<p>昨季まで５シーズン過ごしたソフトバンク戦に先発した阪神・大竹耕太郎（27）。</p>
<p>２回の表、球界屈指の強打者・柳田悠岐（ゆうき）（34）を迎えた際のピッチングに、今季のブレイクをもたらした”要素”がタップリと詰まっていた。</p>
<h3>阪神　大竹耕太郎（27）<br>
速球の平均球速140.6km</h3>
<figure id="attachment_318474" aria-describedby="caption-attachment-318474" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="77d7e896"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/06/6486233f0949031c9d1be51c7859b44a.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-318474" class="wp-caption-text">早大の卒論のテーマは「緩急を使った投球は打ちにくいのか」。’17年にソフトバンクに育成４位で指名されて入団するも伸び悩み、’22年に現役ドラフトで阪神へ</figcaption></figure>
<figure id="attachment_318476" aria-describedby="caption-attachment-318476" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="b2eb4392"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/06/2e94df84710dd50d5cc4e9f0ea8c1d8d.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-318476" class="wp-caption-text">キレのいい真っ直ぐがチェンジアップの威力を高め、坂本勇人ら強打者もお手上げ！</figcaption></figure>
<p>初球、内角低めのボールゾーンに140㎞のストレートを投げ込んで空振り。２球目は内角高めの140㎞でファウル。ホームランバッター相手に３球目も強気にインコース攻め。１球目よりボール１個ぶん、甘めの140㎞でファウル。</p>
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<p>しっかり内側を意識させたうえで、外角に誘い球の119㎞チェンジアップを投じるも、なんとかこらえた柳田。だが、３球目と同じコースから沈む136㎞シンカーにまったくタイミングが合わず、パを代表するスラッガーはバランスを崩しながら空振り三振を喫した――。</p>
<h2>錯覚を利用して135㎞で打者を詰まらせる</h2>
<p>トレーニング技術の進化などにより、プロ野球は150㎞台のスピードボールが全盛だ。さらに上のレベル、大谷翔平（28）や佐々木朗希（ろうき）（21）の160㎞に注目が集まるなか、今季前半は「遅いボールの使い手」が快刀乱麻の活躍を見せている。</p>
<p>ともに月間ＭＶＰに輝き、１点台で防御率トップ争いを繰り広げている阪神の大竹と村上頌樹（しょうき）（24）。そして、交流戦最多となる通算28勝＆22年連続（先発）勝利という大記録を達成したヤクルトの石川雅規（まさのり）（43）の３人だ。</p>
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<p>いずれも真っ直（す）ぐの平均球速がセ・リーグ平均の146.2㎞を下回っており、球界の常識「もっとも打ちづらいのは剛速球」からすれば不利なはずだが――。</p>
<p>「剛速球を持たざる者でも打者をキリキリ舞いさせることは可能。そこにプロの技術が光る」と言うのは、ロッテや中日で活躍した牛島和彦氏だ。</p>
<p><span class="strongInContent">「真っ直ぐが遅いなら、そこから10㎞、20㎞と、さらに遅いボールを活用すればいい。大事なのは打者をいかに錯覚させるか。たとえば身体全体を使って、アウトコースにチェンジアップのような緩いボールを投げた後に懐を衝（つ）けば、135㎞の真っ直ぐでも詰まらせることができる。</span></p>
<p><span class="strongInContent">ただし、このピッチングをするためには、ボールの出どころが見づらいフォームと、どの球種も同じ腕の振りで投げられる技術が必要不可欠です。僕はさらに、投球動作に入ってから投げるまでの&#8221;間（ま）&#8221;も一球ごとに変えていました。往年の巧打者・若松勉さんに『お前と対戦すると２～３日、打撃のタイミングが狂う』と言われたのは嬉しかったですね」</span></p>
<p>「下柳剛さんとか、日本ハムと阪神で組んだ投手はみんな球が遅かった」と苦笑いする元捕手の野口寿浩（としひろ）氏は、大竹がまさに「変化球と真っ直ぐを同じ腕の振りで投げる」技術の持ち主だと指摘する。</p>
<p>打者が大竹のチェンジアップをあっさり凡打する場面が目立つのは、「真っ直ぐに見えているから」だ。</p>
