スポーツライター　1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年よりスポーツライターとして活躍。主にラグビーについての取材を行なっている。著書に『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー 闘う狼たちの記録』（双葉社）がある

向 風見也

<figure id="attachment_310522" aria-describedby="caption-attachment-310522" style="width: 769px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="1415e270"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/05/2023022611186.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-310522" class="wp-caption-text">リーグワンの試合でトライをする埼玉ワイルドナイツの堀江翔太。スクラム最前列でフォワード8人を統率する力仕事をしながら、軽快に走れる脚力も特徴だ（写真：共同通信）</figcaption></figure>
9月にフランスで開幕するラグビーワールドカップ（以下、W杯）まであと4ヵ月となった。ラグビー日本代表として3度のW杯に出た堀江翔太は、37歳のいまも第一線でプレー。しかし過去には、心身の疲弊から「1日引退」を実行したこともあるのだ。
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<h3>選手生命を脅かす手術より深刻だった「試練」</h3>
堀江翔太は大阪府出身の37歳。埼玉パナソニックワイルドナイツの一員として、ジャパンラグビーリーグワンでプレーする。
昨季は、途中出場がメインながらシーズンMVPを受賞した。その活躍ぶりから「ラスボス」の異名を取る。今季も似た立場でリーグ2連覇へまい進する。
歩んだ道のりは険しかった。
堀江はフッカーというポジションを務める。スクラムの最前列中央でフォワード8人を束ねる。ここで司令塔の選手顔負けのパスやキックが操れるうえ、フットワークも巧みなのが魅力なのだ。とはいえ役割上、激しい衝突は避けられない。
&#8217;11年に初めてW杯に出てからは、どんどん日本代表が強くなるなか国内外で身体を酷使してきた。
おかげで首の神経が圧迫された。その影響で、いつしか握力は20キロ以下に落ちた。じゃんけんの「パー」が作れなくなった。
首の手術に踏み切ったのは&#8217;15年。本人にとって、2度目のW杯の直前だった。
「ラグビー人生が終わるんかな」
そう不安を覚えながらメスを入れ、リハビリを経て、W杯のあるイングランドの地に立った。
本番では、優勝経験国の南アフリカ代表などから3勝した。日本中にラグビーブームを巻き起こした。
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オペ以上の試練はその翌年にあった。
新設されたサンウルブズというチームで、主将を担うこととなったのだ。
サンウルブズは、南半球主体の国際リーグ「スーパーラグビー」に日本から参戦。日本代表を強化するのが目的だった。
ところが実際は、オファーを断った有名選手も複数いた。思うようなメンバーは揃わなかった。
国際経験の浅い日本人、初めて日本に訪れる外国人の選手やコーチも多く並んだ。リーダーがひとつにまとめるのは簡単ではなかった。結局、チームは開幕から連敗した。
自分を「僕は、まじめなので」と評する堀江は、結果を出せないなか悶々とした。親睦を深めるため、練習の合間に笑顔でじゃれ合う同僚たちを目にしただけでも、いら立ちを覚えてしまった。
ふざける選手を叱ることは、なかった。「寄せ集めのチームに皆が頑張って集まってきている」という、サンウルブズのメンバーの事情を知っているからだ。
自分の思いと違う「ポジティブ」なメッセージを吐き出し、余計にストレスがたまった。
そもそも堀江自身、治りかけの首が万全ではなかった。開幕節でチーム初トライを挙げるなど奮闘も、自分のパフォーマンスに満足できずにいた。
「自分のトレーニングも全然、できないまま試合を繰り返していた。あの時は結構、ラグビー辞めたいな…というか…。キャプテンもしたくないし、サンウルブズの試合にも出たくないという感じでしたね」
<div data-friday-nextpage-lead="チームの宿舎を飛び出して……"></div>
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<figure id="attachment_310523" aria-describedby="caption-attachment-310523" style="width: 1024px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="6cbe5919"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/05/582a075642b2f17e9bc525d61ec29931.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-310523" class="wp-caption-text">2022年、日本代表合宿でのひとコマ。左端のリーチマイケルとともに、やはり堀江（左から2人目）の存在感が際立った（写真：産経新聞社）</figcaption></figure>
悪循環を断つべく、切ったカードが「1日引退」だった。
相談に乗ってもらった知人の意見を参考に、サンウルブズの国内拠点だった品川のホテルを飛び出した。
「1日引退。サンウルブズ（のシーズン）中っす。あの時、品川、泊まってたでしょ？　（その近辺で）家族と好きなモン食って、飲んで、カラオケに行きました」
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身体を気遣うラグビー選手のなかでも、堀江はひときわストイックかもしれない。自分の体質に合ったものを口にしたいからと、30歳を過ぎたあたりから卵や小麦製品を控えている。
それでもスーパーラグビーのシーズンが進むなか、あえて「好きなモン」を口にしたわけだ。リフレッシュを図るという以上の意味を持つ荒療治をしても、拠点へ戻り、朝を迎えれば、またサンウルブズのスケジュールに沿って動かなくてはいけなかった。
いくら「引退」したつもりになっても、契約したチームで戦う責任からは逃れられないのだとわかった。
「そう。だから、向き合わなあかんな、って。しんどいかもしれないですけど、逃げるより、もがかないと。もがく以外ないと思ったので、もがきましたね」
トンネルを脱したのは、その翌年からだった。
堀江は&#8217;16年度限りで、サンウルブズのほか、国内所属先のワイルドナイツでも務めていた主将から解かれた。一時は日本代表でも主将を任されていたが、&#8217;17年春の活動を最後にその役目から離れた。
より自分にフォーカスできた。&#8217;15年から師事するトレーナーの佐藤義人氏とともに、身体づくりに力を入れた。いっそう、強くなった。&#8217;19年のW杯日本大会では、チームトップクラスの働きを披露した。初の8強入りに喜んだ。
さらに&#8217;20年以降は、代表への帯同日数を大幅に減らした。多くの代表選手が国際舞台に挑んでいる間、「独特」だという佐藤氏のレッスンを受け続けた。おかげで怪我のリスクを減らしながら、リーグワン初代MVPにふさわしい戦士となった。
「代表から自分の時間をもらえたというのが大きくて。自分のトレーニングをできて、パフォーマンスを出せているというのがよくて…」
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狙いは4度目のW杯だ。次の大舞台は9月からフランスである。W杯初出場の頃からずっと代表でチームメイトなのは、34歳のリーチマイケルだけになった。大きな怪我がなければ、次も2人揃ってメンバー入りしそうだ。
堀江は動きが鈍らないよう、3日以上のオフを作っていない。チーム活動がない時は、京都にある佐藤氏の拠点へ出向く。
全てはW杯のためだが、本人はこうも付け加える。
「先、先を見すぎるのはよくない」
5月13日からはワイルドナイツの選手として、リーグワンのプレーオフトーナメントに挑む。国内タイトル2連覇がかかるバトルで、一戦必勝を誓う。

向風見也

リーグワンの試合でトライをする埼玉ワイルドナイツの堀江翔太。スクラム最前列でフォワード8人を統率する力仕事をしながら、軽快に走れる脚力も特徴だ（写真：共同通信） 9月にフランスで開幕するラグビーワール

「逃げるより、もがくしかなかった」4度目のラグビーW杯を目指す堀江翔太「1日引退」の過去

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