<figure id="attachment_317207" aria-describedby="caption-attachment-317207" style="width: 1999px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="c07139d9"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/06/f0cdeda38a0eb6fa291ceab10c2cf7eb-1.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-317207" class="wp-caption-text">親や子供を脅すような言動をとる塾も</figcaption></figure>
<p>受験競争の中では、親が子供以上に受験にのめり込み、客観的な思考を失ってしまうことが少なくない。なんとしても良い学校に入れなければと考え、あの手この手で子供を縛り付け、力ずくで勉強を強いる。</p>
<p>私は『教育虐待――子供を壊す「教育熱心」な親たち』（ハヤカワ新書）で、そんな親たちのゆがんだ子供への教育が、精神的な暴力となり、虐待へと発展していくプロセスと原因を明らかにした。</p>
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<p>今回はその中から、親が子供に行うおぞましい虐待行為について考えてみたい。</p>
<p>親が進学塾の過剰なあおり行為によって冷静さを失う過程は【<a href="https://friday.kodansha.co.jp/article/317187">前編：加熱する中学受験ブーム「教育虐待」実態</a>】で見た通りだ。親は<span class="strongInContent">「何が何でも合格させなければならない」「受験に失敗したらこの子の将来は終わってしまう」「この子を合格させるのが私の存在意義」</span>としか考えられなくなっていく。</p>
<p>進学塾の中には、そんな親の焦燥感を陰険な方法で刺激するところもある。ある進学塾は、子供の習熟度クラス別に親のグループＬＩＮＥをつくり、クラス替えテストの度に、親のグループのメンバーも入れ替える。親はまるで自分の親としてのランクが落ちたように感じて焦り、余計に子供に対して勉強しろと言うようになる。</p>
<h2>トイレに行くことも許さない</h2>
<figure id="attachment_317210" aria-describedby="caption-attachment-317210" style="width: 2000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="4feae6c2"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/06/0766a92e50a62a6064609a0558ad3b19.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-317210" class="wp-caption-text">中学受験の弊害は社会問題といって良いだろう</figcaption></figure>
<p>もちろん、すべての親が受験にのめり込んだからといって、教育虐待をするわけではない。教育虐待をする親は、それをする「要因」を抱えているものだ。詳しくは本書を読んでいただきたいが、親が抱える学歴コンプレックス、親族内の同調圧力、自分のゆがんだ成功体験、発達特性などがあり、教育熱が間違った方向へ暴走してしまう。</p>
<p>では、親が行う教育虐待の典型的な行為とはどのようなものか。３つにわけて示そう。</p>
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<p>・行動制限</p>
<p>冷静さを失った親は、子供が机に向かっている時間が長ければ長いほど成績が上がると勘違いする。そのため、いろんな方法で子供を机に縛り付けようとする。</p>
<p>勉強部屋の外から鍵を閉める、監視カメラをつける、課題が終わるまでトイレへ行くことを許さない、カフェインを大量に取らせて睡眠を妨げるといったことだ。両親が代わる代わる背後で監視するということもよくある。</p>
<p>こうした親は、子供を一人の人格のある人間だと認めていない。<span class="strongInContent">「親がやらせなければ子供は何もしない」</span>と考え、子供を支配し、一から十まで自分で決めて操ろうとする。</p>
<p>・精神的な虐待</p>
<p>教育虐待でもっともみられるのが、親が言葉によって子供を追い込み、傷つける行為だ。</p>
<p>たとえば、<span class="strongInContent">「合格しなければ、親はもう世間に顔向けできない」「受験競争くらい打ち勝てなければ、あなたの人生終わりよ」</span>といった極端な表現で、子供の逃げ道や退路を断つ。</p>
<p>その上で、成績が思うように上がらないと、親は子供の人格を否定するように罵声を浴びせる。<span class="strongInContent">「こんな成績を取るなんてクズ以下だ。自分の子供だと思いたくない」「脳にどこか障害があるんじゃないか。病院で診てもらってこい」「おまえみたいなバカは、この家で暮らす資格はない。今すぐ出ていけ」</span>……。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="「お兄ちゃんができてなんであなたが……」"></div>
<figure id="attachment_317212" aria-describedby="caption-attachment-317212" style="width: 1999px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="58d3a1ab"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/06/d4ccbe331a62d0824f7c65032c3d12cb.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-317212" class="wp-caption-text">中学受験の過熱によりドロップアウトする子供も</figcaption></figure>
<p>親が子供の努力を根本から否定することもよくある。</p>
<p><span class="strongInContent">「お兄ちゃんにできて、なんであなたにできないの？」「いくらがんばったって言葉で言ったって、成績が伴わなければ嘘八百でしょ」</span>……。</p>
