なぜガラスが「虹色」に見えたのか…電撃来日のゼレンスキー大統領の移動車を発見撮でわかった「思惑」

5月19日から21日にかけて広島市内で行われた主要7ヵ国首脳会議（G7広島サミット）。大いに話題を呼んだのが、ウクライナのゼレンスキー大統領の来日だった。ロシア軍の全面侵攻が行われる中、首都キーウに留まり続け、今もなお抵抗を続ける「戦時下の指導者」の緊急来日の一挙手一投足に注目が集まった。

ゼレンスキー大統領の来日は、前回は’19年に行われた天皇陛下の「即位の礼」に出席して以来、2回目だった。戦争が始まってからはもちろん、初めての来日となる。

そのため19日にゼレンスキー大統領の訪日が発表され、広島空港から広島市内に入ることが報じられると、その搭乗機や日本での移動時に使用する車両にも関心が集まった。しかもG7サミットのメイン会場である宇品島のグランドプリンスホテル広島から市中心部の平和記念公園の間を車移動することがわかると、テレビや新聞といったメディア以外にも、「ウクライナの英雄」を一目見ようと多くの市民が沿道に詰めかけた。

ゼレンスキー大統領が19日にサウジアラビア・ジッダを経由して広島空港に到着。搭乗していたのは、フランス空軍が運用するエアバスA330-200（機体記号F-UJCT）だった。フランス政府の支援を受けていたことがわかる。首脳が外遊に出かける際、自国空軍が運用する機体や、フラッグキャリアの機体などをチャーターすることは多いが、今回のように他国の特別機を使用するのは稀なケースだ。飛行機に詳しいジャーナリストはこう明かす。

「5月中旬、ゼレンスキー大統領とフランスのマクロン大統領との間で行われた首脳会談で、ゼレンスキー大統領は『G7に参加したい』と熱望し、マクロン大統領も『全面協力したい』ということで飛行機を支援したと考えられます。ちょうど1年前の去年の5月の段階ではマクロン大統領がプーチン大統領とゼレンスキー大統領の仲を取り持とうとして、不発に終わってしまった。今回の全面協力はそのおわびの意味もあったのではないでしょうか」

20日午後3時半に広島空港に降り立ったゼレンスキー大統領は警護の車両と共に陸路、広島市内へと向かったが、この時に乗ったのは防弾装甲が施されたBMW 7シリーズの特別仕様車「BMW 760Li High Security」だった。

同車両は’10年に横浜で開催されたアジア太平洋経済協力首脳会議（APEC）において警護車両として活躍しており、今回のG7広島サミットでも各国首脳の移動に使われたが、細かい仕様は公表されていない。ただ、前回’16年の伊勢志摩サミットで多く見られた警護車両は同じドイツ製のメルセデスベンツだった。外国車を長年撮影してきたカメラマンはこう明かす。

「なぜベンツからBMWに変わったかはわかりませんが、いずれにしても“売り込み合戦”があったのだと思います。見た目は一般道を走っているBMWとなんら変わりませんが、写真にあるゼレンスキーのおでこの付近とか、振っている手の右側部分などは少し虹色がかっている。これは、厳重に作られた防弾ガラスなのだと思います。スモークがかかっていない状態の普通の車内を窓ごしに撮影した場合、虹色がかることはないし、顔がもっとクリアに写るはずなんです」

ちなみにアメリカのバイデン大統領は「ビースト」のニックネームで知られるGM（ゼネラルモーターズ）の高級ブランド「キャデラック」の特別仕様車。日本の岸田首相はトヨタ自動車の最上級セダン「センチュリー」を使っていた。

5月21日夕方、交通規制が入って広島電鉄の線路が封鎖され、しばらく待った後、白バイに先導された車列が宇品島から出てきた。ゼレンスキー大統領が乗っていた中央のBMWには、国旗が掲げられていなかった。カメラをかまえ後部座席にピントを合わせた瞬間、なんと手を振る様子をカメラに収めることができた。まさかのサービスに、集まった沿道の市民からも歓声が上がっていた。

ゼレンスキー大統領はその後、平和記念公園で岸田首相と共に原爆死没者慰霊碑に献花した後、平和記念資料館を見学。続いて日・ウクライナ首脳会談を行った。日本人をも魅了したゼレンスキー大統領の写真を見返すとその表情は硬いままだ。一刻も早く笑顔が見られる日が来ることを切に願っている。