1976年、宮崎県生まれ。高校野球やオリンピックなど幅広く取材。著書に第23回小学館ノンフィクション大賞を受賞した『永遠のPL学園』（小学館文庫）など

柳川 悠二

<p>花巻東高（岩手）の怪物スラッガー・佐々木麟太郎（18）にとって、最後の夏が間もなく始まる。</p>
<p>２年前、父・洋氏が監督を務める同校に入学。この原稿を執筆している時点までに積み上げてきた本塁打は138本。その数は清宮幸太郎（北海道日本ハム）が早稲田実業時代に記録した111本の高校通算本塁打記録を遥かに凌ぐ。</p>
<figure id="attachment_318718" aria-describedby="caption-attachment-318718" style="width: 3543px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="c9bb7961"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/06/1fa0f07c4003866dbd7d9d4bfbb770d4.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-318718" class="wp-caption-text">打席に立つ佐々木麟太郎</figcaption></figure>
<p>だが、その記録が将来の成功——それこそ高校の先輩である大谷翔平（エンゼルス）のような、世界に羽ばたく活躍を約束するものではないことは、誰より佐々木が理解しているはずだ。ゆえに、メディアに囲まれる度、佐々木は常にこう答えてきた。</p>
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<p><span class="strongInContent">「僕は本塁打の数にはこだわっていません。注目していただけることはありがたいですが、優先するのはチームの勝利だけ。自分の役割を果たすことしか考えていません」</span></p>
<p>それでも特大の本塁打こそ彼の最大の魅力であり、プロへのセールスポイントであることは自明だ。圧巻だったのは、初日の場外弾３発を含む計４本塁打を放った６月の愛知県招待試合だった。</p>
<p>初日の第１試合・東邦戦では、やや甘く入った直球をライト方向にアーチを架け、続く打席では外角低めのカーブを右手一本ですくい上げるようにとらえてより大きな弧を描いた。</p>
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<p>そして第２試合の愛工大名電戦で外角の120キロ台の直球をとらえた当たりは、左打者の佐々木にとって逆方向となるレフトの場外へと消えた。さらに翌日の至学館戦でも左投手の直球をバックスクリーン右に運んだ。</p>
<p>自らが持つパワーと技を愛知に集まったスカウトやファンに実演するように、内容の異なる４本塁打を放ってみせた。基本的に一塁しか守ることができず、かつハンドリングがおぼつかない守備や、決して速いとは言えない足には目をつぶったとしても、緩いボールを真芯で捉えて規格外の飛距離を生み出すところはやはり怪物だ。</p>
<p><span class="strongInContent">「バッティングに関してはひとつの武器だと思っていますし、自信を持って練習しています。調子に左右されず、自分のベストのスイングをすれば、打球は勝手に散らばっていく。自分の役割を貫き通したい」</span></p>
<div data-friday-nextpage-lead="佐々木麟太郎の「穴」"></div>
<p>佐々木に〝穴〟があるとしたら内角高めの直球だろう。昨春の選抜で市立和歌山の好投手・米田天翼の直球に手を焼いたように、とりわけ140キロを超えるような一線級投手の胸元をつく直球への対応は不安を残す。</p>
<figure id="attachment_318719" aria-describedby="caption-attachment-318719" style="width: 3543px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="32d5f0f0"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/06/0744466d0e80b80141202e3fae86d3c1.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-318719" class="wp-caption-text">とてつもないスイングスピードだ</figcaption></figure>
<p>くしくも６月上旬の東北大会で花巻東に勝利したノースアジア大明桜（秋田）の輿石重弘監督はこんな言葉を残していた。</p>
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<p><span class="strongInContent">「佐々木君に対しては、胸元に135キロ以上のボールを集めることを投手陣に徹底させました。ポイントは135以上であること。135キロ以下では腕をたたんで、体を回転させてとらえられてしまいますし、コースが外角となれば腕を伸ばして逆方向に持っていかれてしまいますから」</span></p>
<p>佐々木にとって高校野球生活は、ケガとの戦いが続いた２年半でもあった。１年夏の甲子園に出場した後、胸郭出口症候群を患い冬に両肩を手術した。昨年夏は左人差し指を骨折して手術を受け、今春は左足のかかとを痛めた。</p>
<p>それでも佐々木は打席に立ち続けた。今年３月、私は修学旅行を兼ねていた花巻東の東京遠征に密着した。</p>
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<p>ケガの影響からか、佐々木はDHとして出場を続けていた。強豪との試合は京都国際との１試合だけだったが、この遠征で量産体制に入り、清宮に並ぶ111本目の本塁打を放ったところで、「おめでとう」と声をかけた。言葉少なに、佐々木はこう笑って話した。</p>
<p><span class="strongInContent">「ぜんぜん、おめでとうじゃないっす。まだまだ自分は……」</span></p>
<p>こんなものじゃないとでも言いたげだった。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="大谷翔平も書いた「81マスチャート」の中身"></div>
<p>花巻東の球児たちはみな、81マスからなる目標達成シート（マンダラチャート）を記入する。中央のマスに目標に掲げる夢を書き、それを実現するために必要な80の要素を記入するのだ。先輩である大谷翔平（現エンゼルス）は高校時代に「８球団からのドラフト１位」と書いた。つまり、高校入学時からプロの舞台に立つことを思い描いていた。</p>
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<p>一方、佐々木は高校野球を終えたあとの〝進路〟に関して明言はしていない。ならば、目標達成シートの中央に書いている佐々木の夢とは何か——こういう話は、ふたりきりの時間でしかできない。</p>
<figure id="attachment_318720" aria-describedby="caption-attachment-318720" style="width: 3543px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="52a413c8"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/06/90434a0e56335f64823fdcd8da9b3326.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-318720" class="wp-caption-text">チームメイトを鼓舞する声が球場へこだました</figcaption></figure>
