ウクライナ軍大佐が激白 ロシアの核ミサイルの標的は「フランスとベルギー」
ビレンキー・アンドリー駐在国防武官 「ロシアの核」より恐ろしいもの/ロシア兵の虐殺・略奪の実態/終結のタイミング
「年内に必ず勝利し、戦争を終結させる」
左肩にウクライナ国旗が縫い付けられたパイロットスーツを着た大柄の男性、ウクライナ軍のビレンキー・アンドリー大佐(56)は力強くそう宣言した。
駐在国防武官として都内のブックカフェ『ドレッドノート』で「ウクライナの現在」と題した講演会に登壇した後、大佐は本誌のインタビューに応じた。
「これまで子供を含めた、たくさんの民間人が殺されている。拷問されたり、レイプされたり、捕虜も次々と殺されている。ジュネーブ条約(武力紛争の際の負傷者や病人、捕虜の待遇改善のための国際法)はまったく機能していない。戦争を止めようとしているのは経済的にはG7、軍事的にはNATO。日本は当初からロシアに対する経済制裁のリーダーとなるなど、積極的な取り組みをしてくれている。感謝しかない」
「日本とは安全保障上のパートナーになれる」とアンドリー大佐は語る。
「キーウなど大都市では防空システム”アイアンドーム”が構築され、今ではミサイル攻撃の被害はほとんどない。北朝鮮のミサイルが脅威となっている日本にとって、我が国の軍事技術や実戦で得たノウハウは役立つはずだ。日本に忠告しておきたい。’14年のロシアによるクリミア併合の後、ウクライナは軍拡を目指したが軍事費が嵩(かさ)むと批判の声があがり、断念した。その結果、ロシアと全面戦争となって、軍備不足に苦しんでいる。日本は国防について真剣に考え、価値観を共にする太平洋の国々と連携すべきだ」
開戦から1年を経て、独自の戦争解決案を提出するなど中国が動き出したが、アンドリー大佐は冷ややかに見ている。
「ウクライナの勝利が見えてきたから、戦後のパワーバランスを考えて、慌てて動き出したとしか思えない」
アンドリー大佐は’83年に当時ソビエト連邦の一部だったウクライナの空軍航空学校に入校。ミグやスホーイなど、ほとんどすべての東側の戦闘機のライセンスを持つエースパイロットとなった。
「だからこそ、ロシア軍の戦略は熟知している」と大佐は語気を強めた。
「私が所属していた飛行隊にはミグ25が36機、配備されており、1機あたり2発の核ミサイルが用意されていた。核が配備された基地は、私が知る限り空軍だけで東欧に5ヵ所あった。そして――NATOと戦争になった際の私の任務は、NATOの本部があるベルギーと、欧州最強の軍事力を持つフランスに核ミサイルを撃つこと。焦土となった両国を撮影することだった。
恐ろしい任務だが、私には遂行できる自信があった。なぜなら、どんな虐殺も平気でできるよう、クレムリンに洗脳されていたから。当時の私は民間人の犠牲など、何とも思わなかった。ソ連が崩壊してウクライナが独立し、自由に旅行できるようになってからフランスとベルギーを訪れて、『私はこんな美しい街を破壊しようとしていたのか』と愕然とした。いま、ロシア兵がウクライナ国内で民間人虐殺、拷問、略奪と暴虐の限りを尽くしている。この戦争が終わった後、彼らも正気に戻り、何十年も自責の念にかられるだろう……」
いまもロシアは大量の核を保有し、プーチン大統領は使用を示唆している。
「リスクはゼロではない。ただ、我々が最も恐れているのはザポリージャ原発への攻撃だ。ロシアの敗北が決定的となったとき、プーチンが原発攻撃でウクライナを放射能汚染させる可能性がある」
5月15日にイギリスのスナク首相を訪ねるなど、ゼレンスキー大統領は西欧諸国にさらなる支援を要請。反攻の準備は整っており、「年内にロシアの敗北を不可逆的なものにできる」と強気の発言を続けている。アンドリー大佐が言う。
「戦争が終わったら、日本の皆さんにウクライナに来て欲しい。キーウもブーチャもいい街だ。完全に破壊され、月面のようにボコボコになってしまったが、マリウポリも素晴らしい。美しい海岸があり、私は何度も訪問している」
一日も早く、そんな日が訪れることを願ってやまない。


『FRIDAY』2023年6月2日号より
取材・文:菊池雅之