キッズファクトリー代表。『石神秀幸ラーメンSELECTION』（双葉社）、『業界最高権威 TRY認定 ラーメン大賞』（講談社）、『ラーメン最強うんちく 石神秀幸』（晋遊舎）、『ソラノイロ 宮﨑千尋のラーメン理論』（柴田書店）などのラーメン本を編集。ラーメンを愛し、「ラーメンの探求マインドは変態であれ、振る舞いは紳士であれ」がモットー。

佐々木 正孝

<p><span class="strongInContent">「コースで食べるラーメン」が日本各地で盛り上がっている。ここでは、「麺づくしのフルコース」「バゲット付きの洋風ラーメンプレート」「京町家で楽しむ麺懐石」の三傑をご紹介。多様なジャンルの調理技術を融合させ、食べ手の五感を刺激してやまないラーメンの醍醐味をお届けしよう。</span></p>
<h3><span class="strongInContent">小麦王国からの挑戦状！　ツルシコモチモチ3種の麺を堪能／らーめん芝浜（桐生市）</span></h3>
<p>都内のラーメンフリークもこぞって遠征する『らーめん芝浜』。「朝ラーメン」が評判で、早朝7時から行列をつくる群馬の麺豪だ。コースラーメンで堪能したいのが「小麦三昧」。まぜそば・つけ麺・ラーメンの3メニューで構成されており、麺の魅力をそれぞれに堪能できる。</p>
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<p>そもそも、群馬県は小麦王国。全国7位、東日本では北海道に次ぐ収穫量を誇っており、大規模な製粉会社も多い。『芝浜』は麺リテラシーの高いエリアで麺イノベーションを追求し続け、「日本発のらーめん懐石」をうたう「小麦三昧」コースを開発したのだ。</p>
<figure id="attachment_316212" aria-describedby="caption-attachment-316212" style="width: 4000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="59acbc6c"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/06/5829d6238edddbfabde1530ea1514d04-rotated.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-316212" class="wp-caption-text">地元群馬県産と北海道産の小麦粉を厳選したコース麺「小麦三昧」（1450円）。粉のブレンドや加水率（小麦粉に対する水分の比率）をきめ細やかに使い分けた自家製麺を追求している</figcaption></figure>
<figure id="attachment_316214" aria-describedby="caption-attachment-316214" style="width: 6000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="6312d090"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/06/f3be22afe40f166121294d18dff540b2.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-316214" class="wp-caption-text">「生揚げ醤油の低加麺まぜそば」。上品な盛りだけに、むはむは瞬殺！　生揚げ醤油のタレをぐいぐい混ぜると、魚介のフレーバーがふわりと立ち昇った</figcaption></figure>
<figure id="attachment_316215" aria-describedby="caption-attachment-316215" style="width: 4000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="58ae6b6e"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/06/f73417d5a54b63485418f90ffa33b4e9-rotated.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-316215" class="wp-caption-text">「上州辛味大根のダイヤモンドつけめん」。黄金色の麺がセクシーに横たわる。北海道産「きたほなみ」で打った麺は透き通るような透明感にうっとり。シコシコツルツル、麺も官能的</figcaption></figure>
<figure id="attachment_316216" aria-describedby="caption-attachment-316216" style="width: 6000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="1b8f3003"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/06/5a961db27284a0eea44af4ffa2dae405.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-316216" class="wp-caption-text">「ラーメンの懐石」を締めくくるのは王道の醤油ラーメンだ。麺の魅力をたっぷり味わった後は、珠玉の醤油スープとのマリアージュを満喫</figcaption></figure>
<p>テンポよく提供される麺は、まぜそば、つけ麺、温麺（ラーメン）というラインナップがニクい。まずは脂をまとった麺のみの食感をしっかり味わい、もりそばのようにツユと合わせて小麦麺の喉越しを体感。そして、ダシ感とほどよい濃さの醤油スープと麺の好相性をとことん味わうことができた。</p>
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<p>コースと言っても、それぞれのポーションは小さめ。3種のメニューの違いを楽しみつつ、適度な満腹感が残る。1450円というプライスと言い、バランスが考え抜かれたラーメンコースと言えるだろう。</p>
<figure id="attachment_316217" aria-describedby="caption-attachment-316217" style="width: 6000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="7e45d411"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/06/7cced20f2d3e0354b0e657c3091d53c9.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-316217" class="wp-caption-text">■らーめん芝浜／群馬県桐生市相生町1-303-1　営業時間：7:00～13:00（材料切れの場合は終了）　定休日：水曜・第2第4第5火曜（6月24日～6月30日まで夏期休業）詳細は公式HPを確認のこと　アクセス：東武線新桐生駅より徒歩16分</figcaption></figure>
