東京都生まれ。フリーライターとして講談社、小学館、PHP研究所などの雑誌や書籍を手がける。携わった書籍は『近藤典子の片づく』寸法図鑑』（講談社）、『片付けが生んだ奇跡』（小学館）、『車いすのダンサー』（PHP研究所）など。

中川 いづみ

<h3><span class="strongInContent">日本発の新素材のプラスチックが世界を変える？</span></h3>
<p>毎日大量に捨てられるプラスチックのゴミ。リサイクルが叫ばれているけれど、分解できないものが多く、なかなか進まないのが現状だ。リサイクル率は10％以下と言われている。</p>
<p>そんな現状を打ち破るようなプラスチックを作り出したのが、千葉大学大学院工学研究院准教授の青木大輔先生のチームだ。</p>
<figure id="attachment_314629" aria-describedby="caption-attachment-314629" style="width: 8640px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="643bef15"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/06/00fef08e4a9a685a3d4e45a1f4ab334a.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-314629" class="wp-caption-text">５月29日、ユネスコのパリ本部ではプラスチックの汚染対策の国際条約をめぐる会合が開催された。写真は、ナイジェリアで、リサイクルのために集めた空のペットボトルを積んだカヌーの中に座る子供（PHOTO：アフロ）</figcaption></figure>
<p>青木先生たちが作り出したのは、アンモニア水で分解すると尿素という植物の成長を促す肥料ができる植物由来のプラスチック。</p>
<p><span class="strongInContent">「今回開発した”植物由来”の『ポリカーボネート』は、アンモニア水で分解すると、プラスチックを作っている分子がバラバラになり、尿素とそれ以外の分子（モノマー）に分かれます。モノマーが微生物で分解される性質をもっていれば、畑に撒いても害にならないものなので、そのまま畑に撒くことができるんです」（青木先生、以下同）</span></p>
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
<p>最近はレジ袋などにもバイオマスプラスチックといって、植物由来の原料を使ったプラスチックがある。これも肥料になるのだろうか。</p>
<p><span class="strongInContent">「植物由来だからといって、すべてが肥料にできるわけではありません。今回使用した、果物や穀類などに多く含まれ、自然界に最も多く存在する単糖類の『グルコース』由来の化合物『イソソルビド』は、尿素と一緒に用いると肥料として働くことがわかりました」</span></p>
<figure id="attachment_314630" aria-describedby="caption-attachment-314630" style="width: 6000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="892f2838"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/06/298f115db61fc3fd42c33ca9c54c6992.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-314630" class="wp-caption-text">分解したプラスチックから取り出した肥料（尿素）で育てている植物。尿素は化学肥料として古くから農業で使われている</figcaption></figure>
<h3><span class="strongInContent">”石油由来”のポリカーボネートも肥料になるし、再度プラスチックをつくることもできる</span></h3>
<p>プラスチックが肥料になる！　実現したら素晴らしいと思うが、新しいプラスチックを作るとなると時間もお金もかかりそうだ。ところが、</p>
<p><span class="strongInContent">「現在あるプラスチックでも、肥料になるものがあるんです」</span></p>
<p>それが”石油由来”の『ポリカーボネート』。</p>
<p>プラスチックにはさまざまな種類があり、いちばん多く出回っているのが、ポリエチレン。&#8217;20年には、なんと１年で290万ｔも作られ、プラスチック全体の35.3％を占める。次がポリプロピレン190万ｔで、全体の23.1％。次はポリスチレン類、塩化ビニル樹脂と続き、そのあとペットボトル、ポリカーボネートとなる。残念ながら、ポリカーボネートは２～３％しかない。</p>
<p>現在使われているポリカーボネートは、ほとんどが石油を原料としたものだが、</p>
<p><span class="strongInContent">「石油由来のポリカーボネートもアンモニア水で分解すると尿素とモノマーになるんです」</span></p>
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
<p>実際すでに青木先生の研究チームでは、ポリカーボネートを分解して取り出した尿素を肥料に食用野菜を育てる研究を進めているとか。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="すべてのプラスチックをポリカーボネートに…"></div>
<div class="expapp-yahoo-paragraph-break"></div>
