東京都生まれ。フリーライターとして講談社、小学館、PHP研究所などの雑誌や書籍を手がける。携わった書籍は『近藤典子の片づく』寸法図鑑』（講談社）、『片付けが生んだ奇跡』（小学館）、『車いすのダンサー』（PHP研究所）など。

中川 いづみ

<h3><span class="strongInContent">防衛費は毎年「10兆円」、太陽光発電の買い取り制度「4.2兆円」、対して農政予算は「２兆円強」…</span></h3>
<p>食品の値上げが止まらない。いったいどこまで上がるのかと思うが、お金を払えば買えるのならば、まだいいほうだとか。</p>
<p><span class="strongInContent">「輸入しようにも円安などがあって、“買う力”が低下し、中国には買い負けているし、異常気象が続いて、作物がこれまでのように収穫できるかわからない。世界情勢も不安定でウクライナ侵攻のようなことが、再び起こらないとも限らない。今までのように食料を輸入できなくなったとき、世界で最初に飢えるのは日本人かもしれません」</span></p>
<p>こう警告を発するのは、東京大学大学院農学生命科学研究科の鈴木宣弘教授。</p>
<figure id="attachment_312821" aria-describedby="caption-attachment-312821" style="width: 640px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="4953a3c2"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/05/1_24668881_s.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-312821" class="wp-caption-text">食物が輸入できない場合、「サツマイモを毎食食べれば１日に必要なカロリーは摂取できる」と農水省は試算しているようだが…</figcaption></figure>
<p>今、日本の食料自給率は約38％と言われているが、</p>
<p><span class="strongInContent">「肥料や野菜の種は海外から輸入しているものがほとんど。種が輸入できなくなったら、国内で作れるものは10％ぐらいになってしまいます。化学肥料がなかったら作物の収量は半減してしまいます」</span></p>
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<p>野菜の自給率は80％だが、種の９割は輸入。それが止まってしまえば真の自給率は８％ほどしかないのだとか。</p>
<p><span class="strongInContent">「肉もエサのトウモロコシは100％輸入ですから、それが止まれば生産量は１割くらいになるでしょう」</span></p>
<p>魚は安心かと思いきや、</p>
<p><span class="strongInContent">「養殖で使うエサの魚粉もほとんど輸入ですから、魚にも大きな影響があります」</span></p>
<p>鶏のヒナもほぼ100％輸入に依存しているという。<span class="strongInContent"> </span></p>
<p><span class="strongInContent">「供給が世界的に不安定になっている今、エサも肥料も国内にある資源をしっかり使うなど、資源を循環させることで自国内で生産できるようにしなければなりません」</span></p>
<p>農業にもっと力を入れ、農業に従事する人を増やしていかなければならない状況なのに、今は燃料費の高騰で農家も酪農家も経済的にひっ迫している。鈴木教授によれば、酪農家の98％、米農家の93％は赤字なのだとか。</p>
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<p><span class="strongInContent">「エネルギーと防衛、食料が安全保障の３本柱だというなら、食料にもっとお金をかけてもおかしくない。防衛費は毎年10兆円使って、さらに増額も検討されている。太陽光発電の買い取り制度だけでも、4.2兆円使っている。それに対して農政予算は２兆円強です。今の赤字を緊急補填しないと、農家さんはいなくなってしまいます」</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<figure id="attachment_312822" aria-describedby="caption-attachment-312822" style="width: 6000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="a1a12e4d"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/05/2_aflo_124734284.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-312822" class="wp-caption-text">ヒナも、エサもほぼ100％輸入に依存している…（PHOTO：アフロ）</figcaption></figure>
<div data-friday-nextpage-lead="農水省が考えているサツマイモ中心の食生活"></div>
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<h3><span class="strongInContent">農水省が“本気”で考えている「サツマイモ」中心の食生活の中身…</span></h3>
<p>輸入が止まったときのことを政府が考えていないわけではない。</p>
<figure id="attachment_312823" aria-describedby="caption-attachment-312823" style="width: 3250px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="1561c485"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/05/0005.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-312823" class="wp-caption-text">平成27年度の食料自給率目標が達成された場合の農地面積（450万ha）、農業技術水準等のもとで、熱効率を最大化した場合の国内農業生産による供給可能量に基づくメニュー例（農林水産省作成）</figcaption></figure>
<p>なんとサツマイモでカロリーをとるように農林水産省は言っている。しかし、このサツマイモ、どうやって作るのか？</p>
<p><span class="strongInContent">「学校の校庭やゴルフ場の芝をはがしてサツマイモ畑にしたり、道路に盛り土をして畑にすることを考えているようです」</span></p>
<p>では、どこのゴルフ場をサツマイモ畑にするのか、いざとなったらサツマイモ畑にしてくれるよう手配しているのかといったら、</p>
<p><span class="strongInContent">「具体的な計画はないと思います。人間が食べていちばんカロリーになりやすく、育てやすいということでサツマイモを選んでいるようですが、それまでサツマイモを育てたことがない人が植えても、果たして育つかどうか。だれが作るのか人手の問題もあります。そういうことを含めて、とくに計画はないと思います」</span></p>
