<p>今季の日本フィギュアスケート界で最大の出世頭―。関係者がこう評するのが、20歳の渡辺倫果（TOKIOインカラミ・法政大）だ。</p>
<figure id="attachment_318047" aria-describedby="caption-attachment-318047" style="width: 770px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="66505356"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/06/047b37b5e59144f17ca40b137c05acb9.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-318047" class="wp-caption-text">八戸国体でフリーの『JIN』を披露する</figcaption></figure>
<p>2021-22シーズンは世界ジュニア選手権10位とほぼ無名だったが、2022-23シーズンからシニアに本格参戦。国際大会初戦となった昨年9月のロンバルディア杯で北京冬季五輪銅メダリストの坂本花織（シスメックス）を破って優勝すると、欠場選手の代役として巡ってきたグランプリ（GP）シリーズ第2戦のスケートカナダで初出場ながら優勝という快挙を成し遂げた。</p>
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<p>国際スケート連盟（ISU）の年度表彰式となる「ISUスケーティング・アワード」で「最優秀新人賞」にノミネートされ、6月には宇野昌磨（トヨタ自動車）を筆頭に有名スケーターが名を連ねるアイスショー「ワンピース・オン・アイス」の出演者にも抜擢された。まさにシンデレラストーリーを歩んでいるのだ。</p>
<p>一方で渡辺本人には<span class="strongInContent">「スピード出世すぎる。新入社員だったのが部長まできている」</span>と、急速に変化する自らの立場に気持ちが追いついていないことへの戸惑いもあった。今年3月の世界選手権（さいたまスーパーアリーナ）では、最大の武器であるトリプルアクセル（3回転半ジャンプ）がSP、フリーとも不発に終わって10位。苦い経験を糧に、来シーズンでは出世した「立場」に負けない活躍が期待されている。</p>
<p>中学生の時に水族館で見て<span class="strongInContent">「6年間断食しても生きられるところに惹かれた」</span>という、ダイオウグソクムシのぬいぐるみがお気に入り。両手でダイオウグソクムシのぬいぐるみを抱えてインタビューに応じるなど、キャラクターも立っている。</p>
<p>頭角を現すまでの経緯も、目を引くものがある。スケートを始めたのは3歳の時。2006年のトリノ冬季五輪で金メダルを獲得した荒川静香の演技に魅了された渡辺は、早くから連続3回転ジャンプを跳び、全日本ノービス選手権Bクラスで優勝した。しかし、その後は長い不遇の時期を過ごすことになる―。</p>
<p>中学2年の時に右膝の剥離軟骨が発覚し、腰骨を膝に移植する手術を経験。再び氷上に立つまで数ヵ月の時間を要した。その後、海外に拠点を移すコーチを追いかけてカナダへ渡るも、伸び悩んでいた。</p>
<p>そんな現状を打破できたのは「ある決断」があったからだ。新型コロナウイルスの感染拡大により、自由な渡航が制限されたことをきっかけにカナダからの帰国を選択。京都の「木下スケートアカデミー」で濱田美栄コーチの指導を受けた後、2021年4月に出会ったのが現在も師事する中庭健介コーチだった。</p>
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<p><span class="strongInContent">「今まで自分に自信がなかったが、中庭先生と出会ってスケートへの向き合い方が変わった。私以上に私のことを信じてくれるので、自分自身を信じられるようになった」</span></p>
<p>渡辺自身もこう語っている。</p>
<p>高いポテンシャルを持ちながら、失敗を怖がるあまりに試合で実力を発揮できなかった渡辺に対し、中庭コーチは<span class="strongInContent">「ちゃんと練習していれば、成功率は上がる。失敗はするかもしれないけど、絶対に失敗するわけではないんだよ」</span>と説いた。試合への恐怖心を払うように腐心したのだ。</p>
<p>世界で戦える武器を与えてくれたのも中庭コーチだ。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="世界選手権での「リベンジ」に燃える"></div>
<p>1992年アルベールビル冬季五輪銀メダルの伊藤みどり、世界女王に3度輝いた浅田真央の代名詞だったトリプルアクセルへの挑戦を促し、渡辺が<span class="strongInContent">「妹のような存在」</span>と語る同門で15歳の中井亜美（TOKIOインカラミ）と競うように跳んだ。これがきっかけとなって、成功率が低くても試合本番で挑み続け、大技をモノにして見せたのだ。</p>
<p>じっくりと心技体を整えて挑んだ昨季。その本領が発揮されたのがGPシリーズのスケートカナダだった。樋口新葉（ノエビア）の右脚故障により急きょ巡ってきた舞台でSP6位と出遅れたが、人気テレビドラマ『JIN』の世界観を表現したフリーの冒頭でトリプルアクセルを成功させると、七つジャンプすべてを無事に着氷。音楽が鳴り止むと、ぐっと目を閉じ、万感の表情を浮かべながら両拳を握りしめた。雌伏の時を過ごした思い出の地、カナダで目標の表彰台どころか頂点まで駆け上がり<span class="strongInContent">「奇跡的なことが起きている」</span>と興奮気味に語った言葉は印象的だった。</p>
