【朱鞠内湖釣り人死亡事件】”人喰いヒグマ”に命を奪われた被害者の父が明かす「後悔と息子の最期」 | FRIDAYデジタル

【朱鞠内湖釣り人死亡事件】”人喰いヒグマ”に命を奪われた被害者の父が明かす「後悔と息子の最期」

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本誌記者が北海道で遭遇したヒグマ
本誌記者が北海道で遭遇したヒグマ

「まだ動揺していて、気持ちが弱くなるとつい感情的になってしまいます。どうしてそんな場所(事件のあった朱鞠内湖)に行ったのか…。どうして一人で釣りに行ってしまったのか…。なんでこの日を選んだのか…。疑問ばかりで頭がはち切れそうになります」

言葉を絞り出すのは、5月14日に北海道幌加内町の朱鞠内湖(しゅまりないこ)でヒグマに襲われて命を落とした西川俊宏さん(54)の父親だ。西川さんは14日に釣りをするため朱鞠内湖を訪れており、湖東部の「ナマコ沢」と呼ばれるポイントで釣り船を降りたのを最後に、行方が分からなくなっていた。

14日に湖を管理するNPO法人「シュマリナイ湖ワールドセンター」の職員が西川さんを迎えに行ったところ、西川さんの姿はなく、30mほど離れた場所で釣りに使われる「胴長」を咥えたヒグマを目撃。翌15日には、付近で西川さんの遺体の頭部が発見された。遺体はヒグマによって噛みつかれた痕跡が残っており、損傷が激しかったという。

同じく15日には、西川さんを襲ったとみられるヒグマが地元猟友会によって駆除されたが、胃の中からは西川さんとDNAが一致する肉片と骨片が見つかっている。

「息子は釣りバカと言うのでしょうか、少しでも暇があれば方々へ釣りに出かけるほど釣りが好きでした。湖で息子とみられる遺体が見つかったと聞いた時には、寝耳に水のような状態で、我が子に起きたこととは思いたくなかったです。その後、テレビや新聞で報道されているのをいくら見ても、それが息子とつながらないのです…。

遺体の損傷も激しいようですが、警察の方々は捜索を続けてくれました。本当にありがたく、申し訳ないことです。事情があって、息子とはここ半年間会えていませんでした。二人の子がいたものですから、孫たちの気持ちを考えるとやりきれない思いです」

北海道の統計によると、朱鞠内湖のある天塩・増毛エリアに生息するヒグマの数は、’90年には約200頭だった。しかし、’20年には約850頭と30年で4倍超に増えている。さらに、朱鞠内湖周辺では事件の直前である5月9日にもヒグマが目撃されているという状況下で事件が起きてしまった。西川さんの父親が胸中を吐露する。

「好きな釣りをやっていて死んだのであれば、本人にとっても本望かもしれません。でも、ヒグマに喰われるというのは、どうなのか…。

湖の管理者がヒグマに関する注意喚起をもう少し強くしてくれていれば、息子が命を落とすことはなかったのではと思ってしまいます。もちろん息子が好きで釣りに行ったわけですから、管理者の方を責めるわけではありません。それでも親としては、そんなことも考えてしまうんです…」

付近の住民たちは、朱鞠内湖の周囲ではこれまでヒグマが人間を襲う例はなかったと口をそろえる。今回は、ヒグマの被害がまったく想定されていない中で最悪のケースが起きていたのだ。だが、5月は冬眠から目覚めたヒグマが繁殖のため活発に動き回るシーズンだ。予期せず人間と顔を合わせてしまうことが、1年を通して最も多い時期となっている。

近年はヒグマの個体数の増加とともに、クマが市街地へ出没する例も後を絶たない。室蘭市でも5月12日以降、市内でヒグマの目撃情報が相次ぐなど、人の生活圏とクマの生息域が重なってしまっている。適切な対策を施さなければ、さらなる被害が起きてもおかしくない状況だ。

「釣り人や観光客への注意の仕方は、息子の事故を機に考え直されるべきではないでしょうか。札幌あたりの市街地では、ヒグマが出没するとパトカーなどで地域住民に注意喚起をしますから…。

息子は、一つの物事に熱中するタイプでした。体を動かすことが元々大好きだったのですが、そのうち釣りに集中し始めたのです。一緒に釣りをする友人もたくさんいたようで、イトウ釣りが息子の人生の大きな位置を占めていたんでしょう。親としては、とても残酷な最後だったけれども、好きなことをやって最期を迎えたのだからやむを得ないなと思うようにしているんです」

西川さんの父親は、取材中何度も「管理者の方が悪いわけではない」と強調した。これ以上、ヒグマによる悲惨な事故を繰り返してはならない。

  • PHOTO山崎高資

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