「ボヘミアン」アカデミー賞を獲れない?クイーン阻む「女王陛下」
アカデミー賞ノミネート「ボヘミアン・ラプソディ」! 熱狂的ヒット映画の前に超強力ライバル「女王陛下のお気に入り」が立ち塞がる!
アカデミー賞の季節がやってきた。その結果によって、受賞者たちは業界内外に名を馳せ、映画会社にとっても作品の売り上げが如実に変わってくるので、賞獲得は真剣な戦いになる。
最も注目が集まる「作品賞」候補の目玉となっているのが、イギリスのロックバンド「クイーン」のボーカル、フレディ・マーキュリーを描く伝記映画『ボヘミアン・ラプソディ』だ。日本で予想外の大ヒットを成し遂げ、興行収入は120億円を突破するといわれている。これは世界の興行でもアメリカに次ぐ成績だ。また、ゴールデン・グローブ賞では最優秀作品賞(ドラマ)、最優秀主演男優賞(同:ラミ・マレック)を獲った。
そんな『ボヘミアン・ラプソディ』が、さらにアカデミー作品賞の候補になったことは、ファンにとってはさらなる朗報といえるだろう。だが果たして、実際にアカデミー作品賞を獲得できるのだろうか。

今年の第91回は、複数の有望な作品が並び大混戦が予想されている。その中で有利な位置にいるのが、『ボヘミアン・ラプソディ』の最大のライバルになるとなるだろう、もう一つの“クイーン”、『女王陛下のお気に入り』(2月15日公開)だ。各賞の候補になっている数も、『ボヘミアン・ラプソディ』5部門ノミネートに対し9部門10ノミネートと上回り、先だって発表された英国アカデミー賞においても、ラミ・マレックが主演男優賞を獲得したのに対し、『女王陛下のお気に入り』は、主演女優賞を含む最多7部門を受賞する破竹の勢いなのだ。
『女王陛下のお気に入り』の人気の理由は、出演者のオリヴィア・コールマン、エマ・ストーン、レイチェル・ワイズらスター女優が3人ともオスカー候補に挙がったように、華やかに火花散る3者の演技合戦にある。
その内容は、18世紀初頭のイギリス王室で、召使いのふたりが自分の望みを実現させるため、女王の寵愛を得ようと、あらゆる手を使って互いを追い落とそうとする熾烈な陰謀劇だ。一見、シリアスな演出がとられているが、イギリス王室の歴史をからかった皮肉なコメディとして楽しむことができる。
大権を握り、当時の国家に責任を持つ女王が、召使いにコントロールされている姿は、現代の政治における想像力に欠けた視野の狭い指導者たちの顔が浮かんでくる。鬼才ヨルゴス・ランティモス監督による、この痛烈な社会風刺も評価されているポイントだろう。

ライバルとなった、ふたつの“クイーン”作品。じつはどちらも20世紀FOX(『女王陛下のお気に入り』は子会社フォックス・サーチライト・ピクチャーズ)の配給作品となっている。昨年も『シェイプ・オブ・ウォーター』と『スリー・ビルボード』、ふたつのFOX作品同士が栄冠を競ったが、賞獲得に向け、多額の費用を要するキャンペーンやロビー活動が展開されるアカデミー賞において、会社はより獲得の可能性の高い方に注力することが考えられる。その意味で、『ボヘミアン・ラプソディ』は分が悪くなるかもしれない。
また、『女王陛下のお気に入り』と同数のノミネート数を誇る、巨匠アルフォンソ・キュアロン監督の『ROMA/ローマ』は、新興の映像配信・製作会社、Netflix(ネットフリックス)が大規模なキャンペーンを展開していて、これも強力なライバルとなる作品だ。
不安材料は他にもある。近頃、『ボヘミアン・ラプソディ』のブライアン・シンガー監督が、製作途中に解雇されていたが、その原因が性的暴行疑惑であることが報じられた。同じく作品賞候補作品『グリーンブック』の脚本家が過去の人種差別的発言を指摘されたことと同様、このようなプライベートな問題も、賞獲得への障害となりそうだ。
アカデミー賞の投票は授賞式の2週間ほど前に始まり、1週間ほど前に締め切られる。受賞式は2月24日(日本時間25日午前)に開催される。
しかし、たとえ『ボヘミアン・ラプソディ』が作品賞のレースに敗れたとしても、ファンの作品への愛情が変化することはないだろう。逆に受賞することがあれば、その人気は再燃し、第2の爆発が起こることは疑いようもない。


文:小野寺系
(おのでら・けい) 映画評論家。多角的な視点から映画作品の本質を読み取り、解りやすく伝えることを目指して、WEB、雑誌などで批評、評論を執筆中。