<div data-friday-nextpage-lead="バゲットと食べる丼のテーマパーク"></div>
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<h3><span class="strongInContent">味変味変、また味変！　バゲットと食べる丼のテーマパーク／だしかの（近鉄日本橋）</span></h3>
<p>北新地で人気のカツサンド店『なおらい』が手がける大阪のコースラーメン。出汁（スープ）と小麦（ラーメン＆パン）の可能性にとことんフォーカスした、その名も『だしかの（だしと小麦の可能性）』だ。映えるだけじゃない、味変によるコークスクリュー的変換が何段階も用意された、体験型ラーメンなのである。</p>
<p>鶏ガラをメインに使い、滋味深いスープ。貝やウニを凝縮した塩ダレを合わせる。麺線が綺麗に”たゆたう”クリアな見た目と裏腹に、多様な旨味成分がギュッと詰まった仕上がりに驚かされる。</p>
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<p>カツサンド専門店のスピンオフだけに、セットするのはバゲット。アボカドとチャーシューのサンドはそのまま食べてもおいしいが、スープに浸して食べるのが「だしかの」のセオリー。麺もよし、パンでもよし。小麦と絶妙にマッチするスープのポテンシャルが急浮上する。</p>
<p>塩スープに満足したら、乳鉢と乳棒でバジルをゴリゴリ。フレッシュな香気が映えるジェノベーゼにできるセルフ味変も楽しい。さらにさらに、ドライトマトムースを加えることでグルタミン酸の旨味成分を増強。何段階にも変化していくスープの妙味は、これぞコースメニューのような食べごたえだ。</p>
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<p>初訪はトッピングと味変アイテムの豊富さに戸惑うが、スタッフの丁寧なガイドがありがたい。ウッディで明るい店内とホスピタリティが店舗体験をさらに楽しいものにしてくれる。</p>
<figure id="attachment_316218" aria-describedby="caption-attachment-316218" style="width: 4032px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="3812c39a"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/06/443bc8a87423fe980005ccc1fe863ead.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-316218" class="wp-caption-text">特潮ラーメンとバゲット（1350円）。旨味成分を凝縮した塩スープに合わせるのはカリスマ製麺所「麺屋棣鄂」のストレート麺、そしてアボカドチャーシューパン</figcaption></figure>
<figure id="attachment_316219" aria-describedby="caption-attachment-316219" style="width: 4032px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="49d86dc3"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/06/e6a9166226a6a65394bdb632e5a66a61.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-316219" class="wp-caption-text">ラーメンの前に提供されるのが鶏・豚・牛3種のレアハム。味変アイテムにはドライトマトのムースとバジルのジェノベーゼも用意。乳鉢でバジルをゴリゴリするのが楽しい！</figcaption></figure>
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<p>■だしかの（だしと小麦の可能性）／大阪府大阪市中央区日本橋2-5-8　営業時間：11:00～14:30（LO）、17:00～20:00（LO）　定休日：月曜　アクセス：近鉄難波線近鉄日本橋駅より徒歩4分</p>
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<div data-friday-nextpage-lead="食前酒の日本酒と…"></div>
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<h3><span class="strongInContent">秀逸な醤油ラーメン…京町家でしっとり／京ト麺 祇園東山つじ華（祇園四条）</span></h3>
<p>最後に紹介するのはシックな和の麺コースだ。祇園で名を馳せてきた日本料理店が、ラーメンと黒カレーを供する店へとリニューアル。こちら『京ト麺 祇園東山つじ華』は、本格的な日本料理の技法を駆使し、ビジュアルも麗しい一席を提供している。</p>
<figure id="attachment_316221" aria-describedby="caption-attachment-316221" style="width: 3841px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="f90d5e29"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/06/ff153bc0f0fe42532f9372f9d960e924.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-316221" class="wp-caption-text">「京ト麺 醤油」（3500円）。醤油らーめんと、別添えの具材が9種。京赤地鶏むね塩、もも炙り醤油、京鴨ロース、パルメザン煎餅、牛蒡煮、牛蒡ソース、焼き白葱、じゃこナッツ山葵油、九条葱を端正に盛り付ける</figcaption></figure>
<p>メインとなるラーメンは、リッチな鶏清湯スープ。丹波黒どりをベースに、京都松野醤油、たまり醤油、木桶仕込み醤油など4種の醤油、50種の塩をブレンドしたという醤油だれを合わせた。麺屋棣鄂の特注麺が艷やかに浮かぶ、重層的な味わいの一杯だ。</p>
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<p>日本料理で20年以上のキャリアを積んだ料理長・笠見卓氏の9種トッピングはビジュアルもさることながら、味変アイテムとしての力も見逃せない。パリパリとしたパルメザン煎餅、ごろりとした牛蒡煮など、食感にもアクセントがあり、秀逸な醤油ラーメンに変化をつけて楽しめる。</p>
