<figure id="attachment_317991" aria-describedby="caption-attachment-317991" style="width: 1999px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="a0bdeb15"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/06/c9129bd350b0400e4e9e0ff4c7c75dd4-1.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-317991" class="wp-caption-text">親の過剰な教育熱により心を病む子供たち（写真はイメージです）</figcaption></figure>
<p>かつてスパルタ教育と呼ばれた行為は、近年「教育虐待」とされている。教育という名のもとに親がふるう身体的、精神的な暴力のことである。</p>
<p>教育虐待の現場に光を当てた時、親の発達障害がいきすぎた指導の原因になっていることがある。</p>
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<p>【<a href="https://friday.kodansha.co.jp/article/317943">前編：高学歴志向の毒親「過剰受験熱で家族の命が奪われた」悲劇の実話</a>】で見た教育虐待の殺人事件は、親がＡＳＤであり、そのこだわりがわが子への指導を異常なほど厳格にし、最後は我を失って包丁で刺殺してしまうというものだった。</p>
<p>この事例とは反対に、子供に発達特性があることによって、教育虐待の被害を受けやすくなるという傾向もある。</p>
<p>本記事の冒頭で紹介した「滋賀県医学部９浪母親殺人事件」もそうだった。この事件は「親ガチャ」の典型例として受け取られているが、教育虐待の被害者だった桐生のぞみには発達障害があったのだ。</p>
<p>私は『教育虐待――子供を壊す「教育熱心」な親たち』（ハヤカワ新書）でこの事件をはじめとした発達障害と教育虐待の関係性について細かく紹介したので、そこからこの問題について考えてみたい。</p>
<h2>幼稚園の頃から英会話に知育教育</h2>
<p>本書の取材をする中で、親が発達障害のある子供に教育虐待をする事例をたくさん見てきた。典型的な事例を２つ紹介しよう。</p>
<p>〇教育虐待とＡＤＨＤ</p>
<p>厳格な公務員の父親と元教師の母親の間に、宮尾拓斗（仮名）は生まれ育った。</p>
<p>両親は共に国立大学の教育学部を卒業しており、教育熱は高かった。幼稚園の頃から公文、英会話、知育教室などに通わせており、小学２年生の頃から「他の子と差をつけるため」として中学受験の勉強をスタートさせられた。</p>
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<p>ところが、拓斗にはＡＤＨＤの特性があった。その頃は親が認めずに診断を受けていなかったが、幼稚園時代から勝手にどこかへ行ってしまう、じっとすわっていることができない、自己主張が激しく周りの子と付き合えないなどの言動が顕著だった。</p>
<p>小学校に上がると、両親は拓斗の学力を上げようと毎日勉強を強制した。しかし拓斗の特性は変わっていなかった。集中してテキストをやれと言っても、あっという間に別のことをしたり、歩き回ったりする。塾でも勉強とは関係のないことをして注意されることが多かった。</p>
<p>そんな拓斗を、両親は「わがままな子」と見なし、力ずくで抑えようとした。勉強部屋のドアに外から鍵をつけて閉じ込める、家庭教師と母親の２人で両脇から挟んで机に向かわせるといったことをし、それでも言うことを聞かない場合は、怒鳴りつけたり、手を上げたりした。</p>
<p>事態が発覚したのは、小学５年生の頃に、拓斗が勉強を強いる親から逃げ出し、２日にわたって家出をしたためだ。警察に保護された時、拓斗の体に無数のアザがあることが発見され、両親の暴力が明るみに出たのである。</p>
<p>児童相談所に預けられた拓斗は、そこで医療につながり発達障害の診断を受けることになった。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="日に何十回と吐かれた暴言の中身"></div>
<figure id="attachment_317993" aria-describedby="caption-attachment-317993" style="width: 2000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="8260ea8d"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/06/0766a92e50a62a6064609a0558ad3b19-1.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-317993" class="wp-caption-text">学校だけでなく家庭での教育も問題が多い（写真はイメージです）</figcaption></figure>
<p>〇教育虐待と学習障害</p>
<p>地方の老舗企業を経営する両親の下で、３人きょうだいの末っ子として内沢美鈴（仮名）は生まれた。</p>
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<p>６歳違いの兄、４歳違いの姉は共に優秀だった。幼い頃からいくつもの習い事をこなし、勉強もスポーツも秀でていて、兄は名門高校へ、姉は中学受験をして有名なお嬢様学校へ進学した。</p>
<p>だが、末っ子の美鈴だけは違った。スポーツはまあまあだったが、勉強に関しては物覚えが悪くまったく身につかない。塾だけでなく、家庭教師をつけてもできるようにならなかった。</p>
<h2>「同じ血が流れているとは思いたくない」</h2>
<p>父親が仕事で忙しかったので、母親が子供の教育を担っていた。母親は唯一手のかかる美鈴にいら立ち、大声で罵倒をくり返した。</p>