<figure id="attachment_318049" aria-describedby="caption-attachment-318049" style="width: 851px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="8e0eccb0"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/06/3d50c60aa4c8586be26c2c1a01a530c8.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-318049" class="wp-caption-text">3月の世界選手権での演技後には、この表情</figcaption></figure>
<p>フィギュア界では極めて遅咲きとされる20歳の躍進は続き、GPシリーズ上位6人だけが出場できる12月のファイナルでは4位と健闘した。ただ、自分の想像を大きく上回る活躍は、本人曰く<span class="strongInContent">「自分で自分の首を絞めていた」</span>という。</p>
<p>注目が集まる中で臨んだ12月の全日本選手権は重圧に押しつぶされて12位に終わり、初出場した世界選手権でも10位に沈んだ。この2大会での演技は、本来の演技とはほど遠いものだったはずだ。それでも<span class="strongInContent">「色々と苦労してきた彼女は強い」</span>と中庭コーチは言う。</p>
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<p>中庭コーチは世界選手権のフリーで滑る渡辺を見て、これまでの道のりを思い返して涙した。そんな中庭コーチの姿を見て<span class="strongInContent">「こんなので泣いていたら（この先）もたないよ。来年、またこの場所に戻ってくるんだから」</span>と渡辺は力強く宣言したというのだ。</p>
<p>新たなシーズンでさらなる大輪を咲かせるために、フリーではトリプルアクセルを倍の2本に増やす意向だが、渡辺自身には<span class="strongInContent">「フィギュアスケートはジャンプだけで決まるものではない」</span>という信念がある。理想像は<span class="strongInContent">「絵の具がどこに垂れようともそれを作品としてまとめあげること」。</span>スピン、ステップ、スケーティング、そして表現力、全てを凝縮させたプログラムをつくりたいと力強く語る。</p>
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<p><span class="strongInContent">「全ての経験が今の私を作っていると思うし、どのピースが欠けても今の私はない。本当にこうして今まで関わってくださった方に感謝しかない。私はもっともっと上に行きたいと思っているし、もっともっと恩返しできるように頑張っていきたい」</span></p>
<p>遅咲きの苦労人だけが描くことのできる滑りを、心待ちにしたい。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="とびきりの笑顔もまぶしい！渡辺倫果の画像集"></div>
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<figure id="attachment_318646" aria-describedby="caption-attachment-318646" style="width: 700px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="5b6cf288"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/06/dc9a3de07da874130e968b575fa20386.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-318646" class="wp-caption-text">元日本代表の宮原知子（左）とともに</figcaption></figure>
<figure id="attachment_318647" aria-describedby="caption-attachment-318647" style="width: 693px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="8db4d02c"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/06/65d29117b1f42852fe14be7172412291.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-318647" class="wp-caption-text">今年1月には青森県スポーツ大賞も授賞</figcaption></figure>
<figure id="attachment_318648" aria-describedby="caption-attachment-318648" style="width: 712px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="6db326c3"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/06/378323f3fe332aff9cbca4a624f3a52b.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-318648" class="wp-caption-text">5月のアイスショー後に高橋大輔（最前列中央）らと</figcaption></figure>
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共同通信（1・2枚目）　本人のinstagramより（3～5枚目）

秦野大知

日本フィギュア界で最大の出世頭―。こう評されているのが、渡辺倫果（20）だ。昨季GPシリーズで初優勝を飾った遅咲きのシンデレラはさらなる飛躍を誓っている。

「奇跡的だ」大けがからGPシリーズ初優勝！女子フィギュア・渡辺倫果の歩む「シンデレラストーリー」

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