<figure id="attachment_318249" aria-describedby="caption-attachment-318249" style="width: 1024px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="77043340"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/06/60d58815a479b07fe1688548b70204c1.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-318249" class="wp-caption-text">６月１日の交流戦・広島戦に勝利。今年注目されている山下（右）とともに笑顔で写真におさまるオリックス・茶野（左）。茶野が写っている写真の多くは、ユニフォームが土で汚れている（写真：共同通信）</figcaption></figure>
<p><span class="strongInContent">「ずっとテレビとかで見てた世界にいきなり来てしまったなって感じで……。ここまでやってこられているのは、もうホントに初球から振れていることだけだと思うんですけど。調子が悪くなっても何とか振っていこうっていうのだけは意識しています」</span></p>
<p>育成枠入団から、史上初となる開幕戦の先発メンバーに選ばれた。14試合連続安打、さらには初本塁打が満塁弾となるなど、オリックスのルーキー茶野篤政は、誰も想像できなかったような活躍を続けている。彼はどのようにして１軍の舞台へと駆け上がっていったのか？</p>
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<h3>初めての宮崎キャンプでWBCメンバー宇田川から本塁打</h3>
<p>四国アイランドリーグplus、徳島インディゴソックスに在籍していた昨年３月、開幕戦のスタメンから漏れた。３戦目に代打として初出場し左前適時安打を放つ。４戦目から９番・左翼手として先発出場を果たしている。４月を終え、15試合を消化した時点での打率は.200である。</p>
<p><span class="strongInContent">「いいバッターがいてレベルが高く、ピッチャーもみんな球が速いし。だから自分、まだまだやって。食らいついていくしかないなあと思って、ただ必死にやってました」</span></p>
<p>岐阜・中京高時代は控えの二塁手、名古屋商科大では４番・二塁手を務め、２年次に『打撃賞』を受賞している。俊足を生かすため、４年次に右翼手へとコンバートされた。卒業後は社会人野球のある企業への就職を希望していたが、うまくまとまらず、赤松幸輔コーチ（現・名商大監督）に背中を押されて四国リーグへの道を選ぶ。自信など、みじんもなかった。</p>
<p>だが、１年で大きく成長を遂げる。６月15日、オリックス２軍との交流戦（シティ信金スタジアム）で、右翼への２ランを含む４安打４打点１盗塁と猛アピールを見せた。リーグ戦でも徐々に頭角を現し、打率.316を残して首位打者に輝く。37盗塁はリーグ２位の好成績だ。ドラフトでは四国リーグで最後となる３人目に名前を呼ばれ、NPB入りの夢をかなえた。オリックスで始まる育成選手としての厳しい道のりを前に、日本シリーズの中継を見ながら、あそこに立てるよう頑張らなきゃなあと、ただ漠然と考えていた。</p>
<p>宮崎での春季キャンプで首脳陣の目に留まったのは、茶野の積極性だった。シート打撃の打席に入れば、早いカウントからどんどん仕掛けていく。髙橋信二コーチの目には、その姿がほかの選手と明らかに違っているように見えた。</p>
<p><span class="strongInContent">「あの日、彼は結果を恐れてないように僕には映ったんです。ほかの選手たちは恐る恐る振りにいってる。自分の良さをなかなか発揮できない中で、彼が一番光ったんだと思うんです。何よりカッコつけてない選手に見えませんか？　オリックスのメンバーの中で。あのフィールド上にいる選手の中で……。このチームにはそれが一番大事だと思うんです。だから中嶋さんも、そういう選手をずっと求めてるんだと思います」</span></p>
<p>その貪欲な姿勢は１日だけでなく、毎日続いた。２月８日にAグループに合流した後、侍ジャパンのWBC優勝メンバー、宇田川優希から右翼に本塁打を放つ。</p>
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<p>最も苦しかったのは、オープン戦に突入した３月だった。周りの選手たちと自分とは、置かれている状況が決定的に違う。シーズンに向けて調整段階のメンバーに対して、自分は支配下登録を目指し、１本でも多く安打を積み重ねなければならない。入団したときから一番難しいと考えていた支配下登録の壁が、いま目の前にそびえ立っている。</p>
<p><span class="strongInContent">「その３月の期間っていうのは、ホントに一番結果にこだわって。なんなら独立リーグのときの『NPBのスカウトにアピールする！』っていうよりも『支配下になる！』っていうときのほうが、気持ち的には（攻めに）かかってたと思うので」</span></p>
<p>背番号が『033』から『61』に変わった３月24日、支配下の壁を越えた喜びは、さほど湧き上がってこなかった。「さあ、ここからが勝負だな」という気持ちのほうが、大きくのしかかっていたからだ。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="入団会見の写真は後列一番端だった"></div>
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<figure id="attachment_318254" aria-describedby="caption-attachment-318254" style="width: 1024px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="f31e244c"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/06/bb0d2b47197e87fe151257aa6a78af4a.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-318254" class="wp-caption-text">昨年11月30日の新入団発表時の写真撮影。ドラフトの上位指名選手が前列に陣取る中、茶野は後列一番端で写ったが、ここからはいあがった（写真：共同通信）</figcaption></figure>
<h3>抜擢した中嶋監督の狙い</h3>
<p>大抜擢された理由を編成部、牧田勝吾副部長はこう考えている。</p>