<p><span class="strongInContent">「お兄ちゃんやお姉ちゃんにできて、なんで美鈴にできないの。努力をしてないからでしょ」</span></p>
<p><span class="strongInContent">「これだけやってできないのは犬以下。同じ家に住んでいると考えるだけで気持ち悪い」</span></p>
<p><span class="strongInContent">「あなたが私の子供だと思いたくない。もう、うんざり。やる気がないなら、この家から出ていって」</span></p>
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<p>日に何十回とそんな暴言を吐くようになっていたらしい。</p>
<p>また、母親は嫌がらせのように、美鈴に様々な制限を課した。勉強が終わるまで食事を与えない、課題を暗記するまで机を立つのは禁止、３食必ず頭にいいとされているブロッコリーとクルミを大量に食べさせる……。</p>
<p>そんな生活の中で、美鈴はうつ病のような症状を見せるようになる。そして学校へ行けなくなるどころか、食事すら受け付けなくなってしまった。それで医療機関につながることになったのである。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="「ちゃんとやれ」は教育虐待"></div>
<figure id="attachment_317994" aria-describedby="caption-attachment-317994" style="width: 1999px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="b0224aca"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/06/336ff33255d43a770afdf9d22ddaca9c.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-317994" class="wp-caption-text">時には親が暴力をふるうことも（写真はイメージです）</figcaption></figure>
<p>この２つのケースは、教育虐待と発達障害が結びついたよくある例だ。</p>
<p>本書に登場する医師は、その因果関係について次のように説明している。</p>
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<p><span class="strongInContent">「子供が持っている障害の種類によって親の言動が変わることがあります。親が勉強を強いた時、ＡＤＨＤやＡＳＤの子供は、じっとすわっていられないとか、思い込みで違うことをやるなどといったことがあります。特性が行動に表れる。それゆえ、親は子供に対して『やめろ』『ちゃんとやれ』という具合に行動規制をかけようとするので身体的な抑制を伴う教育虐待になりやすいのです。</span></p>
<p><span class="strongInContent">親が学習障害の子供に勉強を強制する場合は違います。子供はおとなしく机に向かいますが、その特性からなかなか成果が点数に表れません。そうすると、親はイライラして罵声を浴びせたり、長時間の勉強を強いたりするので、心理的虐待を伴う教育虐待になる傾向にあるのです」</span></p>
<p>この言葉を先の事例に当てはめてみれば、なぜ親が教育虐待に走ったかがわかるだろう。</p>
<p>この他に、発達障害と教育虐待の関係を見る際に重要なことが２つある。まず挙げられるのが、子供が抱えている障害は１つとは限らないということだ。</p>
<p>子供によってはＡＤＨＤに加えて学習障害の特性があったり、知的障害が見られたりするケースも珍しくない。複数の特性が併存しているのだ。</p>
<p>そうなると、親が子供の発達特性を的確に理解するのが難しいとか、子供に親のいきすぎた教育をうまく流す力がないといったことが起こる。それが被害を拡大させる。</p>
<h2>分刻みの学習スケジュール</h2>
<p>２つ目が、親に発達特性があることが少なくないということだ。</p>
<p>発達障害には、絶対ではないが、遺伝的要素がある。それゆえ、子供と親に障害があるケースが珍しくないのだ。</p>
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<p>そうなると、親が学習スケジュールを分刻みに決めて押し付ける一方で、子供が自分の決めた別のスケジュールに固執するとか、勉強以外のところにこだわりが向いているといったことが起こりえる。そうしたことが、場合によっては虐待をより悪化させてしまう。</p>
<p>家庭の中で起きているこうした問題を詳しく知りたい方は、拙著『教育虐待――子供を壊す「教育熱心」な親たち』を読んでいただきたい。</p>
<p>この記事で言えるのは、事件までいかなくても、第３次中学受験ブームといわれる現在、家庭という密室の中では、こうした事態が起きやすくなっているということだ。</p>
<p>本書で何度も述べたが、子供によって最適とされる学習方法は異なるし、今は科学に裏打ちされた効果的な勉強法も確立している。学習に必要なのは、親が一律に自分の思いを強制するのではなく、子供の意思や特性を見極めて、適したやり方を提案することなのである。</p>


'77年、東京都生まれ。ノンフィクション作家。国内外の文化、歴史、医療などをテーマに取材、執筆活動を行っている。著書に『絶対貧困』『遺体』『「鬼畜」の家』『43回の殺意』『本当の貧困の話をしよう』『格差と分断の社会地図』『ルポ 誰が国語力を殺すのか』などがある。

石井光太

加熱する受験と親の高学歴志向により家族が命を失うという痛ましい事件が多発している。不満が爆発し親を殺害する子供。言うとおりにならない子供を虐待する親――。ノンフィクション作家・石井光太氏渾身のルポ。

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