年間5000件 アクセルとブレーキ「踏み間違い事故」の怖い現場
「ペットボトルのお茶を飲んだらむせてしまい、フロントガラスに吐き出した。驚いて(ブレーキのつもりで)アクセルを踏み抜いてしまった。その先の記憶はありません」
1月16日、新宿髙島屋の近くで乗用車が暴走し、対向車線を横切って歩道に乗り上げた。車はそのまま歩行者を次々とはね、4人が重傷を負った。車を運転していた79歳の男性は冒頭のように警察に話したが、一体彼に何が起きたのか。
「車の運転は心理学で『スキーマ』と呼ばれる”無意識”の操作の集合です。今回の事件は、お茶でむせたという突発的な出来事が生じて、無意識の動作に間違いが起きてしまったと考えられます。中でも高齢者の場合は、踏み間違えた後も自分の過ちに気づけず、そのまま暴走してしまうことがあるのです」(『交通事故鑑定ラプター』所長の中島博史氏)
こうした事故は年間約5000件も発生しており、事故による死者は51人、負傷者は6700人を超える。加害者は20代と70代以上の高齢ドライバーに多い(’17年。交通事故総合分析センターの交通統計による)。一日に13件以上も踏み間違い事故が起きている計算だ。
中島氏は踏み間違い事故は、ある癖を持っている人ほど起こしやすいという。
「本来、アクセルとブレーキを踏み分けるには、かかとを支点にして足をひねるのが正しい動作ですが、かかとを上げて操作している人がいる。それでも人間は、目をつむっていても手や足がどこにあるのかがわかる『固有覚』という感覚を持っているので、普段は踏み間違いを起こしません。ただ、パニックを起こすと踏み間違えていることに気づけないのです」
踏み間違い事故は、ドライバーの誤操作だけを原因としてはいけない――そう指摘するのは、福山大学工学部機械システム工学科准教授の関根康史氏だ。
「実はアクセルペダルとブレーキペダルのレイアウトを国は保安基準として定めておらず、メーカーによってペダルの位置が異なります。たとえば、アクセルとブレーキがやたらと近いようなレイアウトだと、踏み間違いを起こすリスクが高くなります。また、メーカーには、踏み間違い防止の安全装置を開発・装備するような対応が求められています」
あなたや家族が、被害者にも加害者にもなる。踏み間違いは、だから怖い。
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- 写真:時事、毎日新聞社/アフロ