどってダイエット友達を探し、お互いに切磋琢磨して体重を落とそうと躍起になる。そうこうするうちに歯止めが利かなくなり、無意識のうちに一線を超してしまう。
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
また、ネットには危険で間違ったダイエット情報が氾濫している。市販のチューブを使用する嘔吐法、別の病気に処方される薬をダイエット薬と紹介する方法、個人輸入した有効性や安全性が乏しい薬を服用する方法などだ。
専門家と名乗る医療関係者の中には信憑性に欠ける情報を流布する人も存在する。この分野の学会ではあまり知られていない治療者が、摂食障害の定義や治療についての客観性に乏しい情報を病院のＨＰや動画で流しているようなことがあるのだ。ネットはそれを検閲できないという欠点がある。視聴者は「医療従事者が言っているのだから真実だろう」と鵜呑みにしてしまう。
<h2>咀嚼する音だけが響く</h2>
<figure id="attachment_307785" aria-describedby="caption-attachment-307785" style="width: 3024px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="e061d017"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/04/IMG_1135.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-307785" class="wp-caption-text">多数の悩みが寄せられる「ほっとライン」（提供写真）</figcaption></figure>
さらにネットには「摂食障害者向けの食の疑似体験」とも呼べる動画もある。以前、私が神経性やせ症の女性の取材をした際、「これ、私が毎日見ている動画なんです」と言われて、ある動画を示された。
その動画は、肥満の中年が自宅の床にすわり、山盛りのラーメンをひたすら食べ続けるだけの内容だった。ラーメンは伸び切っているし、部屋はゴミ屋敷のように散らかっている。何十分も麺をすすったり、咀嚼したりする音だけが響く。私には見る意味が解せなかった。
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
ところが、神経性やせ症の女性は言った。
「これを見ていると、私がラーメンをお腹いっぱい食べた気になって満足できるんです。すごく人気のある動画なんですよ」
たしかに動画の視聴回数は10万を超えていた。このような食の疑似体験とも呼べる動画がネットには多数あるそうだ。
河合は話す。
「ネットの情報がすべて間違いとか危険というわけではありませんし、有効に利用することは意味があります。しかし、若い患者さんを見ていると、誤った情報にアクセスすることで、命を危険にさらしていたり、治療を諦めてしまっていたりするケースがあります。
この病気になるのは、若くて何かしらの課題を抱え、不安感を絶えず自覚している方が多いのです。だから、そうじゃない人と比べて、ネットの中にある間違った情報に藁にもすがるというか、惑わされやすいということもあるかもしれません。あるいは、深夜にこのような情報にアクセスすることで一時的な一体感というか、安心感を得ているのかもしれません。
だからこそ、専門機関が正しい情報を開示し、適切なアドバイスをし、信頼できる医療機関につなげなければならないのです。うちの相談ほっとラインはそのためにあるものです」
日本では、大半の女性が「やせることが美しい」という美意識を持っている。だからといって、全員が神経性やせ症になるわけではない。一線を超えてしまう人には、それだけの理由があることが多い。
両者を分ける原因とは何か。よく見られるのが、児童虐待、いじめ、ヤングケアラー、体罰などといった家庭や学校などで受けるトラウマ体験だ。そうしたマイナスの要素が過剰で危険なダイエットへと駆り立て、命を危険にさらすことになる。ある意味、現代社会の闇の部分の反映とも言える。
単なるやせ願望で済むのか、神経性やせ症にまで進んでしまうのかのラインはそこにある。
<div class="expapp-no-provided-scope expapp-no-provided-scope-start"></div>
【<a href="https://friday.kodansha.co.jp/article/307746">後編：死亡率５％「激やせ願望女性の壮絶過ぎる実話」</a>】ではこのメカニズムと、治療について考えていきたい。
<div class="expapp-no-provided-scope expapp-no-provided-scope-end"></div>
■摂食障害全国支援センター：相談ほっとライン
電話　047-710-8869
受付時間：火から金　９時～15時（休日、年末年始、お盆休みを除く）

'77年、東京都生まれ。ノンフィクション作家。国内外の文化、歴史、医療などをテーマに取材、執筆活動を行っている。著書に『絶対貧困』『遺体』『「鬼畜」の家』『43回の殺意』『本当の貧困の話をしよう』『格差と分断の社会地図』『ルポ 誰が国語力を殺すのか』などがある。

石井光太

女性を中心に蔓延する「やせたい願望」。風潮は低年齢化し小中学生にも深刻な影響が。最悪の場合に死にいたるケースも。専門医も警鐘をならす戦慄の実態をノンフィクション作家・石井光太氏がリポート！

山盛りのラーメンをひたすら食べる動画を見て満腹感…小中学生も骨と皮に「激やせ願望の戦慄実態」

あなたへのオススメ

関連記事