<p><span class="strongInContent">「タイミングを外すのが上手い。これが大竹投手の一番の魅力です。くわえて彼はコントロールとボールのキレがいい。とくに右バッターのインコースにクロス気味にくるストレートが抜群にいい。このボールが気になるから、打者はアウトコースがメチャクチャ広く、遠く感じるはずです」（野口氏）</span></p>
<p>冒頭の柳田との対決は「いかにひとつのボールを意識させるか」という、&#8221;球の遅い投手の生命線&#8221;を忠実に守った攻め方だったという。野口氏が続ける。</p>
<p><span class="strongInContent">「打者心理として真っ直ぐを見逃し三振することと、どん詰まりの凡打は避けたい。真っ直ぐに振り遅れたくないから、インコースの速球への意識づけが効くわけです。たとえ140㎞であっても内側の速球をマークしながら、アウトコースの緩いボールに対応するのは至難の業。ましてや、同じ腕の振りで内外角に抜いた球を投げ分けられる大竹を攻略するのは相当に難しいでしょう」</span></p>
<div data-friday-nextpage-lead="「真っ直ぐをどう使うか」が大事"></div>
<p>プロ野球年間最多安打記録保持者の秋山翔吾（35・広島）の見立ても野口氏と近い。かつて柳田が技巧派を苦手にする理由をこう分析していたのだ。</p>
<p><span class="strongInContent">「フルスイングするからじゃないですかね。インコースの速い球に振り遅れないよう始動するとなると、ツーシームなどの真っ直ぐ系の変化球はハンドリングで何とかなっても、外の緩い球は対応が難しくなってくる」</span></p>
<p>スピードは関係ない。「真っ直ぐをどう使うか」が大事なのだ。</p>
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<p>史上最年長勝利記録（49歳）を持つ鉄腕・山本昌氏（元中日）は投球の５割近くが135㎞前後の真っ直ぐだった。</p>
<p><span class="strongInContent">「結局、野球ってどこまで行っても確率のスポーツなんですよ。最もストライクを取りやすい真っ直ぐを、最もヒットになりづらい低めに投げる。これがピッチングの基本です。現役時代、僕は高めの真っ直ぐを投げる練習は一切していません。低めにキレのある真っ直ぐを投げることにのみ、腐心していました」</span></p>
<p>大竹、村上、石川に共通するのは「抜群のコントロール」だと山本氏は言う。</p>
<p>そしてそれは数字も証明している。</p>
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<p>下はデータ分析会社ＤＥＬＴＡが作成した表を編集部で再構成したものだが、セ・リーグの低与四球率上位６名に３人全員が名を連ねているのだ。ちなみに、凡打の山を築いた大竹のチェンジアップはデータ上でも「セ・リーグで最も失点を防いだボール」となっている。</p>
<h3>●セ・リーグ　与四球割合（20イニング以上）</h3>
<figure id="attachment_318479" aria-describedby="caption-attachment-318479" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="214f0f45"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/06/47a602e95422ca52e054db7fa410d5d7.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-318479" class="wp-caption-text">大竹、村上、石川の３投手全員が与四球の少なさでセ・リーグ上位にランクイン。コントロールの良さ、ストライクゾーンで勝負する傾向がうかがえる（※データは６月13日時点のもの。以下同）</figcaption></figure>
<h3>●チェンジアップで防いだ失点（20イニング以上）</h3>
<figure id="attachment_318480" aria-describedby="caption-attachment-318480" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="90870966"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/06/e08e4ca399d47743861df10dcfb2ed7d.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-318480" class="wp-caption-text">「ストライクを取った」「打者をアウトにした」など、チェンジアップを投じたことでいかに失点に繋がりにくい状況を作ったかを評価した数値。「ボールになる」「四球」はマイナス。大竹が突出している</figcaption></figure>
<div data-friday-nextpage-lead="ピッチトンネルの攻防と「魔球ストレート」"></div>
<h2>ピッチトンネルの攻防と「魔球ストレート」</h2>