<figure id="attachment_316222" aria-describedby="caption-attachment-316222" style="width: 3024px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="a1f745ff"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/06/f732e61e207d458814a390cc8e360eb5.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-316222" class="wp-caption-text">箸休めには「京赤地どりのテリーヌ 赤玉ねぎのジャム添え」。濃厚な食感がたまらない</figcaption></figure>
<figure id="attachment_316223" aria-describedby="caption-attachment-316223" style="width: 3024px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="bda1cce4"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/06/7cf14342619e7d58b93508ed2820a22e.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-316223" class="wp-caption-text">「ほうじ茶のティラミスアイス ひとくちほうじ茶どらやき」。デザートも一貫したコンセプトで仕上げている</figcaption></figure>
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<p>祇園の茶屋だったという店舗は、和のしつらえが落ち着いた風情を醸し出す。食前酒の日本酒をいただき、先付には北海道産生うにとクリームチーズ豆腐。ラーメン、デザートと続くコースを頂くのにはふさわしい空間だ。</p>
<figure id="attachment_316224" aria-describedby="caption-attachment-316224" style="width: 4032px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="6425ef0a"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/06/5cd8a75c745526511088e8d525289b96.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-316224" class="wp-caption-text">■京ト麺 祇園東山つじ華／京都市東山区上弁天町430　営業時間：11:30～18:30（最終入店）　定休日：火曜・水曜　アクセス：京阪本線祇園四条駅より徒歩9分</figcaption></figure>
<div data-friday-nextpage-lead="ラーメンに立ちはだかる「1000円の壁」"></div>
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<h3><span class="strongInContent">ラーメンに立ちはだかる「1000円の壁」をコースで超える</span></h3>
<p>かつて、ラーメン界には「1000円の壁」が高く立ちはだかっていた。ラーメンといえば大衆の味方、1000円以下で提供するＢ級グルメの優等生であるべし――そんな観念が根強く、単価の伸びは極めて鈍かったのである。今回紹介した3メニューの平均価格は2100円と、一般的なラーメンの2倍以上の価格だ。多くのラーメン店主が苦しんできた1000円の壁は、コース仕様にすることで軽々と越えられる。</p>
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<p><span class="strongInContent">「ラーメンが1000円の壁を越えられなかったのは、一つは滞在時間の問題があると言えるでしょう。</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<p><span class="strongInContent">コンビニで挽きたてのコーヒーが手軽な値段で飲めるようになっていますが、喫茶店のコーヒーが600円しても、誰も文句は言いません。1杯で1時間ほど過ごせるからです。</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<p><span class="strongInContent">人は時間と見た目、量にはたやすくお金を出しますが、品質にはあまり払いたがらないもの。基本的にラーメン店は長居をしない場所です」</span></p>
<p>こう語るのは、『教養としてのラーメン』（光文社）を上梓し、麺文化を考察し続けるラーメンデザイナーの青木健氏。1000円の壁は、シンプルに「滞在時間の問題」によるところが大きかったのだ。</p>
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<p>そして、今回紹介したコースラーメンは三“麺”三様。自家製麺を突き詰めたり、洋風とベーカリーのテイストを加えたり、日本料理の技法を注入したり。多様なジャンルの調理テクニック、技法が盛り込まれている。コースで提供することで、こうした味へのこだわり、技術の追求も可視化されやすいと言えるだろう。</p>
<p>味の追求は大前提だが、上質な空間とサービスを提供してコースで味わってもらえば、1000円の壁を越え、2000円台の値付けでも納得がいく。これは当然か。作り手の真摯な研鑽により、空間やホスピタリティも含めてラーメンを味わう時代がやってきた。</p>
<p><span class="strongInContent">「どんな店でもそれが可能ではありません。例えば店の周辺の環境や内装、広さ、BGM、器やカトラリー、店員の接客技術やセンスなど、総合力による説得力が求められます。</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<p><span class="strongInContent">今後、一杯のラーメンを突き詰める専門店はさらに研鑽していくでしょうし、大衆的な町中華、企業努力で安価なラーメンを提供するチェーン店も健在です。</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<p><span class="strongInContent">カジュアルに食べられるラーメンがあれば、ラグジュアリーに味わえるラーメンもある。それぞれをTPOに合わせて楽しんでみてはいかがでしょうか」（青木氏）</span></p>


佐々木正孝

「コースで食べるラーメン」が日本各地で盛り上がっている。「麺づくし」「洋風ラーメンプレート」「麺懐石」…多様なジャンルの調理技術を融合させ、食べ手の五感を刺激する新しいラーメンの世界だ。

”ラーメン1000円の壁”の重大な答え…麺三昧に洋風、京懐石風「コースで味わうラーメン」驚愕の味

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