車、4Kテレビ、スーツ…。話題の“サブスク”は本当に得か?
今年2月からパナソニックがテレビ定額利用(サブスクリプション)の試験サービスを開始した。またトヨタは2月5日、新会社「KINTO」を設立し、東京都内のトヨタ販売店およびレクサス販売店(一部販売店を除く)で試験的にサブスクリプションサービスをスタートさせると発表した。
すでに映画や音楽の配信や飲食店では定額利用が定着した感があるが、ビッグネーム「トヨタ」の参入で、ますますその認知度が上がりそうだ。ユーザーにとってどんなメリット・デメリットがあるのか、ファイナンシャルプランナーの大石泉氏に話を聞いてみた。
サブスクリプションは、どこまで進んでいるか?
「雑誌の定期購読のように『定額制』自体は、決して新しいビジネスモデルではないのですが、最近言われる『サブスクリプション』とは、『“モノを所有しない”で月々決まった料金を支払って受けるサービス』という意味が大きいようです」(大石泉さん 以下同)
定額利用として代表的なものが、映像ソフト、音楽ソフトの見放題、聞き放題。DVDやCDを所有することなく、映画や音楽を楽しめるのがメリットだ。
最近ではレナウンが「着ルダケ」という定額サービスを始めた。基本となるプランは、スーツ2着の利用で月額4800円(税別)~。契約期間は半年単位で、春夏、秋冬のシーズンごとにスーツが2着ずつ届くというシステムだ。オプションでスーツに合うシャツやネクタイも追加することができる。
また、家具業界でもサブスクリプションを導入するところが増えてきている。カマルクジャパンが提供している「subsclife」では、3ヵ月~24ヵ月の間で自由に契約期間を選べ、期間を延長したり、気に入ったら買い取ることもできる。気軽にインテリアを入れ替えて、実際部屋に合うかどうかを「お試し」できるユニークなサービスとして話題だ。


サブスクリプションには、どんなメリットがある?
「現在、さまざまな業態の企業が導入を検討しています。テレビや車などの高額商品の場合、まとまった資金がなくても、月々少額で商品を使えるのがメリットの一つです」
トヨタが3月1日より提供を開始するサブスクリプションサービス「KINTO ONE」は、対象車種が、プリウスをはじめとした5車種(秋以降、ラインアップを拡大予定)。3年契約で、車両代、登録時の諸費用、税金、任意保険、自動車税を含んでプリウスなら月額4万6100円~5万5400円(税別)。プレスリリースにある最低金額で計算すると、4万6100円を3年間支払うと、その合計は165万9600円(税別)となる。プリウスのいちばんリーズナブルな「プリウスE」は車両価格だけでメーカー希望小売価格は233万2000円(税別)なので、3年で乗り換えることを考えると、ずいぶんお得だ。
パナソニックの定額サービス「安心バリュープラン」では、32万8104円(このサービスでの販売価格・税込)の4K有機ELテレビ“TH-55FZ950”を3年プランで契約した場合、月々の支払いは7500円(2回目以降。初回は、8189円)。さらに、契約期間が終わるタイミングで、最新の機種に交換し、新たに契約することもできる(買い取る場合は、契約期間終了時に7万円を支払う)。つまり、このサービスを使い続けると、32万8104円(税込)のテレビを、実質26万3189円で3年間利用でき、3年目に最新機種と交換できるということになる。契約途中で解約することはできないが、契約期間中ずっとメーカー保証が適用されるサービスが付く。
「トヨタやパナソニックが始めた“サブスク”は、同じ費用で、3年ごとに最新の車や電化製品に取り換えられ、常に新しい商品を利用し続けられるというサービスです。技術革新が早まり、次々と新製品が登場する昨今、いつも新型を楽しみたいという人にとっては価値があり、お得で安いかもしれません。ローンやレンタル、シェア、リースにはない新しい価値観です。
ただ、“価値あるお金の使い方”といえるかどうかは、それぞれ個人が持つ“モノ”に対する思いや考え方によるところが大きいと言えますね。3年間ローンを払い、その後、5年、10年できる限り乗り(使い)倒して元をとるんだ、という考え方とは相入れません」


サブスクリプションのデメリットは?
「サブスクリプションのメリットは、使えば使うほどお得になるということ。そういう意味では、毎日使うスーツや家具などは利用しがいがあるといえますが、逆に、支払う額に見合うほど利用しなければ、お金は無駄になってしまいます。飲食業界で“月々000円で食べ放題・飲み放題”というサービスを提供しているところがありますが、それでも成り立っているのは、利用しないユーザーがそれだけいるということ。自分がどれだけそれを必要としているのか考えないで利用すると、損をするかもしれません。コストに見合うかどうかしっかり考えたいものです」
サブスクリプションを利用するとき、大切なのは契約書をしっかり読み、自分のライフスタイルに合うかどうか考えることが必要だと大石さんは言う。
「特に途中解約が可能なのか、その場合、ペナルティはあるのかなどはしっかり確認する必要があります」
企業がサブスクリプションを始めるワケ
それにしてもなぜ今、さまざまな業態の企業がサブスクリプションの導入を考えているのだろうか。
「一つには企業側として安定した収益が見込めるということ。これは事業としては、とても魅力的なことです」
そしてもう一つ、企業側には大きなメリットがあると大石さんは言う。それは情報。
「単にモノを売るだけなら、顧客とのつながりはそこで切れてしまいますが、サブスクリプションを利用してもらっている間は、ずっとつながっていられる。これは企業にとっては大きなメリットでしょう。『KINTO』では、全車種に車載通信機を搭載し、走行データや車両データなどを取得するということですから、よく考えられているなと感心します。また、これらのデータから、安全運転やメンテナンスの状況などをスコア化して、顧客に還元できるようなポイントサービスを秋以降に導入する予定だとか。『情報いただきます。そして還元します』となれば、情報収集の大義名分も立ちそうです」
サブスクリプション制度で収益を上げている企業がある一方、AOKIはスーツの定額サービス事業から撤退した。アメリカGMもキャデラックのサブスクリプションサービスを停止するなど、企業側も手探り状態のようだ。三菱商事も無印良品と組んでサブスクリプションサービスを検討しているというが、どのような内容になるのかは不明だ。
「“サブスク”は今後、ますます多様化するのだと思います。それぞれのメリット・デメリットに関しては、個々の“物差し”で考えていく必要がありそうです」
モノに執着しない時代に誕生した新しいサービス業態「サブスクリプション」、今後の動向に注目したい。
大石泉 株式会社リクルートに約15年勤務ののち、個人のファイナンシャルプランニングの必要性を感じて2000年に独立。個人の豊かな暮らしと夢の実現を「住まい・キャリア・マネー」の3つの柱でサポートする。著書に「投資デビュー!」ほか。株式会社NIE.Eカレッジ代表取締役、一般社団法人夢の実現サポーター理事。
取材・文:中川いづみ