<figure id="attachment_310365" aria-describedby="caption-attachment-310365" style="width: 1999px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="3250bf9d"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/05/pl-2013103250613.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-310365" class="wp-caption-text">家出をしても行き場のない若者は多い（写真はイメージです）</figcaption></figure>
<p>家を失い、路頭に迷っている若者たち。彼らの胸の中にあるのは、幼い頃に愛情を注がれなかったがゆえに空いた心の穴、被害者意識から生じる歪んだ価値観だった。</p>
<p>熊本でそんな若者たちの支援をしているNPO法人「トナリビト」の山下祈恵代表に、【<a href="https://friday.kodansha.co.jp/article/310323">前編：「ネグレクトを受けた15歳少女」生々しい実態</a>】につづいて話を聞きたい。</p>
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<p>近年、国は虐待や貧困の予防に力を入れてきている。しかし、実際に被害者の受け皿となる場所がどれだけあるかと言われれば、甚だ疑問だ。</p>
<p>本連載で見てきたように、国は児童相談所、児童養護施設、母子生活支援施設などといった施設を全国に設置している。だが、それらは必ずしもすべての若者たちのセーフティーネットになっているわけではない。</p>
<p>たとえば困難にある子供たちは家から出た後、夜の街で売春をしたり、万引きや強盗をしたりすることがある。あるいは、寝る場所と刹那の愛情を求めて、ゲームやSNSで知り合った人のところを転々とする。</p>
<h2>昔のヤンキーや暴走族は今……</h2>
<figure id="attachment_310342" aria-describedby="caption-attachment-310342" style="width: 3883px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="87ce3994"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/05/IMG_3887-2-1.jpeg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-310342" class="wp-caption-text">行き場を失い繁華街で売春行為にはしる少女も（写真はイメージで一部加工しています）</figcaption></figure>
<p>こうした行為は、彼らにとっては独力で生きてく手段だ。しかし、社会的に見れば「非行」とされ、注意や処罰の対象となる。そうなると、若者たちはなかなか国の用意した施設になじもうとしない。</p>
<p>トナリビトが行っているのは、そういう若者たちにこそセーフティーネットとなりえる事業だ。</p>
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<p>【前編】で見たように相談窓口や居場所を設けているほかに、一時避難の場であるシェルターや、１年単位で住居を提供して支援を行う自立支援シェアハウス事業を行っている。前者の定員は１名（きょうだいなどに限って４名まで可）、後者の定員は６名（男女）だ。</p>
<p>山下は言う。</p>
<p><span class="strongInContent">「うちの自立支援シェアハウス『IPPO』では、原則的に１年間住居を提供しています。住んでいるのは、開設当初から男子の方が多くて、全体の６割を占めています。</span></p>
<p><span class="strongInContent">昔のヤンキーは家を出ても悪い先輩の家に居候するとか、建設関係の会社の寮に入るとかして、夜は仲間でつるむみたいな感じだったと思います。けど、今の子は、そんなに強くありません。暴走族みたいなグループをつくることも、社会に反発したりすることもしませんし、建設関係の親方に怒られながら働いて自立を目指すことも苦手です。そういう意味では、売春や水商売といった仕事のある女子より、男子の方が住居を失いやすいのかもしれません」</span></p>
<p>たしかに一時代前まで、不良と呼ばれるような男子は若者の中の強者であり、他者を抑圧することで自分の居場所を強引にでも作り上げていた。だが、今の若者は反対だ。人と群れることができず、欲望や目的を隠し、些細なことでつまずいて立ち上がれなくなる。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="今の若者が居場所を作れないワケ"></div>
<figure id="attachment_310371" aria-describedby="caption-attachment-310371" style="width: 4240px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="adc939d9"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/05/DSC03017-1.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-310371" class="wp-caption-text">家出した若者には様々な誘惑の手が（写真はイメージで加工しています）</figcaption></figure>
<p>なぜ、こうしたことが起きているのか。山下は、若者を取り巻く環境の変化が背景にあると考える。</p>
<p>現代の家庭は閉鎖的であり、親以外の価値観が入り込む余地が極めて少ない。そのため、子供は親からの虐待などの悪影響にさらされやすい。そうなると、子供たちはゲームやSNSといった二次元の世界に逃げ込むのだが、そこにきちんとした解決策があるわけではないし、自分で状況を打破する力を養うこともできない。その結果、自立することができず、家から離れた途端に漂流するという事態が起きてしまう。</p>
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<p>こうした若者たちは、家から逃げ出す際にオンラインゲームやSNSを利用するのが一般的だ。【前編】で述べたように、彼らはSNSのフォロワーを、顔も本名も知らないのに「友達」と考える。だから、SOSを出した時に、「うちに来なよ」「泊めてあげる」と言われると、疑いもなくついていってしまう。</p>
<p>女子の場合はそれで性犯罪に遭うことが少なくないが、男子の場合は行ってみたら同じような問題を抱えて心を病んでいる女性だったりすることがある。そうなると、一緒に暮らしてもうまくいかず、アパートを追い出されてホームレス化する。</p>
<h2>「人を信用できない」</h2>
<figure id="attachment_310337" aria-describedby="caption-attachment-310337" style="width: 1999px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="5b9fec61"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/05/pl-2013101193667.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-310337" class="wp-caption-text">親からの虐待により犯罪行為も当たり前だと考える少女も多い（写真はイメージです）</figcaption></figure>
