<figure id="attachment_310006" aria-describedby="caption-attachment-310006" style="width: 5504px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="6bec0d93"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/05/TZ2_4535-rotated.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-310006" class="wp-caption-text">作者の齊藤彩さん。初の著書となった『母という呪縛　娘という牢獄』が異例のヒットを記録した</figcaption></figure>
‘18年３月、滋賀県守山市旧野洲川の河川敷で両手・両足・頭部を切断された58歳の女性の遺体の一部が見つかった。3ヵ月後、警察はその女性の娘・髙崎あかり（仮名、当時31歳）を死体遺棄容疑で逮捕、同年9月には、殺人容疑で再逮捕している。その後の裁判で、あかりは一審まで殺害を否認していたが、二審では自らの手で母親を殺害したことを認めた。
娘のあかりには大学医学部合格のため9年間の浪人生活を送っていた過去があった。死亡した母は、幼いころから彼女を支配。浪人生活中は常に彼女を監視し、思うように成績がのびないと鉄パイプで殴った。母を殺した午前３時すぎ、あかりはツイッターに「モンスターを倒した。これで一安心だ。」と投稿していたことがわかっている。
小説のような話だが、これは実際に起きた事件である。この事件の犯人と接触し、事件に至るまでの過程を丹念に描いたノンフィクション『母という呪縛　娘という牢獄』（講談社）は大きな反響を呼び、現在７刷５万部のベストセラーとなっている。
著者の齊藤彩氏は、共同通信社の社会部で司法担当記者として働いたのちに退社し27歳で本書を書き上げた。出版後、母親を殺した娘の内面に迫る丹念な取材が賞賛を集める一方で「娘の言い分しか描かれていない」「これはノンフィクションじゃない」という批判もあったという。そういった批判は覚悟のうえで、それでもあえて母親をバラバラにして殺した娘のあかりに寄り添い書ききったと齊藤氏は語る。娘の視点から描くことで伝えたかったこととはなにか。齊藤氏に聞いた。
<figure id="attachment_309992" aria-describedby="caption-attachment-309992" style="width: 5118px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="410bae9e"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/05/TZ1_1239-rotated-e1683540155194.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-309992" class="wp-caption-text">講談社にてインタビューに応えた著者の齊藤彩氏</figcaption></figure>
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―齊藤さんが初めて髙崎あかりと接触したのは、共同通信の司法記者として勤めているときだったと伺いました。８回にわたる接見や手紙のやりとりを重ね、ネット上に記事をアップしたところ、大きな反響があったそうですが、この事件を取材し始めた当初からこのようなかたちで本にまとめようと思っていたのですか？
いえ、まったく考えていませんでした。記者として様々な事件を取材するなかで、犯人も含めた当事者に接触を試みることは必ずするんですよ。ただ、やっぱり実際に会えることは本当に少なくって、直接お手紙のやりとりをこんなに重ねることは初めてでした。あかりさんに取材をして5000字ちょっとのデジタル記事を書いてアップしたところ、かなり反響があったので、自分としてはそれで満足していましたね。そんな中、編集者さんから書籍化のお声がけをいただいて、せっかくなのでやってみようかな、と。そこから、9割ぐらいは追加取材した要素です。
―齊藤さんにとってあかりはどのような人物に映りましたか？
「この人は殺人犯だから、こんな人なんだろう」みたいな先入観を持たないようにしたいと思っていたので、予想に対してのギャップは特にありませんでした。取材のときは、事前に質問を送っていたということもあって、準備していたことを理路整然とよどみなく話してくれました。普段私達が接してるような人たちとかなり地続きのところにいる人だなと、強く実感しましたね。
<figure id="attachment_310009" aria-describedby="caption-attachment-310009" style="width: 6000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="9b3fa834"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/05/IMG_9008.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-310009" class="wp-caption-text">齊藤氏がうけとった、あかりの手書きの手記</figcaption></figure>
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<div data-friday-nextpage-lead="娘には「言いたいこと」があった"></div>
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FRIDAYデジタルは、あかりが本書の作者である齊藤氏に向けて書いた手記の一部を入手した。無味な原稿用紙に記された彼女の字は整っており、文字を書きなれている様子が見て取れる。本の構成に沿って記述された文章は明快で、&#8221;母親をバラバラにする”ような異常性は全く感じられない。あかりとは一体どんな人物なのか。
―刑事事件の被告人が取材に答えてくれるのは稀ということでしたが、他の被告人とあかりではなにが違っていたのでしょうか？
彼女は何か言いたいことがあったのだと思います。この事件に対しても、一人の人間として、何か自分の口で語りたいことがあるんだろうな、ということは会う前から思っていました。取材を通して、彼女が言いたかったことのすべてを理解できたとは思いませんが……自分の置かれていた状況を理解してもらいたい、という気持ちと、一審が終わるまで殺人を否認していたことへの償いの気持ちで取材を受けたのだと思います。
―取材の内容を本にしたいと言ったときはどんな反応だったんですか？
本人は、始めはまったく乗り気じゃなかったんです。実際に打診してから、出版へ向けた取材をするまで3～4ヵ月かかったと思います。色んな方法で交渉して、やっと許可してくれたという感じでした。取材には応じてくれたものの、彼女が出所したあとの人生を考えると、かたちに残ってしまう本まで出す必要はなかった。そういう意味では、私がさっき言ったことと少し矛盾してしまいますが、彼女は何でもかんでも自分のことを言いたいという訳ではなかったのかもしれないですね。