<p><span class="strongInContent">「自分は、チームのことしか書いていないです。（大谷先輩のようにドラ１とは？）書いていないです（笑）。チームが勝つことのみ、考えていますから。その先の人生のことは、高校野球人生が終わってから考え直したいと思っています」</span></p>
<p>父である佐々木洋監督にとって、今年は息子と挑む最後の夏となる。とりわけ甲子園への思いは強いだろう。</p>
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<p><span class="strongInContent">「麟太郎に限らず、小さな頃から知っている子たちばかり。昨年の夏は先輩たちの涙も見ている。まずは岩手を勝ち抜かなければなりません。（麟太郎に関しては）これまで調子の悪い時と良い時の波がものすごくあった。その幅が減ってきている気がします。チームとしては麟太郎のあとを打つ打者がカギとなりますし、（麟太郎に対する）申告敬遠なども想定しながら戦わないといけないと思います」（佐々木監督）</span></p>
<p>前人未踏の本塁打を記録した、怪物スラッガーの真価が問われる夏が始まる。</p>
<p>（取材・文/柳川悠二）</p>
<div data-friday-nextpage-lead="【本誌独占】佐々木麟太郎の試合写真はこちらから"></div>
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<figure id="attachment_318721" aria-describedby="caption-attachment-318721" style="width: 2362px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="c871e5a3"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/06/dd0536322d9c1fad0b44b6f75368f273.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-318721" class="wp-caption-text">キャプテンシーを発揮する佐々木</figcaption></figure>
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<figure id="attachment_318722" aria-describedby="caption-attachment-318722" style="width: 3543px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="2b1eb6cb"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/06/abd617e6eafc7fc3cd2d5454ca59f7a7.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-318722" class="wp-caption-text">ファーストからチームの士気を上げる</figcaption></figure>
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<figure id="attachment_318723" aria-describedby="caption-attachment-318723" style="width: 3543px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="567f8cb0"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/06/4a2b3714c8d4aa7861f23604fdb3fe1f.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-318723" class="wp-caption-text">笑顔を見せる余裕を感じさせた</figcaption></figure>
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<figure id="attachment_318724" aria-describedby="caption-attachment-318724" style="width: 3543px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="38fc9bd9"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/06/f3b0ffca1a9efd7c8466209129ddbf37.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-318724" class="wp-caption-text">甲子園での活躍も期待される</figcaption></figure>
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<figure id="attachment_318725" aria-describedby="caption-attachment-318725" style="width: 3543px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="03ae1f01"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/06/12398aa6425a35e39a1ef834ed8cb112.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-318725" class="wp-caption-text">本誌の独占取材に答えた佐々木</figcaption></figure>
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<figure id="attachment_318726" aria-describedby="caption-attachment-318726" style="width: 3543px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="eaaef28c"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/06/318a2820a1298390cd58e18633c0eefb.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-318726" class="wp-caption-text">投手をよく観察する</figcaption></figure>
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柳川悠二

松橋隆樹

花巻東（岩手）の怪物スラッガー・佐々木麟太郎にとって、最後の夏が間もなく始まる。
2年前、父・洋氏が監督を務める同校に入学し、直後から原稿執筆時点までに積み上げてきた本塁打は138本。

140キロの内角速球が打てない…通算138発の佐々木麟太郎が「それでもホンモノ」なワケ

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