<figure id="attachment_314012" aria-describedby="caption-attachment-314012" style="width: 744px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="b0716b46"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/05/2014111800167.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-314012" class="wp-caption-text">文化勲章の親授式後の記者会見で、喜びを語る高倉健さん（’13年）</figcaption></figure>
高倉健さん（’14年没、享年83）の17年間のパートナーだった小田貴月さんが最近出版した著書『高倉健、最後の季節（とき）。』（文芸春秋）を読んだ。
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’14年2月に体調を崩して入院し、悪性リンパ腫と診断され、入退院を繰り返して同年11月に亡くなるまでの様子や、高倉さんとの日常の会話などがリアルに詳細につづられている。記者時代に何度も撮影現場で取材し、囲み取材や単独インタビューをしたこともあり、一気に最後まで読んだほど引き込まれた。
それまでほとんど報道されていなかった入院生活や病状の詳細、高倉さんが貴月さんに饒舌に語った様々なことなど、素顔の高倉さんの最後の年がそこに記録されている貴重なドキュメンタリー本になっている。
貴月さんは’96年に当時フリーライターとして仕事で行った香港で高倉さんと運命の出会いをして、後にパートナーとなり、’13年に高倉さんの養女になり、高倉プロモーション代表取締役でもある。亡くなる2年前に高倉さんから
「僕のこと、書き残してね。僕のこと一番知っているの貴だから」
と言われたという。’19年に出版された『高倉健、その愛。』（同）とあわせて、高倉さんに関する著書の決定版といえそうだ。
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本を読了して、映画担当記者時代に高倉さんを取材していたときのたくさんのことを思い出した。高倉さんのエピソードは枚挙にいとまがないが、’75年10月、高倉さんのターニングポイントとなった大映『君よ憤怒の河を渉れ』の北海道ロケ地でのインタビューは印象に残る一つだ。
約20年所属した東映から独立しての他社作品となった映画で
「監督が佐藤純弥さん（東映）だから、それほどよそで仕事をしているという感じはないスね」
と言いながらも、
「一つの会社（東映）だけでなく、ベストのキャスティングを組むためにも適材適所というのがこれからの映画界に必要だと思う。東映も大映もないですよ」
と意気込んでいたのが印象的だった。
「これからは一本一本が勝負になるでしょうね」
と決意を語った。
任侠映画時代の「寡黙な健さん」とは対照的に、このころの高倉さんはとても饒舌だった。
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’65年に始まった「昭和残侠伝」シリーズなどの任侠映画で一世を風靡した高倉さんは『背中に背負った唐獅子牡丹』とともに〝男の中の男〟〝寡黙な男〟〝ストイック〟のシンボル的存在になっていた。
同シリーズの主題歌『唐獅子牡丹』（’66年）は、劇中での決め台詞「死んでもらいます」とともに流行語になる。’70年に三島由紀夫が楯の会のメンバーと自衛隊の市ヶ谷駐屯地に乱入して自決した事件の際に市ヶ谷に向かう車の中でこの曲を歌ったとか。東大全共闘がバリケードの中で好んで歌ったなどの都市伝説めいた話も残っている。’70年安保の激動の時代に右も左も魅了したのである。
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その後、’73年に菅原文太主演の「仁義なき戦い」のヒットで東映は実録路線が主流になり、同年に公開された『ゴルゴ13』と『山口組三代目』はヒットしたがその後低迷していた高倉さんは、打開策を模索してインタビューで饒舌に語るようになっていた。『高倉健、最後の季節（とき）。』で書かれている高倉さんもとても饒舌で、それが実像だったのではないかと思った。
そして’77年、東宝『八甲田山』（森谷司郎監督）と山田洋次監督の『幸せの黄色いハンカチ』の2本の大作・名作で、任侠時代には映画賞とはあまり縁がなかった高倉さんだが、第51回キネマ旬報ベスト・テン主演男優賞、第20回ブルーリボン賞、第1回日本アカデミー賞の最優秀主演男優賞など映画賞を総なめに。その後の高倉さんの俳優としての不動の存在を確立し、饒舌にメディアに語ることもなくなり、再び「寡黙な健さん」「孤高の俳優」に戻ったように思う。
’78年1月に小生も会員の一人だった東京映画記者会主催の第20回ブルーリボン賞は圧倒的な大差で高倉さんを主演男優賞に選んだが、授賞式の土壇場まで高倉プロも連絡が取れないという〝雲隠れ騒動〟があった。
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映画の撮影が終わるとふらりと外国に一人旅に出ることが多く、’74年7月、東映『山口組三代目』（’73年）の続編『三代目襲名』（小沢茂弘監督）の撮影が行われた東映京都撮影所でインタビューしたときにも、クランクイン前に約2ヵ月間〝雲隠れ〟してスペインとアメリカにふらり一人旅をしてきたことを明かした。
「まったくの一人旅でした。アメリカでは映画を何本か見てきましたが、アカデミー賞があるので暮れにいいものが集中するらしくてあまりいいものがなかったですが、ジーン・ハックマンの『カンバセーション』（『カンバセーション 盗聴』の邦題でその年11月に日本公開）がよかったですよ」
と映画通のところを見せた。
その年の12月、『日本仁侠道 激突編』（山下耕作監督）に主演していたときに京都撮影所でインタビューした際にも、恒例の海外一人旅の話になり
「（アメリカでは）10、11月は一番映画が少ないときで、それでも14．15本は観ました。これといったのはあまりなかったですね。ヘンリー・フォンダの『ミスター・ノーボディ』とサム・ペキンパーの『ガルシアの首』が面白かった」
と語っていた。
「任侠映画の健さん」が洋画の話をするのは意外だったが、当時から映画に対する広い視点や吸収しようとする意欲が旺盛なところをうかがわせた。高倉さんが惹かれた映画の数々は感想と共に前述の『高倉健、その愛。』に収録されている。

『東京スポーツ新聞社』元・文化社会部部長。退職後、Webマガジン『PlusαToday』を始め、映画、ハリウッド情報などの記事を執筆。日本映画ペンクラブ会員

阪本 良

共同

’14年に亡くなった「銀幕の大スター」高倉健さん。寡黙で私生活はベールに包まれた人だったが、最期を看取ったパートナーが出版した本が話題になり……

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