<p>山下は言う。</p>
<p><span class="strongInContent">「うちに来る子たちはよく『人を信用できない』と言います。親を含めて大人からは傷つけられてばかりで、誰を信じていいかわからないのです。だから、信頼も、希望も持つことができない。</span></p>
<p><span class="strongInContent">私はそんな子にこそ、〈埋め合わせ体験〉と〈価値観の上書き〉の機会を与えることが必要だと思うのです。彼らの生活をできるだけ安定させ、親に代わって愛情を注ぐことによって心の穴を埋め、自分を大切にして生きていけるようにしているのです」</span></p>
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<p>こうした子供たちの心の穴を埋めるのは決して簡単なことではない。愛情をまったく知らない子供たちは、その分だけ大きな愛情を求めてくる。</p>
<p>20歳前後の男子たちが、「手をつなぎたい」「抱きしめて」「頭をなでて」と訴えてくることはもちろん、中には「母乳を飲みたい」と言ってくる者もいるという。指をしゃぶりしながら恍惚として抱きしめてもらうような深い愛情を欲しているのだろう。</p>
<p>どこまで要望を受け入れるかは別にしても、愛情を注がれることによって彼らの心が満たされれば、生きていることに希望を持ち、社会に順応しようと考えるようになっていく。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="なぜ失敗させることが大切なのか"></div>
<figure id="attachment_310356" aria-describedby="caption-attachment-310356" style="width: 3888px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="4ba65265"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/05/IMG_3870.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-310356" class="wp-caption-text">新宿・歌舞伎町などの繁華街には行き場を失った多くの若者が集う（写真は一部加工しています）</figcaption></figure>
<p>山下はつづける。</p>
<p><span class="strongInContent">「うちに来ている子たちをサポートする際に気を付けているのが、自分で決めさせて失敗させることです。何のアルバイトをするのか、稼いだお金をいつどれだけつかうのか、どこでどのように生活するのか。すべて自分で考えて行動させます。</span></p>
<p><span class="strongInContent">世の中は10代の中卒、高卒の子が簡単に生きられるほど甘くはありません。つまずいて当然なのです。だから、自分で決めさせて、失敗させることで、自分はどういう人間なのか、どういう力をつけなければならないのか、合う仕事は何なのかを見つけさせることが必要だと思っています。</span></p>
<p><span class="strongInContent">他人が選んだものなら、彼らは失敗した時にその人のせいにします。でも、自分で選んで失敗したら自分の責任ですよね。だから、もう一度やるしかない。そういう積み重ねの中で、社会で生きるために必要な力をつけさせるのです」</span></p>
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<p>若者たちは遅かれ早かれ独り立ちしていかなければならない。その時にかならず必要なのが仕事だ。</p>
<p>トナリビトは、困難にある若者の雇用に積極的な企業を集めた「職親ネット」を運営している。登録企業は、農家、介護事業者、美容室、板金塗装会社など様々だ。各企業の経営者は若者たちの事情を理解しているので、トナリビトと連携を取りながら適切なフォローをしてくれる。</p>
<h2>「じゃあ、次やってみようか」</h2>
<figure id="attachment_310359" aria-describedby="caption-attachment-310359" style="width: 3888px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="2da71f5f"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/05/IMG_3879.jpeg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-310359" class="wp-caption-text">家出した若者には様々な誘惑の手が（写真はイメージで加工しています）</figcaption></figure>
<p>もちろん、それでも彼らの中には途中で辞めてしまう者も少なくない。しかし、トナリビトのスタッフは「なぜ辞めたのか」と責めるような言い方をせず、「まぁ、そうだよね。じゃあ、次やってみようか」という姿勢で対応する。</p>
<p>仕事に音を上げて辞めるのは当たり前。だから、５社、10社と渡り歩いているうちに、その子に合うところが見つかればいいというスタンスこそが、若者たちの生きやすさにつながると考えているからだ。</p>
<p>山下は言う。</p>
<p><span class="strongInContent">「活動をしている中で、うちの団体の事業って川の下流に小さなカゴ（セーフティーネット）を置いているだけじゃないかって思うんです。本当にわずかな人を支援しているにすぎません。本来は川の上流に当たるところで家庭の支援をしたり、もっと大きなカゴを用意したりしてたくさんの人をサポートしたいんです。</span></p>
<p><span class="strongInContent">今の日本は『子供は国の宝』と言いつつ、宝として扱っているように思えません。私が住んでいたアメリカでは、低所得の人にはピルを無料で配布したり、出産を無料化するだけでなく、母親に必要な栄養を採るための食糧チケットを渡したりしています。役所へのアクセスのしやすさも段違いです。日本も本当の意味で子供を大切にしようとするのならば、社会のインフラそのものを変えていかなければならないと思います」</span></p>
<p>たしかにそうした一面もあるかもしれない。だが、熊本には若者向けのシェルターやシェアハウスを持って支援をしている団体は、トナリビト以外にない。そういう意味では、トナリビトの取り組みは、小さいかもしれないが、将来的には大きな一歩となるはずなのだ。</p>
<p>最近、トナリビトにつながった若者たちが、自らの意思で手伝いを買ったり、支援する側に回ったりすることが増えているらしい。そんな風に、小さな一歩は着実に大きなものへとなるのだろう。</p>


'77年、東京都生まれ。ノンフィクション作家。国内外の文化、歴史、医療などをテーマに取材、執筆活動を行っている。著書に『絶対貧困』『遺体』『「鬼畜」の家』『43回の殺意』『本当の貧困の話をしよう』『格差と分断の社会地図』『ルポ 誰が国語力を殺すのか』などがある。

石井光太

ＤＶやいじめ、ネグレクトなどで家にいられなくなった若者たち。おカネの問題でネットカフェさえ逃げ込めない人もいる。ノンフィクション作家の石井光太氏が彼らののっぴきならない実情を生々しくリポートする。

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