プリゴジンの反乱で露呈したロシアの窮状…プーチン大統領が破れかぶれで繰り出す「破滅への大悪手」
盟友・プリゴジン氏の“反乱”で求心力の低下が国内外に露呈 泥沼は前線だけではなくなった。追い込まれた大統領に見えるものとは――
これは、「ウクライナ戦争」終結の前兆なのか、それとも――。
6月24日、ウクライナ戦線の最前線にいたはずの民間軍事会社「ワグネル」の部隊が突如、創設者プリゴジン氏の号令によりロシア南部ロストフナドヌーへと侵攻。南部軍管区司令部を制圧した後、そのまま首都・モスクワを目指したが、あと200㎞の地点で撤退。「体制の転覆を狙ったクーデターなのではないか」と世界中が騒然とした″プリゴジンの乱″は唐突に幕を閉じた。国際政治学者のグレンコ・アンドリー氏が解説する。
「ワグネルはロシア軍が掌握していた南部の軍事拠点を、いとも簡単に制圧。そこからモスクワへとつながる高速道路を約800㎞にわたり堂々と走っていった。軍事大国であれば、反乱が起きた時点ですぐに叩けるわけですが、今回のロシアはそれができませんでした。もし、ワグネルが本気で政権の転覆を狙っていたら、プーチン大統領体制が崩壊していた可能性も否定できません」
ウクライナが反転攻勢を仕掛ける中で起きた「反乱」。米国CIAなどの情報機関による謀略だった可能性もささやかれている。ロシア正規軍が、ワグネルに呼応していたからこそ急襲が可能になったという見立てもあるが、なぜプリゴジン氏はモスクワを目前にして反転し、兵を置いてベラルーシへ逃れたのか――。不可解な点が多い。
筑波大学名誉教授の中村逸郎氏は、この反乱をロシアの「終わりの始まり」だと重く受け止めている。
「プリゴジン氏は強権政治を強いてきたプーチン大統領の指導力低下を国内外に示したかったのでしょう。盟友と言われていた大統領とプリゴジン氏ですが、4月には関係が悪化していました。
それまでは直接電話で戦況の確認をしていたのですが、プーチン大統領がプリゴジン氏の電話を取らなくなった。ショイグ国防相やゲラシモフ総司令官の汚職に言及し、人事にまで口を出すようになったため、プーチン大統領は彼を疎(うと)ましく思うようになったからです」
核ミサイルという選択肢
なぜプリゴジン氏は矛先をロシア国内に向け、自分の存在をアピールし始めたのか。それは粛清の気配を感じ取っていたからだと考えられる。
実際、プーチン大統領は一度は不問に付すとしたプリゴジン氏に対し「裁きを受けなければならない」と怒りを隠さない。中村氏が続ける。
「亡命後、プリゴジン氏は『7月1日にワグネルを解体する』と宣言しましたが、2万5000人ものワグネル兵は未だ武装解除していない。強大な反乱勢力が存在することに変わりありません。6月27日時点では存命ですが、プリゴジン氏が処刑されれば、政権に不満を持つワグネル兵らが、大規模な反乱を起こすと予想されます」
プリゴジンの乱により恥をかかされ、疑心暗鬼となっているプーチン大統領は軍幹部や側近の「大粛清」に動くと考えられるが、これは「悪手」だろう。ジャーナリストの常岡浩介氏が語る。
「強国だと思われていたが、実は『張り子の虎』だったと露見し、民衆の手によって崩壊していくのが、ロシアの繰り返してきた歴史です。ソ連はアフガンからの軍の撤退が引き金となり崩壊しました。帝政ロシアも日露戦争をきっかけに体制が崩壊しています」
求心力の低下は国内外に露呈した。体制維持のために、世界が衝撃を受けるような選択肢を選びかねないのが恐ろしい点だ。
「プーチン大統領は破れかぶれになって、キーウに向けてセットされた核の発射ボタンを押す可能性もあります。彼にとって今回の戦争は同じスラブ民族間の内戦。他国に干渉されることではないのです」(前出・中村氏)
プーチン大統領が、ウクライナを道連れに自滅しかねない事態であることは間違いない。


『FRIDAY』2023年7月14・21日号より
PHOTO:アフロ 共同通信