<p><span class="strongInContent">「オリックスの補強ポイントとして、今いる選手と違うタイプの選手を探していました。彼の持っている脚力、肩の強さ、バッティングのコンタクト能力、そしてあの積極性ですよね。そのすべてをマッチすることができれば、日本一になったウチのメンバーの中に入って、またさらにいい競争意識が出る。その１人になってくれたらいいなあという思いがありました。中嶋監督が能力の高さを見抜いて、実戦の中で育成していこう、やっぱり自分の下に置いとこうって思ったと思いますね。もちろんいい選手がいっぱいいるんですけど、それでも一番にオレの下で使おうと思ったのが茶野だったのかなと」</span></p>
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<p>それでもまさか、開幕戦からスタメンで使うとは思っていない。「あれは中嶋監督にしかできない采配」と感服する。</p>
<p>３月31日、対西武１回戦（ベルーナドーム）３回表、最初の打席は三塁線に転がる内野安打だった。牧田は、あの打席がすべてだったと考えている。</p>
<p><span class="strongInContent">「ボテボテのサードゴロに、いきなり『H』が点いた。内野安打になったっていうのが、彼を１つ生かした。それは野球の神様が見てたのかなあ？　って」</span></p>
<p>初めての打席で本塁打を放ち、華々しいデビューを飾る選手がいる。だが、そういう選手に限ってそれ以降、苦労しているケースは少なくない。</p>
<p><span class="strongInContent">「茶野にとっては、これぞ最高！　なヒットを１打席目で打った。彼らしい彼の野球人生そのもののヒットだったのかなと。プロ野球選手としてユニフォームを着てスタートした生活の、最初の１打席目がホントに彼にとっては最高のヒットだったかなって、私は勝手に思ってます」</span></p>
<p>大学時代の茶野をよく知る人物がいる。ゼミの担任だった石井正道教授（名商大経営学部）だ。ゼミ生の１人だった茶野を３年間、指導した。４年次にはゼミを代表して、100人ほどの前で卒業論文のプレゼンテーションを行ったこともあるという。</p>
<p><span class="strongInContent">「10年以上、毎年10人から20人のゼミ生を指導してきましたが、その中でトップレベルの学業成績を残しています。毎日野球の練習が終わった後、勉強をしっかりやらないとあの成績は取れない。大変真面目で努力家だと思います」</span></p>
<p>「プロを目指すため四国に行く」と茶野が報告に来たとき、「彼のことだから緻密に考えて、もう両親も説得しているんだろうな」と思った。石井教授はこう続ける。</p>
<p><span class="strongInContent">「彼に言ったのは『26歳まで野球に専念して。万一ダメでも、お前だったらいい会社に就職できるから。安心して野球に専念しろ』。一応、私も約20年間、一部上場企業にいた経験があって、いろんな人間を見ているので、こいつはできるなっていうのが分かる。彼だったらどこの会社に行ったって、ビジネスマンとしても出世するタイプの人間だから」</span></p>
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<p>春季キャンプからオープン戦と続いた２ヵ月間は、確かにきつい日々だった。だが、チャンスをつかみ取った成功への２ヵ月間でもある。支配下を目指してバットを振り続けながら、もっと結果、出してやるぞ！　と自分を鼓舞し続けた。今、大観衆の前でプレーする喜びを感じながら、乗り越えたからこそ忘れたくないものがある。</p>
<p><span class="strongInContent">「そのときの必死さっていうか、結果にこだわる姿勢っていうのを。今も変わらずなんですけど、ずっと続けていけたらいいかなと思います」</span></p>
<p>まるで武将のような名前だからと、ファンから『篤政殿！』と呼ばれることが増えた。それについて感想を聞くと「全然、ピンと来てないです」と苦笑いした。まだ、武将ではない。果敢にバットを振り続ける、若武者である。</p>
<figure id="attachment_318250" aria-describedby="caption-attachment-318250" style="width: 4021px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="2802c653"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/06/bd940e331901a5ea9d7fc09bbd6737e8.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-318250" class="wp-caption-text">昨年、オリックス２軍との交流戦で本塁打を打った茶野（撮影：高田博史）</figcaption></figure>
<figure id="attachment_318251" aria-describedby="caption-attachment-318251" style="width: 5184px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="3a147539"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/06/c4bf5ee0148841b7272d0c6d142043a5.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-318251" class="wp-caption-text">２軍で茶野を指導したオリックス・髙橋信二コーチ（撮影：高田博史）</figcaption></figure>
<figure id="attachment_318252" aria-describedby="caption-attachment-318252" style="width: 5184px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="5c702cbe"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/06/e18f44ba2f78559339e5fcd12343fbf3.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-318252" class="wp-caption-text">試合前練習の合間を縫ってインタビューに応じた茶野（撮影：高田博史）</figcaption></figure>


高田博史

昨季、日本一に輝いたオリックスの外野陣の一角を担うのは昨年、育成選手として入団したばかりの茶野篤政だ。昨年、独立リーグの開幕戦でも先発できなかった男がなぜ、ここまで一軍で奮闘できているのか。

「どの会社でも出世する」育成枠ルーキーで史上初の開幕スタメン　オリックス・茶野篤政の生き様

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