<p>阪神・村上のストレートが奪三振数１位に輝いているのは、「３人の中で、質のいい真っ直ぐを低めに投げることを一番徹底しているのが村上投手」（山本氏）だからだ。村上は今季初先発となった４月12日の巨人戦で、７回までパーフェクトという快投を演じている。</p>
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<p><span class="strongInContent">「ちょっと低いかなと、見送ったボールがグーンと伸びてストライクになる。そして、そのボールと同じコースから落とされると、打者は思わず振ってしまう。ただそれは、質の高い真っ直ぐを投げられてこそ。たとえ160㎞出ていてもキレのない棒球だったり、高かったりすればプロは見逃さない」（山本氏）</span></p>
<p>ヤクルト一筋で通算２１３３安打をマークした宮本慎也氏は、村上の「伸びる真っ直ぐ」の正体をこう見ている。</p>
<p><span class="strongInContent">「一般に、打者とボールの距離が７ｍを切ってから曲がり始めると球種の判断がつかないと言われています。昨今、はやりの”ピッチトンネル”ですね。３人ともピッチトンネルを抜けてから変化するボールを投げる。腕の振りも一緒だから余計に真っ直ぐと区別がつきづらいのですが、村上の場合、打者のすぐ近くで真っ直ぐがナチュラルにスライドする。</span></p>
<p><span class="strongInContent">いわゆる”真っスラ”を投げているんです。しかも、対戦した打者に聞くと、浮き上がるように見えるそうです。これは相当、打ちづらいですよ。あくまでナチュラルに変化しているだけで、ボール自体は真っ直ぐですし、バットに当たると真っスラは綺麗なストレートより球威を感じるんです」</span></p>
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<h3>タイガースの「村神様」無双ピッチングの秘密</h3>
<h3>阪神　村上頌樹（24）<br>
速球の平均球速145.3km</h3>
<figure id="attachment_318475" aria-describedby="caption-attachment-318475" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="68b8a8e4"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/06/1a2ad64b80288856bea30ce0242f4452.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-318475" class="wp-caption-text">’20年、ドラフト５位で阪神入り。２年連続ファーム最優秀防御率＆最高勝率を経て、ブレイクをはたす。開幕から31イニング連続無失点はセ・リーグタイ記録</figcaption></figure>
<h3>●セ・リーグ　ストレートでの奪三振</h3>
<figure id="attachment_318482" aria-describedby="caption-attachment-318482" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="8032e4ea"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/06/744e4e16e20a63248cea76aab115b293.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-318482" class="wp-caption-text">ストレートによる奪三振数は通常、球速に比例するが、村上は平均以下のスピードでダントツの三振数を誇っている。ストライクゾーンで勝負できる、「特殊なストレート」を投げていることの証左だ</figcaption></figure>
<h3>●３ボールからのストライク率</h3>
<figure id="attachment_318484" aria-describedby="caption-attachment-318484" style="width: 3584px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="6cac694c"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/06/640a3a30d71abaf114ad48a6bf3b332b.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-318484" class="wp-caption-text">フォアボールの恐れがある３ボールカウントで、石川は確実にストライクを取る制球力を持っている。※数字は３ボール、３ボール１ストライク、３ボール２ストライクの３つのケースでのストライク率</figcaption></figure>
<div data-friday-nextpage-lead="「何を投げているのかわからない」極上の技術"></div>
<h2>「何を投げているのかわからない」極上の技術</h2>