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<h3><span class="strongInContent">なぜ、「種」まで輸入しているのか…</span></h3>
<p>それにしてもなぜ、種まで輸入しているのだろうか。</p>
<p><span class="strongInContent">「たとえばナスといっても種類がいろいろあります。日本は畑が小さいので、隣の畑で違う種類のナスを作っている場合、隣の種と交配してしまう可能性が高いんです。大量に販売するためには、海外の広い農地でないと効率的に作れない」</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<p>だからといって、決してできないわけではない。実際、米は100％国内生産だ。</p>
<p><span class="strongInContent">「&#8217;20年に種苗法が一部改正されて、登録品種の種は勝手にとってはいけないことになってしまった。ただ、日本の伝統的な在来種、固定種は種とりできる。このようなものを循環させていかないと種が輸入できなくなったとき、たいへんです」</span></p>
<p>鎌倉野菜や京野菜は在来種の一つ。こうした在来種は全国どこにでもあるという。</p>
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<p><span class="strongInContent">「種とりは、けっこう手間がかかるんです。だから、作る人がどんどん減っているけれど、こういうものを守っていくことが大切です」</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<figure id="attachment_312824" aria-describedby="caption-attachment-312824" style="width: 640px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="0ce0a131"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/05/3_24145819_s.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-312824" class="wp-caption-text">種とりができる日本の伝統的な在来種、固定種。「このようなものを循環させていかないと種が輸入できなくなったとき、たいへんです」と鈴木氏</figcaption></figure>
<div data-friday-nextpage-lead="成長ホルモン」に汚染された肉が…"></div>
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<h3><span class="strongInContent">EU、中国、ロシアで禁止されている「成長ホルモン」、検査が「ザル状態」の日本…</span></h3>
<p>気候や政情の影響で輸入できなくなるというリスクとは別に、輸入品には問題もある。輸入品には成長ホルモンを使っているものや、防カビ剤が使われたものがあるのだ。</p>
<p><span class="strongInContent">「アメリカの養豚業者は、豚の成長を早め、赤身肉を増やすために、ラクトパミンという飼料添加物を与えています。ラクトパミンは人体への有害性があるとしてEU、中国、ロシアでは国内で使うことも、輸入することも禁止しています」</span></p>
<p>日本でもラクトパミンの使用は認可されていないが、輸入肉の検査はほとんどザル状態なのだとか。</p>
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<p><span class="strongInContent">「牛肉も同様です。EUでは成長ホルモンが投与された牛肉は輸入禁止になっていますが、輸入肉の検査がザルの日本向けには、投与されたものが輸出されているのです」</span></p>
<p>安い牛肉が入ってくるようになったなどと喜んでいる場合ではないのだ。</p>
<p>小麦やじゃがいも、果物も油断できない。輸出品には長い船旅の間、カビが生えないように、日本では禁止されている収穫後農薬である防カビ剤が使われているのだ。</p>
<p><span class="strongInContent">「輸入品には、そういうリスクがつきまとうということです」</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<figure id="attachment_312826" aria-describedby="caption-attachment-312826" style="width: 3500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="25eae69f"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/05/4_aflo_50138912.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-312826" class="wp-caption-text">輸入肉の検査はほとんどザル状態！？（写真はイメージ：アフロ）</figcaption></figure>
<p>どうすればいいのか？</p>
<p><span class="strongInContent">「食べなければいいんです。パンなどは国産小麦を使っているもの、加工品もちゃんと商品の表示を見て、『国内製造』でなく、国産の農産物を使っているかチェックして買う。できれば、自分の住んでいる近くでがんばっている農家さんや、安全な品物を提供している、信頼できる生協など、安心安全が確認できるところから買う。国はそうした消費者の行動を止めることはできません。安全なものが食べられるように行動することが大事です」</span></p>
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<p><span class="strongInContent">鈴木宣弘　</span>東京大学大学院農学生命科学研究科教授。「食料安全保障推進財団」理事長。1958年生まれ。農林水産省に15年ほど勤務した後、学界へ転じる。九州大学農学部助教授、九州大学大学院農学研究院教授などを経て、&#8217;06年9月から現職。&#8217;98年〜&#8217;10年夏期はコーネル大学客員助教授、教授。主な著書に『農業消滅 農政の失敗がまねく国家存亡の危機』（平凡社新書、&#8217;21年）、『食の戦争 米国の罠に落ちる日本』（文春新書、&#8217;13年）、『世界で最初に飢えるのは日本』（講談社＋α新書）など。</p>


中川いづみ

食料自給率が約38％と言われている日本。「“買う力”が低下し、中国には買い負けているし、異常気象も続いて…、世界で最初に飢えるのは日本人かもしれません」と京大学大学院農学生命科学研究科の鈴木教授は言う

校庭やゴルフ場をサツマイモ畑に…食料自給率問題、農水省が”本気”で考えている「芋」中心の食生活

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