グレン・クローズ 7度目の正直で悲願のアカデミ―主演賞獲る!? | FRIDAYデジタル

グレン・クローズ 7度目の正直で悲願のアカデミ―主演賞獲る!?

「危険な情事」の"恐怖の女"から「天才作家の妻」まで 名女優が"ラストチャンス"に挑む

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映画賞の大トリを飾る米国アカデミー賞(日本時間2月25日午前開催)は、史上最高の混戦状態となっている。その中でほぼ当確と予想されているのが、主演女優賞部門のグレン・クローズだ。エミー賞とトニー賞を3回づつ受賞しているアメリカの演技派女優だが、アカデミー賞にはこれまで6度ノミネートされたものの無冠だった。来たる3月で72歳、最後のチャンスとなる可能性もあり、受賞に期待がかかっている。

偉大なる世界的な作家と、彼の創作を慎ましく支えてきた完璧な妻。その日、ノーベル文学賞、受賞を知らせる電話が鳴る…。その吉報は人生の晩年に差しかかった夫婦を危機に陥れる。男女間の機微をリアルかつ残酷にあぶり出す心理サスペンス。映画「天才作家の妻 -40年目の真実-」(c)META FILM LONDON LIMITED 2017

対象の作品は『天才作家の妻 -40年目の真実-』。長年連れ添ってきたオシドリ夫婦の関係が、夫のノーベル文学賞受賞により揺らいでいく様を描いた心理ドラマである。クローズが演じる妻ジョーン・キャッスルマンは、作家を目指していた大学生時代に妻子ある教授ジョゼフと出会い、略奪婚した後は、その文才を生かしていわゆるゴーストライターとして夫に尽くした。文字通り、二人三脚でつかんだ成功なわけだが、ノーベル賞作家として脚光を浴びるのは彼だけ。人生も晩年にして、自分のアイデンティティに疑問を抱き始める。

メグ・ウォリッツァーのベストセラー小説『The Wife』(2003年刊)が原作だが、映画界で今、起っている#MeToo問題に始まる性差別の是正や女性の地位向上などの運動を考えるとなんともタイムリーなテーマである。

愛している男性の役に立ちたい。一方で、世間を、そして何よりも自分を欺いている生き方に対する疑念。知的で愛情に溢れ、”内助の功”を見事に努める賢妻の苦悩と目覚めを演じたクローズの演技は真実味に溢れ、人々、特に女性たちの共感を得ることは間違いない。

紛れもなくオスカーもののパフォーマンスだ。

夫ジョゼフ・キャッスルマンを演じるのはジョナサン・プライス。「未来世紀ブラジル」(85)に主演。「キャリントン」(95)でカンヌ国際映画祭男優賞受賞。他に「エビータ」(96)、「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズ(03~07)など多数の名優。映画「天才作家の妻 -40年目の真実-」(c)META FILM LONDON LIMITED 2017

映画ファンならば、迫力のある悪女役で魅了してきたクローズのこれは、新たなる挑戦であると認識するだろう。

面白いことに、この映画を観て思い出すのは、グレン・クローズ名を世界に知らしめた1987年の大ヒット作『危険な情事』である。

妻子ある弁護士(マイケル・ダグラス)は、一夜限りの遊びとパーティで知り合った雑誌編集者のアレックス(クローズ)と関係を持つが、彼女は運命の出会いと信じて彼を追いかける。アカデミー賞6部門にノミネートされたこの映画は、当時、浮かれたバブル時代の不倫文化に警鐘を鳴らす作品とされ、アレックスは男を破滅させる怖い女の象徴のように取り上げられた。クローズの悪女伝説の始まりでもある。

30年前、妻子ある男に恋をしたことで人生を棒に振った女を演じたクローズは、今度は、略奪婚に成功したものの、結局は幸せを得られなかった女を演じ、またもやアカデミー賞にノミネートされたワケである。

インタビューでクローズは当時を振り返ってこう語ってくれた。

「今、あの映画を観るとアレックスをまったく違う視点から見るようになりますよ。当時は、モンスターのように言われたけれど、今なら彼女は不当に扱われた女だと思えるでしょう。時代とともに見方が変わってくるのは面白いわ。でも、当時も私は子供の頃の近親相姦体験というトラウマを抱え、人との適切な人間関係を築けない女性、と解釈して演じたけれど、結局、それは映画にあまり反映されなかった。そしてヴィラン=悪役扱いにされてしまったのよ」

今回、7度目のアカデミー賞ノミネートとなったクローズにとって、『天才作家の妻 -40年目の真実-』で受賞することは悲願の受賞であるだけでなく、”不当に扱われた過去”に対するリベンジでもあるのだ。

記者ナサニエルは作家ジョセフの経歴・作家としての力量に疑問を持ち、キャッスルマン家に執拗につきまとう。演じるクリスチャン・スレーター(左)は『トゥルー・ロマンス』(93年)。『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』(94年)などで活躍し、近年は大人気ドラマ「MR. ROBOT/ミスター・ロボット」でミスター・ロボット役を好演。映画「天才作家の妻 -40年目の真実-」(c)META FILM LONDON LIMITED 2017
大女優グレン・クローズ。アカデミー主演女優賞ノミネートは「危険な情事」(87)、「危険な関係」(88)、「アルバート氏の人生」(11)、「天才作家の妻」(18)。同助演女優賞ノミネートは「ガープの世界」(82)、「再会の時」(83)、「ナチュラル」(84)。7回目のノミネートで悲願の受賞を果たすか? 主演女優賞の有力ライバルとして「女王陛下のお気に入り」でアン女王を演じたオリヴィア・コールマン(本作でベネチア映画祭女優賞を受賞)、そして「アリー/ スター誕生」で一世一代のハマリ役を演じたレディー・ガガの名前が挙がる  映画「天才作家の妻 -40年目の真実-」(c)META FILM LONDON LIMITED 2017
ヒロイン、ジョーン・キャッスルマンの若き日を演じるアニー・スターク(88年生まれ)はグレン・クローズの娘。若い頃のジョゼフ・キャッスルマンを演じるのはハリー・ロイド。映画「天才作家の妻 -40年目の真実-」(c)META FILM LONDON LIMITED 2017
夫への愛と憎しみの狭間で引き裂かれた妻は、世界中の注目が集まる授賞式でいかなる”決断”を下すのか――。 映画「天才作家の妻 -40年目の真実-」(c)META FILM LONDON LIMITED 2017
  • 立田敦子

    (たつたあつこ)映画ジャーナリスト、評論家。映画祭や国内外でインタビューする映画人は、年間200人ほど。「FIGARO JAPON」「ELLE JAPON」「VOGUE NIPPON」「すばる」「キネマ旬報」など多数の媒体に映画評、コラム、インタビューなどを執筆。著書に『どっちのスター・ウォーズ』『おしゃれも人生も映画から』(共に中央公論新社刊)がある。

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