<p>”遅球の使い手”として、大竹、村上より数段上にいるのが石川だ。</p>
<p>野口氏は「彼ぐらい遅いと、真っ直ぐが裏をかくボールになる」と言う。</p>
<p><span class="strongInContent">「石川と対戦する打者は、まず真っ直ぐは待ちません。シンカーやスライダーを狙うでしょう。頭にない真っ直ぐをどこでドン！　と投げるか」</span></p>
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<p>プロなら、真っ直ぐを狙えば確実に仕留められそうなものだが――ヤクルト時代、チームメートとして長くバックで守った宮本氏は首を振る。</p>
<p><span class="strongInContent">「石川は基本的に全力投球しないんです。キャッチボールをしている感じで、真っ直ぐは垂れる。ナチュラルに沈むわけです。時には120㎞台の真っ直ぐも投げている。遅い真っ直ぐに、さらに緩急をつけているんです。</span></p>
<p><span class="strongInContent">打者が変化球を待っているとわかれば、力を入れて135㎞弱の速球をインコースに投げ込む。22年連続勝利を挙げた５月10日の阪神戦を解説していたんですが、阪神打線は石川がたまに力を入れてピュッと投げる真っ直ぐに、まったく手が出ていなかった」</span></p>
<p>石川の幻惑投法の極意は、巨人でクリーンナップを張った高橋由伸氏（49）が現役時代に宮本氏に漏らした言葉、「何を投げているかわからない」にある。</p>
<p><span class="strongInContent">「真っ直ぐに見えて振ったら、実はスライダーやシンカーでゴロアウトになる。スピードはほぼ同じだから、打った本人もわからないわけです。で、よく見極めようと集中していると、ピッチトンネルからポーンと上に外れるカーブが来る。</span></p>
<p><span class="strongInContent">僕が現役のころ、遅い球の使い手と対戦したときは、極力高めに目つけして、高めならボール球でも打ちに行きました。低めに３つ来たら、もうしょうがない、くらいの感覚でした」（宮本氏）</span></p>
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<p>驚異のコントロールで、遅い真っ直ぐを決め球に昇華させる。それが石川の極上の投球術だ。それは３ボールからのストライク率81.８％が物語っている。フォアボールがよぎりバットが出づらくなる打者心理をも、石川は利用するのだ。</p>
<p>最後に、宮本氏が驚愕したという石川のエピソードを紹介しよう。</p>
<p><span class="strongInContent">「左ピッチャーが左バッターにシンカーを投げる場合、普通は真ん中からインコースに行くはずなのですが、石川は左バッターのアウトコースにもシンカーを投げられる。マウンドのプレートの立ち位置を変えることで、ベース板の上のどこにでもシンカーを投げられるようにしているのです。</span></p>
<p><span class="strongInContent">一球一球、プレートの立ち位置を変えて投げるようになったのは数年前から。他のピッチャーに聞いたら『なかなかできることではない』と言う。石川はチャレンジ精神が旺盛（おうせい）で”変化すること”に躊躇（ちゅうちょ）がない。あの小さい身体で、これだけ長く現役をやれている凄みを見た気がします」</span></p>
<p>どれだけ球が遅くても、技術を磨き、工夫を重ねることをやめなければ、勝ち続けられる。だから、プロ野球は面白い。</p>
<h3>身長167㎝！　小柄な左腕の偉大な記録</h3>
<h3>ヤクルト　石川雅規（43）<br>
速球の平均球速131.2km</h3>
<figure id="attachment_318478" aria-describedby="caption-attachment-318478" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="5aa1b79c"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/06/45849177a1b02e496935e7e222b237bb.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-318478" class="wp-caption-text">’01年、自由獲得枠でヤクルト入団。１年目から12勝を挙げて新人王に輝くと、そのまま５年連続二ケタ勝利を達成。長期離脱がなく、昨季終了時点で通算183勝</figcaption></figure>
<p>『FRIDAY』2023年7月7日号より</p>


時事通信社

DELTA

トレーニング技術の進化などにより、プロ野球は150㎞台のスピードボールが全盛だ。しかい、今季前半は遅いボールの使い手が快刀乱麻の活躍を見せている。スピードは関係ない！"真っ直ぐをどう使うか"だそうだ。

なぜ「遅い球」で…ヤクルト・石川、阪神・村上＆大竹「140km台で強打者を打ちとれる」意外なワケ

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