「坂元裕二×是枝裕和」カンヌ国際映画祭でも絶賛された異作映画『怪物』が生まれた意外な背景 | FRIDAYデジタル

「坂元裕二×是枝裕和」カンヌ国際映画祭でも絶賛された異作映画『怪物』が生まれた意外な背景

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映画「怪物」でカンヌ国際映画祭の脚本賞を受賞し、是枝裕和監督(左)から盾を受け取る坂元裕二氏
映画「怪物」でカンヌ国際映画祭の脚本賞を受賞し、是枝裕和監督(左)から盾を受け取る坂元裕二氏

第76回カンヌ国際映画祭での上映が終わると、会場は地響きにも似た拍手に包まれた――。

9分半に及ぶスタンディングオベーション。映画を観た観客の顔は皆、輝いていた。

映画『万引き家族』でカンヌ国際映画祭最優秀賞に当たるパルム・ドールに輝いた是枝裕和監督が、人気脚本家・坂元裕二とタッグを組んだ映画『怪物』は、「脚本賞」「クィア・パルム賞」の二冠を獲得。日本映画の歴史にまた新たな1ページを刻んでいる。

このドラマは、周囲を山に囲まれた大きな湖のある静かな街が舞台。息子を愛するシングルマザー(安藤サクラ)、生徒思いの小学校教師(永山瑛太)、そして無邪気な子供たち。

しかし、子供たちの諍いをきっかけに、食い違う主張が社会やメディアを巻き込み、大ごとになっていく。そしてある嵐の朝、子供達が忽然と姿を消すといった物語を〝3つの視点〟から描いた感動のヒューマンドラマである。

坂元裕二の手によって『怪物』の卵が産み落とされたのは、今から5年程前の事。川村元気プロデューサーから、

「坂元さんと進めている企画があるので、プロットを読んで欲しい」

と依頼された。是枝はプロットを読む前から、監督を引き受けることを決めていた。

「デビュー作『幻の光』以外、常にオリジナル脚本で勝負してきた是枝監督。しかし『脚本家と組んで映画を作るなら誰か?』という問いに、必ず『坂元裕二』の名前を挙げていました。

その年、映画『万引き家族』で頂点を極めましたが、実はその頃、是枝監督は自分の書く脚本に限界を感じていました。今作を撮ることで『次の扉が開く』と、本人は考えていたようです」(制作会社プロデューサー)

‘18年、絶妙なタイミングで「是枝裕和×坂元裕二」のコンビが誕生。しかし是枝監督は、なぜ「坂元裕二」とタッグを組もうと考えたのか……。

「『東京ラブストーリー』以来、第一線で活躍しながら常に自分をアップグレードしながら成長していこうとする坂元の姿に是枝はリスペクトを感じていました。‘11年に放送されたドラマ『それでも、生きてゆく』(フジテレビ系)を観て、その思いがますます決定的になったと話しています」(前出・プロデューサー)

異色のドラマ『それでも、生きてゆく』。親友の少年A(風間俊介)によって、妹を殺された主人公の洋貴を瑛太。「死んで謝れ」「一家心中しろ」などと言われ、好奇な目にさらされながら耐え抜く少年Aの妹・双葉役を満島ひかりが熱演。

加害者家族という難しいテーマに挑む坂元の意欲作を観て、是枝は

「どうすればこんな精度で連ドラに落とし込めるのか。すごいな」

と驚きを隠さなかった。一方の坂元も‘16年に公開された映画『海よりもまだ深く』を観た際、最後まで泣きっぱなしてあったことを告白。

「脚本家として学ぶところがたくさんあった」

「是枝さんとやりたかった」

といった心境を明かしている。

坂元裕二と是枝裕和。ネグレクト、加害者家族、擬似家族など、描かれるテーマに共通性があるばかりか、作品そのものが深く共鳴しあっているようにすら見える。

「親から虐待される子供を連れ去り逮捕される女性(安藤サクラ)を描いた『万引き家族』と、虐待され捨てられた子供(芦田愛菜)を拾い、その子を守るために逃避行する女性(松雪泰子)の姿を描いた坂元が手掛けたドラマ『Mother』(日本テレビ系)。この2作は血縁で結びついた親子関係に警鐘を鳴らすのと共に、現行の法制度や一般社会のルールに対する憤りが見え隠れする点でもよく似ています」(制作会社ディレクター)

価値観を共有する2人が、3年の年月を賭けて完成させた脚本には、孵化した『怪物』の姿が生き生きと描き出されている。

「今作は、シングルマザー(安藤サクラ)の視点、小学校教師の視点(永山瑛太)、そして子供たちの視点、この〝3つの視点〟から物語が紡がれています。初めの二つの視点は、坂元さんにしか描けない絶妙の会話劇が素晴らしい。

そのため、これまでの是枝作品にはない独特のリズムが生まれています。そして〝子供たちの視点〟では、生きづらさを抱え、大人を陥れる『怪物』となった子供たちの姿が描かれます。しかし〝廃線跡地〟のシーンでは、坂元と是枝監督が生み出した『怪物』が観る者に希望を与えてくれる素晴らしいエンディングとなりました」(前出・ディレクター)

まるでファンタジーのようにも見える廃線跡地のシーン。希望に向かって走り出す、2人の子役の姿が、私には坂元裕二と是枝裕和のように見えてならなかった――。

  • 取材・文島右近(放送作家・映像プロデューサー)
  • PHOTO共同

島 右近

放送作家・映像プロデューサー

バラエティ、報道、スポーツ番組など幅広いジャンルで番組制作に携わる。女子アナ、アイドル、テレビ業界系の書籍も企画出版、多数。ドキュメンタリー番組に携わるうちに歴史に興味を抱き、近年『家康は関ケ原で死んでいた』(竹書房新書)を上梓。電子書籍『異聞 徒然草』シリーズも出版

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