<p>ひどい親は、こうした言葉を一日に何十回と子供に浴びせかける。それは子供の心をズタズタに切り裂いていく。</p>
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<p>・身体な虐待</p>
<p>言葉だけでなく、身体的な暴力によって子供を支配しようとする親もいる。</p>
<p>中学受験では、親が塾とは別に家庭で勉強を教えることも多い。そんな時、親が子供のできなさにいら立ち、怒り、暴力をふるうことがあるのだ。</p>
<p>壁を殴るとか、物を叩きつけるといったことならまだしも、問題が解けないことに怒って直接殴るとか蹴るとかいったことをする。これまで事件になったものの中には、親が刃物を突き付けながら勉強をさせているうちに、我を忘れて息子を刺殺してしまったということもあった。</p>
<h2>親の自己表現の道具となっている子供</h2>
<figure id="attachment_317190" aria-describedby="caption-attachment-317190" style="width: 2000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="563e351b"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/06/4252fdb3a0675cb8e53f5466933ac527.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-317190" class="wp-caption-text">子供にカフェインを飲ませ睡眠妨害する親も……</figcaption></figure>
<p>こうした親にとっては、子供はどこまでも自己実現の道具でしかない。だから、成績が上がらなければ、「裏切られた」と被害妄想を膨らませて暴力をふるうのである。</p>
<p>ひと時代前の祖父母などが同居していた大家族であれば、こうした親の行為を止めることができた。だが、現代の核家族の密室化した家庭の中では、誰にも気づかれずにエスカレートしていくことが少なくない。</p>
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<p>受験勉強を応援する親は「教育熱心な親」として肯定される風潮がある。だが、どんな大義があったとしても、親が上記のような行為に及んでいれば、それは明白な虐待といえる。</p>
<p>本書で取材した医師は次のように語る。</p>
<p><span class="strongInContent">「教育虐待が子供に及ぼす影響は、一般的な虐待と何ら変わらないものです。暴力を受けていれば身体的虐待、暴言を浴びせられていれば心理的虐待が引き起こすのと同じ影響が子供に表れます。</span></p>
<p><span class="strongInContent">ただこういう家庭では何か１つというより、いろんな形で虐待が行われるため、子供は常に大きなストレスと不安にさらされ、親との関係も不適切なものになります。なので、子供はそうした環境の中でうつ病などの精神疾患や、愛着形成の不全といった問題を抱えることになるのです」</span></p>
<div data-friday-nextpage-lead="子供を東大に入れたからすごい親"></div>
<figure id="attachment_317189" aria-describedby="caption-attachment-317189" style="width: 2000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="5f7d0367"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/06/2f5a789aac583147a9582b8cec11ccb6.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-317189" class="wp-caption-text">偏差値によるヒエラルキーが定まっている受験</figcaption></figure>
<p>一般的に、児童虐待は次の４つに分類されている。「身体的虐待」「心理的虐待」「育児放棄」「性的虐待」。教育虐待の場合、親の行動制限や暴言は「心理的虐待」に該当し、肉体的な暴力は「身体的虐待」に当てはまる。つまり、教育虐待は違法な虐待なのである。</p>
<p>にもかかわらず、教育虐待は、他の虐待と比べると見過ごされる傾向にある。社会のゆがんだ価値観がそれを後押ししている面もあるだろう。</p>
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<p>――あの親は、子供を東大に入れたからすごい。</p>
<p>――学力が高い子供は「優秀」。</p>
<p>――親は子供が損をしないようにレールを敷いてあげなければならない。</p>
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<p>現代の社会では、就職における学歴の威光が弱まり、代わりに主体性やコミュニケーション能力が重要視されている。学歴不問を明言する大企業も年々増加している。にもかかわらず、いまだにこうした考え方が残り、多くの子供たちが教育虐待によって傷つけられているのだ。</p>
<p>詳しくは本書を読んでいただきたいが、子供にとって身につく勉強の仕方とは教育虐待とは真逆のものだ。子供の自主性を尊重し、一律に何かを押し付けるのではなく、その子に合った形の勉強法を提案しなければならない。</p>
<p>大人一人ひとりがそのことをきちんと認識した時、初めて教育によってつぶされていく子供を減らすことができるのである。</p>


'77年、東京都生まれ。ノンフィクション作家。国内外の文化、歴史、医療などをテーマに取材、執筆活動を行っている。著書に『絶対貧困』『遺体』『「鬼畜」の家』『43回の殺意』『本当の貧困の話をしよう』『格差と分断の社会地図』『ルポ 誰が国語力を殺すのか』などがある。

石井光太

激化する中学受験。塾も過激の度を強めている。下位のクラスでは粗末な和式を使用させ親にはげん担ぎに断酒を要求……。心身ともに疲弊し脱落するのは子どもたちだ。ノンフィクション作家・石井光太氏の渾身ルポ後編

「こんな成績を取るなんてクズ以下」…中学受験でうつ病に「子供を心身で追いつめる加熱親」の戦慄言動

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