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―本書には、９年間の医学部浪人を含めた事件までの約30年間の壮絶な母と娘の関係が描かれています。母親は当時27歳だった娘に対し冬の庭で土下座を強要してその様子を撮影したり、娘のふりをして親族に手紙を出したり……母親は、はたから見れば異常な行動を繰り返しています。裁判の陳述書であかりは「私か母のどちらかが死ななければ（この関係は）終わらなかったと現在でも確信している」と述べるに至っています。娘とその母親がこういう異様な関係・状況に追い詰められてしまう、最初のつまずきはどこにあったのでしょうか？
決定的なつまずきやターニングポイントはなかったんじゃないかと思うんです。私も「なぜ母と娘がこんなに煮詰まった関係になってしまったのか？」という理由を知りたくて取材を始めました。しかし、集めたものをつなぎ合わせてみると、たとえばある時期から母親の人格が変わったとか、そういう決定的なターニングポイントってなかったんです。なので、起承転結や無理な理由付けは特にせずに書きました。全部書き上がったとき、事実ではあるにせよ読者が退屈してしまう冗長な内容になってしまったのでは？　という懸念はありました。でもここに書いてあることは紛れもない真実ですし、それ以上の肉付けもできません。決定的な出来事は特にないけど、母と娘が苦しい時間をすごした、っていうのがこの作品の一つの答えだと思います。
<figure id="attachment_310010" aria-describedby="caption-attachment-310010" style="width: 6000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="6f2c8481"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/05/IMG_9019.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-310010" class="wp-caption-text">原稿用紙には、端正な文字が並んでいる</figcaption></figure>
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<div data-friday-nextpage-lead="娘・あかりとの距離"></div>
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―読者からは、「私もあかりさんの気持ちがわかる」「自分もこうなっていたかもしれないと思う」という感想が多く届いていると伺いました。齊藤さん自身が彼女の人生にかなり深く入り込んで書かれた本だからこそ、読者の共感を得られたのだと思います。ただ、記者として取材対象者の人生に深く足を踏み入れるというのは、のめりこんで公平な目線を失いかねないという点で怖いことでもありますよね。
この書籍に関しては、ジャーナリストとして取材対象との距離感の点で私は失格だと思っています。報道記者って、取材対象をある種突き放さないと公平ではいられないんですよね。自分もこれまで通信社に属していたのもあって、いい意味で疑い深く、取材対象と距離を取って取材をしてきました。でも今回の取材を進めていくうちに、良くも悪くもあかりさんとの心の距離が埋まっていく感じがあって……最終的には彼女の人生を、自分があたかもその場にいたかのように想像する形で文章にせざるを得ませんでした。ですからジャーナリズム界の人からは批判を受けますし、それも当然のことだと思っています。自分も、母ではなく“娘”という立場。その点であかりさんに寄り添えたからこそこういう作品になったと思います。
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―齊藤さんのお母様もこの本は読まれたんでしょうか？
読みました。内容よりも、母にとっては自分の娘が本を出すっていうこと自体が嬉しかったらしくて。やっぱり母親にとって私は娘なんだって思いました。ですから本の感想は「よく取材したんだね」くらいでしたね(笑) 。
―齊藤さんご自身は、今後ノンフィクションの書き手として活動していくご予定でしょうか。
まったく白紙です。この本を書けたのは本当にいろんな運と縁が重なったからなんです。自分の経験とか能力以上のものができてしまったので、このクオリティーを果たして再現できるのだろうか？　と考えると……できるともやっていきたいとも、言えません。本を書くのって、記者のときにやっていたように、取材して記事を書くということの延長だと思っていたのですが、実際やってみたらめちゃくちゃしんどかった。取材したりいろんな記録を見たりすることで、彼女の苦しんだ30年を自分が追体験していたので、自分自身がすごい苦しくなっていくんですよね。眠れなくなってしまうこともあり、特殊な環境だったと思います。今後については、一度落ち着いてから考えたいですね。
―本書の序章には「家族との関係に悩むすべての人に、この本を届けたいと思っている」と書いてあります。今後も、そういった方々に手に取ってほしいですか？
やっぱり、特にお母さんの立場の人に読んでほしいなと。娘を愛するがゆえに、娘を苦しめていないか？　っていう事をちょっと顧みてほしい。そのきっかけにこの本がなればいいな、と思っています。
’21年1月26日大阪高等裁判所で、母親の殺害に至った背景には娘に対する「異常ともいえる干渉や監視があり（中略）経緯においては同情すべき点がある」として懲役10年の二審判決が言い渡され、確定している。「母と娘」「家族」……誰にでもあるほころびから生まれてしまった凄惨な事件。ノンフィクションに接したことがないひとにこそ、読んでほしい一冊だ。
<figure id="attachment_310012" aria-describedby="caption-attachment-310012" style="width: 4416px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="c211d9ac"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/05/TZ2_4085-rotated-e1683551895144.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-310012" class="wp-caption-text">齊藤彩『母という呪縛　娘という牢獄』（講談社）</figcaption></figure>

結束武郎

作者の齊藤彩さん。初の著書となった『母という呪縛　娘という牢獄』が異例のヒットを記録した ‘18年３月、滋賀県守山市旧野洲川の河川敷で両手・両足・頭部を切断された58歳の女性の遺体の一部が見つかった。

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