<figure id="attachment_312177" aria-describedby="caption-attachment-312177" style="width: 2161px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="5f4cc0e3"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/05/5941625db6972d318fc7ea5646fc40d8.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-312177" class="wp-caption-text">現在はTBSに勤務する寺田氏（写真・編集部）</figcaption></figure>
別の選手と間違えて指名したのではーー。
現役を退いて10年が経過した今もなお、プロ野球ファンの間で語り種になっている元プロ野球選手がいる。東北楽天ゴールデンイーグルスが&#8217;07年の高校生ドラフトで１位指名した寺田龍平投手（33）だ。北海道内随一の進学校・札幌南高を南北海道大会ベスト４に導いたエースは、身長185cmの長身と最速145kmの速球を買われ、佐藤由規（現埼玉武蔵ヒートベアーズ）の外れ１位として指名された。だが、１軍登板はないまま、&#8217;11年に戦力外通告を受けた。中田翔（巨人）、唐川侑己（ロッテ）ら同世代選手がプロで主力として活躍しているのをよそに寺田氏は転職を重ね、現在は在京キー局・TBSで勤務している。現役時代の葛藤、そしてその後の「転身」の経緯を本人に聞いた。
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――いきなり失礼な質問ですが、いまだにネットでご自分の名前が挙がっているのはご存知ですか。
知っています。「歴代でいちばんハズレだったドラ１は誰だ」みたいなところに挙がっていますよね。去年、北海道から久々の高卒ドラ１（※斉藤優汰投手。苫小牧中央高→’22年広島指名）が出た際のニュースで「’06年の田中将大（駒大苫小牧→楽天）、’07年の寺田龍平以来」って記事に書かれて、「寺田って誰だ？」みたいな反応がありました（苦笑）。
――札幌南高は&#8217;23年も東大18名、地元北海道大に84名の合格者を輩出している超進学校です。ドラフト会議の日、いわゆる「指名待ち」はしていましたか。
その日は、球技大会でバスケの試合をしていました。もちろんプロになるつもりでやっていましたが、甲子園にも出られなかったですし、新聞か何かで（地元球団の）「日ハムが寺田を指名リストから外した」と知ってからは「今年はムリかなあ」と思っていた。そしたら同じクラスの女の子が隣に来て「おめでとう」と言ってくれて。「（球技大会の）バスケのことかなあ」なんて思っていたら、ドラフトで、しかも１位指名されたと。
当時の札幌南高は、野球部に入る前に「浪人する覚悟はあるか」って聞かれました。スポーツ推薦はないので、中学時代にめちゃくちゃ勉強して入学したけれど、３年間野球漬けでした。
自主性を重んじる野球部で、自主的に居残って遅くまで練習していました。２年生の秋にストレートが140km出るようになって、プロに行くことを考えるようになりました。でもその前に、甲子園に行くことが第一目標。その点は他の高校球児と変わりません。結局、プロに入ってからも甲子園のマウンドに立つことは一回もありませんでしたね。
――&#8217;07年当時、楽天は創設３年目。前年のドラ１は甲子園を沸かせた田中投手ということもあり、プレッシャーは大きかったのでは。
正直、自分の中でその意識はありませんでした。外れ１位であることと、分離ドラフト（’05～’07年に実施。高校生と大学・社会人で分けてドラフトを実施した）だったこともあって、実質的には下位指名と受け止めていました。
プロの世界に入ってからは、とにかく色々なことが大変でした。体重100kg超えの選手もザラにいる中で、（コーチは）「何でもいいから太れ」と言う。唐揚げや米をとにかくたくさん食べて……太りにくい人が増量するのは、痩せるよりキツいんです。最後の一年間、同じチームになった松井稼頭央さん（現西武監督）は身体がすごかった。文字通り筋肉ムキムキでした。
入団時の監督は野村克也さん（享年84）でしたが、二人でお話しした記憶はあまりないです。とにかく雲の上の存在でしたから。
<div data-friday-nextpage-lead="コーチに「手を抜くなよ」と……"></div>
<figure id="attachment_312173" aria-describedby="caption-attachment-312173" style="width: 1864px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="1c92689c"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/05/2007120900026.jpeg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-312173" class="wp-caption-text">’07年12月、野村克也監督（享年84）体制下での楽天ドラフト入団発表会見。前列左端に大社ドラフト１位の長谷部康平投手（38）、同右端に寺田氏（写真・共同通信）</figcaption></figure>
ーー進学校からプロへ……相談できる人もいなかったのではないですか。
高校の野球部は先輩に思ったことを言い合える文化でしたが、プロはそうはいかない。高校よりも幅広い年代の選手がいて、悪気はなくても自分の態度が先輩に悪く捉えられたりする。高校時代とは違って、上下関係にアジャストしなければいけなかった。今になってそう思います。
コーチには「手を抜くなよ」と事あるごとに言われました。それこそ、倒れるまで本気で練習していたんですけど、コーチの目には「まだできるはず」と映っていたのかもしれません。