<p>ただし、ポリカーボネートは石油を原料としているから、モノマーは石油。ポリカーボネートを分解したモノマーはそのまま畑に撒けない。</p>
<p><span class="strongInContent">「その代わり、モノマーはプラスチックの材料として再び使うことができます」</span></p>
<p>現在、プラスチックゴミは再生プラスチックとして使われているケースもあるが、再生すると品質は劣化してしまう。ところが、分子レベルまで分解してもう一度作り直せば品質が保証されたまったく新しいものを提供できるという。</p>
<figure id="attachment_314631" aria-describedby="caption-attachment-314631" style="width: 797px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="a2b09d3f"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/06/07bd0e0f8f59aeef8844effcd252b9f0.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-314631" class="wp-caption-text">植物由来のプラスチックをアンモニア水で分解すると尿素とモノマーになる。モノマーも植物性なので、畑に撒いても害にならない。また、モノマーを再利用して、プラスチックを作ることもできる（資料提供：科学技術振興機構）</figcaption></figure>
<h3><span class="strongInContent">すべてのプラスチックをポリカーボネートにするべく研究中</span></h3>
<p>両方合わせて50％以上を占めるポリエチレンとポリプロピレンは、安く作れて丈夫だけど、分解できないとか。だったら、プラスチックを全部ポリカーボネートにしてしまえばいいのでは？</p>
<p><span class="strongInContent">「ポリカーボネートは、ウォーターサーバーやコピー機のプラスチック部分、ヘルメット、新幹線の窓など、おもに工業用に使われているエンジニアリングプラスチックです。衝撃に強く、高い透明性が特徴ですが、それなりに高価。また、表面の傷つきやすさや、薄くすると割れてしまうということもあり、今の段階ですべてをポリカーボネートに置き換えるのはむずかしいでしょう」</span></p>
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
<p>今すぐ、すべてのプラスチックをポリカーボネートにできなくても、アクリル板、エアコン、洗濯機などのプラスチック部分が徐々にポリカーボネートに変わり、生産量が増えれば、ポリカーボネートのリサイクルが加速するかもしれない。</p>
<p><span class="strongInContent">「今、植物由来のポリカーボネートの研究と並行して、柔らかいものから硬いものまで、さまざまな用途に使える石油由来のポリカーボネートを作ろうとしています。近い将来、すべてのプラスチックを肥料に分解できるポリカーボネートにするのが目標です」</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<p>&#8217;22年にプラスチック資源循環法が施行され、プラスチックの資源循環が叫ばれている。すでに土に還るプラスチックや海水の中で分解されるプラスチックは開発されているが、自然に還るまでに時間がかかり、再利用することもできない。</p>
<p>その点、青木先生たちが開発した植物由来のポリカーボネートや、石油由来のポリカーボネートはアンモニア水ですぐ分解することができ、しかもモノマーを利用して、再びプラスチックを作ることもできる。</p>
<p>資源循環を謳うなら、まず家電に使われているプラスチック部分を全部ポリカーボネートにしてはどうだろう。</p>
<figure id="attachment_314632" aria-describedby="caption-attachment-314632" style="width: 3000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="7b69c478"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/06/e81fcc5a13d3a2a44b2dab9e4b4d6bc1.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-314632" class="wp-caption-text">実験中の青木先生。さまざまな種類のポリカーボネートを開発し、プラスチックをすべてポリカーボネート製にするのが「夢」ではなく、「目標」だと言う</figcaption></figure>
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
<p><span class="strongInContent">青木大輔　</span>千葉大学大学院工学研究院准教授。東京工業大学理工学研究科、東京工業大学物理工学院を経て現職。専門はプラスチック（高分子）。東北大、山形大、東大、大阪公立大、神戸大などとチームを組んで、ポリカーボネートの「合成」「機能化」「物性評価」「分解」、分解生成物の「分離」と肥料として活用する研究を行っている。</p>


中川いづみ

毎日大量に捨てられるプラスチックのゴミ。リサイクルが叫ばれているけれど、分解できないものが多く、なかなか進まない。そんな現状を打ち破るようなプラスチックが開発されたという。肥料になるプラスチックとは。

厄介者だった「プラスチック」が肥料に！？　千葉大学らの研究チームが開発した地球にやさしいプラとは

あなたへのオススメ

関連記事