日本人よ、納豆のように映画も習慣に!

指南役のエンタメのミカタ 第11回

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Movie pass はアメリカで行われている定額映画サービス。「月額9.95ドルで何度でも見られる」を謳い文句に始まったが……

それは、突然の発表だった。

先の1月26日夕刻、TOHOシネマズ日本橋の公式サイトに突如、【営業中止のお知らせ】と題した一文が掲載され、同劇場が一時閉鎖されたのだ。中止の理由は「設備点検のため」――予告なしの緊急事態に、SNS界隈は大騒ぎになった。

「設備点検は表向きの言い訳では?」「営業不振?」「そう言えば、めったに混まない穴場の映画館だった」等々――。

その後、公式サイトに「一部スクリーンにおいて天井の部材に破損が確認され、天井の設備等の安全確認が必要となったため、現在、すべてのスクリーン内の点検および原因究明のための調査を行っております」と詳しい経過が追記され、ひとまず騒動は落ち着いた。このコラムを書いている現在(2月3日)も閉鎖は続いているが、設備の点検と修復が終われば営業再開される見通しで、それほど深刻な状況ではないらしい。

個人的な話だが、TOHOシネマズ日本橋は僕もよく利用している。前述の通り、あまり混まないのと、プラス1000円で利用できる「プレミア・ボックスシート」があるからだ。それは、横幅が通常シートの1.5倍もあり、左右の間仕切りで隣の人も見えないので、半プライベート空間で映画を楽しめるというスグレモノ。どんなに人気作品でも、この「プレミア~」は空いていることが多く、穴場なのだ。たった1000円の追加で2時間を快適に過ごせるのだから、利用しない手はない。

閑話休題。

それにしても――同劇場の発表に一時騒然となったのは、普段から映画館の経営に僕らが漠然と不安を覚えているからではないだろうか。思えば、このところ全国で映画館の閉館が相次いでいる。昨年も、旧「日劇」時代から85年にも渡って親しまれた国内最大級の映画館「TOHOシネマズ日劇」が2月に閉館したかと思えば、5月には渋谷シネパレスが70年の歴史に幕を閉じた。各地のミニシアターの閉館も後を絶たない。映画『ニュー・シネマ・パラダイス』じゃないが、その土地土地の名物の映画館が姿を消すのは、どこか物悲しい。

意外と知らない人も多いが、日本の映画市場は思いのほか小さい。

日本映画製作者連盟によると、2018年の日本国内の映画の興行収入は2,225億円。これ、他のメディアと比べると、テレビ放送の市場が約4兆円弱で、新聞市場が1兆7000億円、出版市場が1兆5000億円と、そのマーケットの小ささが際立っている。ちなみに、携帯電話市場は約10兆円と桁違い。そりゃ携帯のCMがテレビで流れまくるはず。

では、映画業界と同じ規模のマーケットは何かと探すと――意外にも、日本国内の納豆の市場がほぼ同じなんですね(17年が2313億円)。そう、日本人にとって映画はある意味、納豆なんです。ポップコーンじゃなく。

そんな次第で、意外と小さい日本の映画マーケット。諸外国と比べるとどうか。

2018年の北米(アメリカとカナダ)の映画の総興行収入は118億ドル(1兆3000億円)で、ざっと日本の6倍弱である。これに次ぐのが中国で、2017年は約559億元(約9650億円)と、こちらは日本の4倍強。中国の映画市場の凄さは伸び率で、日本と北米が頭打ちの中、この5年間で実に2.5倍に――。この分だと2020年には北米を抜いて、世界一になると言われている。もっとも、中国市場の伸びはハリウッド映画の人気によるもので、結局はアメリカの映画産業が一番得をしているんだけど。

え? アメリカも中国も、日本より人口が多いから、映画市場が大きいのは当然だって?