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野球を仕事と考えるなら、２軍の若手は30連勤することもあります。実績を積めば、先発登板したあとに休養日があり、全体練習を休めるんですが、若手はそういうわけにもいかない場合があり、練習に出ることがあります。毎日ヘトヘトだからか、おそらく免疫が弱って風邪を引いたりする。２年目には帯状疱疹も発症しました。
そんな生活を繰り返していくうちに、高校時代の良かったころのピッチングの感覚を失ってしまいました。最初はボールの指の掛かりが悪いのかなと感じて、修正しようとしたんですが、余計に崩れていくんです。悪循環でした。
ーープロ３年目、&#8217;10年にサイドスローにフォームを変更します。
コーチからフォーム改造の薦めがありました。２軍のピッチャーにとって、フォーム改造は最後の手段です。変えても結果が出なければ終わり。かと言って、拒否することはできない。最後のシーズンは「もうコレでダメなら仕方ない」と思いながらやっていましたが、秋頃には（自分がクビになることを）起用法で察しました。
自分の中で「やりきった」という思いがあったので、トライアウトも受けずに引退を決断しました。野球以外の世界に興味があったのも、現役にしがみつかなかった一因です。
仮にプロでうまくいっていたとしても、この年まで現役を続けられたか、想像できないですね。とにかくプロは舐められてはいけない世界で、能力だけでなくメンタルも使いますから……。
<div data-friday-nextpage-lead="「お前は野球を辞めても仕事があるからいい」"></div>
ーープロ在籍時に、早稲田大学人間科学部のeスクール（通信教育課程）に進学しましたが、元プロ野球選手としては異例の選択に見えます。
プロ１年目の時に、選手会で「高卒の人は通信制で大学に通う方法もあるよ」と言われて、プロ２年目に入学しました。同世代のプロ野球選手では他に居なかったと思います。１年目、調子が悪かった時に「高校時代と何が違うんだろう」と考えました。文武両道を謳っている学校に通っていたから、高校時代に近いアカデミックな環境に身を置けば、自分を取り戻せると思ったのがeスクールに進学したキッカケのひとつでした。
寮や遠征先のホテルで講義を受けるのですが、相部屋の先輩のメシの誘いを「今日は授業があるから」と断らなきゃいけない。当然、先輩にニラまれます。「もう辞めた後のことを考えてるんだろう」って言われたこともありました。
２軍の選手は、来シーズンも野球を続けられるかどうかわからない重圧の中でプレーします。「お前は野球を辞めても仕事があるからいいけど、俺らは必死に野球にしがみついてんだ」と、仲の良かった先輩にみんなの前で怒られたこともあります。僕も野球にしがみついて必死にやっているつもりだったのに、周囲にはそう見えていたのかもしれません。
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結局、早稲田大学を卒業したのはプロから一般企業に転職して２年目の時でした。「大卒見込みの元プロ野球選手」という経歴でしたが、ITインフラ系の企業に採用していただいていたんです。
ーーガラリと生活が変わったのではないでしょうか。
まず連休があることに感動しました（笑）。仕事が終わるのが24時を回る日もありましたけど、お客さんに罵声を浴びたり、ブログに悪口を書かれたりすることはない。プレッシャーから解放されました。
同期には、僕がプロ野球選手だったことはしばらく隠していました。一応、ドラ１なのにそれが隠し通せるって、どうなんでしょうね（笑）。ただ、引退した直後は「元プロ野球選手という肩書きに頼って生きていたくない」という思いがあったんです。
正直、しばらくは野球中継を観られませんでした。同期が活躍している姿を直視できなくて……。でもだんだん、純粋に野球をスポーツとして観られるようになって、やっぱりスポーツにかかわる仕事がしたいと思うようになりました。そしてスポーツ選手のマネジメント会社への転職を決めました。
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ーーその後、広告代理店を経てTBSに入社されたのはなぜでしょうか。
マネジメント会社で働いている時に「アスリートはスポンサーのお金で給料をもらっている」と実感したんです。それから広告業界の面白さに目覚め、広告代理店に転職しました。当初は「これからはテレビよりもネット広告の時代だ」と思っていたんですが、働いてみるとまだまだテレビ広告の方が影響力が高いことに気付かされた。
TBSでも、デジタル広告にかかわる部署に所属しています。プロスポーツはどんどん有料配信が増えていますが、改めてスポーツの価値を再定義して盛り上げられたらいいなという思いがあります。いずれは制作側に回るかもしれません……人気特番の『プロ野球戦力外通告』を担当するとか。戦力外通告を受けた選手の気持ち、僕はどの同僚よりもよくわかるはずなので。
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ーー現在は学生野球資格を回復され、オフは子供たちに野球を教えている。寺田さんが野球から教わったこととは？
日本プロ野球OBクラブに所属して、年に３回くらい野球教室に参加しています。「好きこそものの上手なれ」だと思うので、厳しい指導はせず、とにかく楽しくプレーできるよう、盛り上げています。
野球から教わったこと……難しいな。野球って、どの団体競技よりも拘束時間が長いんですよ。試合時間も長いし、練習時間も長い。朝から晩まで練習している団体スポーツって野球ぐらいだと思います。長い時間で人との関わり方を学ぶ場――それが野球から教わったことだと思います。

’07年の高校生ドラフトで東北楽天ゴールデンイーグルスに１位指名されるも、一軍登板なく4年で戦力外通告を受けた投手がいる。33歳になった彼は現在、TBS職員に転身。その経緯と、現役時代の葛藤とはーー。

同僚の活躍がツラかった…「楽天最悪のハズレドラ１」と呼ばれた投手がTBS職員になっていた

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