1976年、宮崎県生まれ。高校野球やオリンピックなど幅広く取材。著書に第23回小学館ノンフィクション大賞を受賞した『永遠のPL学園』（小学館文庫）など

柳川 悠二

<figure id="attachment_310812" aria-describedby="caption-attachment-310812" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="6d3c6a14"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/05/c3736c543d75cf04680d033c94f627bc.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-310812" class="wp-caption-text">松阪市教育委員会事務局のなかに土性のデスクはある。先輩職員から指導を受けながら、デスクワークにも励む</figcaption></figure>
″史上最強″公務員の誕生だろう。
’16年リオ五輪の女子レスリング69㎏級金メダリスト・土性沙羅(どしょうさら)（28）は、今年３月に現役を引退し、故郷である三重県の松阪市役所職員に転身した。社会人経験者枠での応募には、コネなどを使わず、結婚後の苗字でエントリーしたため、採用を担当した市職員も当初は気付かなかったという。
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
「私は特別な人間ではないですから。生まれ育った松阪で働かせていただくのなら、平等に、みなさんと同じように応募すべきだと思いました」（土性、以下カッコ内は同）
25人の応募から採用の２人に選ばれた。市役所では親しまれた「土性」姓を名乗り、慣れない所作で手渡された名刺には「松阪市教育委員会事務局スポーツ課スポーツ係」の肩書が書かれていた。
「市のスポーツ振興が主な仕事です。普段は全国大会に出場するような選手に対して市から出る激励金の手続きをしたり、全国大会で２位以上の好成績をあげた選手の横断幕を作り松阪駅に掲げたり。私も現役時代、そうやって激励されました。今度は私が松阪から世界を目指すアスリートを応援したい」
これまで朝起きてから夜眠るまでレスリングのことだけを考えて生きてきた。
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
「だから毎日がすごく新鮮！　パソコンを扱うにしても、大学時代に習ったブラインドタッチができるぐらいで、覚えなければいけないことがたくさんあります。戸惑いもありますが、上司の方々が優しく教えてくださいます（笑）。休日には美味しいものを食べて、カラオケに行って。28歳にしてようやく訪れた青春みたい」
土性は子供時代に吉田沙保里の父・栄勝さん（故人）が開いた『一志ジュニアレスリング教室』でレスリングを始め、中学卒業後に親元を離れて愛知県の至学館高校に進学、そして同大学で汗を流した。余談だが、市役所で土性を指導する先輩職員はジュニア教室の先輩だ。
10代の頃から重量級の第一人者として活躍し、リオ五輪の決勝では見事な逆転劇で金メダルを獲得した。愛くるしい笑顔で、大会後には「娘にしたいアスリート」とも称され、週刊誌のグラビアを飾ったこともあった。
連覇に挑んだ’21年の東京五輪は５位に終わる。当初は、’24年のパリ大会まで続けるつもりだった。だが、肉体が現役続行を許さなかった。
「女子レスリングは金メダルを当然のように期待される種目です。５位で終わったまま引退するつもりはなかったんですけど、手術した肩の亜脱臼が癖になってしまった。月に一度は抜けて、治ってまた脱臼するという繰り返し。怖さが常にあって、そのうち腰も膝も痛くなってしまった。以前のようなレスリングはもうできませんでした」
<div data-friday-nextpage-lead="指導者の話はなかった"></div>
<h2>指導者の話はなかった</h2>
やり残したことはあっても、「自分の限界までレスリングができた」と土性は振り返る。引退を決めて改めて気付かされたのは五輪４大会で金３つ、銀１つを獲得した吉田沙保里の偉大さだった。
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
「沙保里さんがあれだけ長く第一線で活躍されたのは、大きなケガをしなかったことだと思う。身体の使い方、管理の仕方がすごく上手だった」
第２の人生を迎えるにあたって、昨年の春先に母から松阪市が社会人枠で公務員を募集していることを知らされた。金メダリストである彼女には指導者の道がいくらでもあったのではないだろうか。
「いえ、そういった話はなかったですね。私、たぶん、指導者には向いていないんじゃないかな（笑）。松阪に貢献する仕事ほどやりがいを感じる仕事はありませんでした。中学を出てから、両親とも離れた生活をしていたので、近くで暮らしたいという気持ちもありました」
土性は’21年に大学時代の同級生と結婚した。夫は彼女のために、それまで勤めていた会社を辞めて松阪市内の会社に転職してくれたという。
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
「本当に理解のある夫なんです！」
そう言ってノロけた土性だが、現役時代から比べると、10㎏以上は痩身になった印象だ。
「去年の10月に結婚式を挙げたので、それに向けてダイエットしました。でも、リバウンドしちゃいました（笑）」
目下のところ、土性が力を入れて取り組んでいるプロジェクトが12月に開催される「みえ松阪マラソン」のＰＲ活動だ。６月４日に実施される「エントリー開始イベント」では、同じく三重県は伊勢市が生んだ金メダリスト、マラソンの野口みずきとのトークショーが予定されている。