もちろん、それはそうだけど、一方で映画館の入場料は、アメリカは日本のおよそ半分、中国に至っては4分の1ほど。両国の映画館が日本と同じ金額を稼ぐには、アメリカは日本の倍、中国は4倍の観客を集めないといけない。つまり――日本の映画市場の特徴は、少ない観客に高い入場料を課すことで、稼いでいるんです。

そう、これが日本の映画界の最大の問題。

現状、日本人が映画館に行く回数は年平均1.3回。ほとんどが1回で、たまに2回の人がいるレベル。一方、アメリカ人が映画館に行くのは、年4回程度。つまり1シーズンに1回は、映画館で新作を見ていることになる。

何のことはない。日本の映画市場を伸ばすには、これまで年1回しか映画館に行かなかった人たちを2回、3回、いや――アメリカ人同様、1シーズンに1回、つまり年4回行かせるようにできれば、日本の映画市場は今の3倍になる。

え? だったら映画館の入場料をアメリカと同じレベルにしろって?

確かに、現状の一般料金、1,800円が半分――900円になれば、観客は映画館に行く回数を増やすだろう。でも、2倍に増えて、やっと今と同じ興行収入なのだ。そこから先は正直、分からない。それまで年1回ちょっとしか足を運ばなかった人たちが、半額だからと言って、いきなり3回も4回も来てくれるだろうか。

1つ妙案がある。サブスクリプション――定額制である。毎月、一定額を支払えば、何回映画館に足を運んでもいいとするアレである。これなら元を取ろうと、何回も劇場に来てくれるかもしれない。既にアメリカではいくつかの定額サービスが登場し、大いに人気を博している。

え? 先行した「MoviePass」は人気が出すぎて、経営難に陥ったじゃないかって?

確かにそうだ。「月額9.95ドルで見放題」のプランは魅力的すぎて利用者が殺到し、同社は莫大な赤字を生んで、とうとう見放題のサービスをやめてしまった。

だが、アメリカがしたたかなのは、MoviePassが抜けた穴を埋めようと、早速「SiNEMiA」や「AMC Stubs A-List」といった次なる定額サービスが登場し、試行錯誤を繰り返しつつ、より最適なプランを提供していること。そして――今度はそこそこ上手くいっている。

やはり、時代は定額制なのだ。既にNetflixやHuluなど、多くの動画配信サービスが定額制であるように、元来、映画鑑賞と定額制の相性はいい。幸い、日本の映画市場は「全国ロードショー」公開の作品は全国一律の料金体系(外国では同じ作品でも、地域や映画館によって料金が異なる)であり、定額制のプランを導入しやすい。日本の映画市場でいくらのプランなら最適か、最初は試行錯誤に苦しむかもしれないが、必ずやベストの金額設定に出会えるはず――。

これまで年平均1.3回しか映画館に足を運ばなかった日本人が、2回、3回と通うようになり、毎シーズン映画館で新作を見るのが習慣化すれば――日本の映画市場は変わる。大事なのは、映画を特別なイベントではなく、習慣化すること。

そう、毎朝食卓で食べる納豆のように、ね。

  • 草場滋(くさば・しげる)

    メディアプランナー。「指南役」代表。1998年「フジテレビ・バラエティプランナー大賞」グランプリ。現在、日経エンタテインメント!に「テレビ証券」、日経MJに「CM裏表」ほか連載多数。ホイチョイ・プロダクションズのブレーンも務める。代表作に、テレビ番組「逃走中」(フジテレビ)の企画原案、映画「バブルへGO!」(馬場康夫監督)の原作協力など。主な著書に、『テレビは余命7年』(大和書房)、『「朝ドラ」一人勝ちの法則』(光文社)、『情報は集めるな!」(マガジンハウス)、『「考え方」の考え方』(大和書房)、『キミがこの本を買ったワケ』(扶桑社)、『タイムウォーカー~時間旅行代理店』(ダイヤモンド社)、『幻の1940年計画』(アスペクト)、『買う5秒前』(宣伝会議)、『絶滅企業に学べ!』(大和書房)などがある

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