「普段の業務も大切ですが、私にしかやれない仕事というのがある。６月からは市内の小中学校を回って、未来ある子供たちに私が経験したことを伝える『出前授業』を行います。夢を持って、人生を楽しむことを伝えたい」
現在は市役所での仕事を覚えるのに精一杯でレスリングとは距離を置く。いずれは運動不足の解消と後輩への指導のために至学館に足を運ぶことも考えている。
「松阪にもちびっこレスリングの教室がある。機会があれば、そこでも指導してみたいんです」
７年前にリオのマットで誰より輝いたオリンピアンは、故郷の市役所職員として、新たな人生のスタートを切った。
<figure id="attachment_310817" aria-describedby="caption-attachment-310817" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="a01ea188"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/05/402cc7b9fbe68bb2b9311abbadf81fad.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-310817" class="wp-caption-text">’16年のリオ五輪で金メダルを獲得。重量級での頂点はレスリング女子で初めての快挙だった</figcaption></figure>
<figure id="attachment_310814" aria-describedby="caption-attachment-310814" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="1cf5847b"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/05/be815cb8fa03689811c3b5498509f197.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-310814" class="wp-caption-text">活躍した地元の選手を称える横断幕を作成するのも土性の仕事。「みえ松阪マラソン」のＰＲカーに積み込んだ</figcaption></figure>
<figure id="attachment_310816" aria-describedby="caption-attachment-310816" style="width: 1655px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="4a1330ac"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/05/ea131fed42bff24df9d80d9e50dd8148.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-310816" class="wp-caption-text">「今は市役所職員の仕事に集中したい」と語る土性。ファイティングポーズを頼むと、はにかみながら応じてくれた</figcaption></figure>
<figure id="attachment_310813" aria-describedby="caption-attachment-310813" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="ca053b63"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/05/25cf3900294658d82552b2d95033c378.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-310813" class="wp-caption-text">本誌未掲載カット　土性沙羅･レスリング女子リオ五輪金メダリストが語る「仕事は大変、でも毎日が新鮮！」</figcaption></figure>
<figure id="attachment_310815" aria-describedby="caption-attachment-310815" style="width: 1684px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="51beaf50"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/05/fe5d0500459ddef7ffc2f7867b5de016.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-310815" class="wp-caption-text">本誌未掲載カット　土性沙羅･レスリング女子リオ五輪金メダリストが語る「仕事は大変、でも毎日が新鮮！」</figcaption></figure>
『FRIDAY』2023年5月26日号より

柳川悠二 

小松寛之

女子レスリング金メダリスト・土性沙羅が、今年３月に現役を引退し、故郷である三重県の松阪市役所職員に転身！″史上最強″公務員の誕生だ！"地元に恩返しがしたい"と新たな人生のスタートを切った—―。

「自分で応募しました！」″最強の市役所職員″土性沙羅が語る「仕事は大変、でも毎日が新鮮！」

あなたへのオススメ

関連記事