<h3>実際の「性被害」者の数は、被害届の７倍か… </h3>
５月、元ジャニーズ事務所所属タレントが、故ジャニー喜多川氏から性加害を受けていたとして国会でも証言した。ジャニーズ事務所の性加害問題が世間を騒がせているが、
「似たようなことは、さまざまなところで起きているだろうなと思っています」
こう言うのは犯罪学者の小宮信夫氏。法務省がアトランダムにアンケートを送って調べた「犯罪被害実態（暗数）調査」の「性的な被害」に関わる結果によると、性被害に遭ったと答えた人は約70万人にものぼる。そのうち、警察に被害届を出したのは14％であり、70 万人の性被害者のうち、被害届を提出したのはわずか 10 万人だったわけだ。
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「実際に被害届を出した７倍もの人が、性被害に遭っている。被害届が出されない理由の一つが組織による隠蔽と思われます。しかも、この調査は16歳以上が対象。元ジャニーズ事務所の所属タレントの訴えによると、被害に遭ったのは小学生のころ。小学生まで調査対象にすれば、この数字の20～30倍になると思われます」 
<figure id="attachment_318968" aria-describedby="caption-attachment-318968" style="width: 5311px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="2d8e4f1e"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/06/17f3fa187462a6e0d04171d6e9b5be73.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-318968" class="wp-caption-text">「似たようなことは、さまざまなところで起きているだろうなと思っています」と犯罪学者の小宮信夫氏は言う（PHOTO：アフロ）</figcaption></figure>
たとえば、会社内で社長からセクハラを受けとしても被害届を出さなければ、犯罪件数としてカウントされない。
「上司に訴えても問題を表面化させず、組織の中でうやむやにしてしまう。日本の隠蔽体質が被害届の数を低くしていると考えられます。いじめや体罰、入所者虐待や食品偽装も同じです」 
日本は安全な国だと言われるが、
「確かに数字的には、犯罪の認知件数は少ない。けれど、自殺率は非常に高い。 
セクハラを受けた人が、被害届を出さずに自殺してしまうこともある。犯罪の認知件数と、自殺の件数を合わせて考えるほうが、その国の安全性を評価するのに正しい数字かもしれません。そう考えたら、決して安全な国とはいえないのです」 
<h3>やっと声を上げられる時代に…</h3>
今、さかんに“コンプライアンス”が叫ばれているが、それでも組織内で隠蔽されることはなくならないのだろうか。
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「コンプライアンスが言われ始めてから、徐々に変わり始めてきました。これまで泣き寝入りしてきた人が、少しずつ声を上げ始めただけです」
そういえば、日本大学のアメリカンフットボール部で、コーチが危険なタックルを部員に強要したという事件や、レスリング選手の伊調馨選手がパワハラを受けていたと告発状を出したり、元自衛隊員の女性がセクハラで訴えを起こすなど、いろいろな事件が表面化してきた。
「今回のジャニーズの問題も、そうした世の中の流れの中で出てきたことだろうと思います」 
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<h3>組織内で犯罪を隠蔽できなくなったら、犯罪者は外に向かう？</h3>
これからは組織内で隠蔽することもむずかしくなってくるだろう。これで被害に遭う人が少なくなると思いきや、
「セクハラもアカハラも、権力を持っている人が、下の人に対して不適切な行為をすることによって起こっています。組織内でこうした権力をふるうことができなくなったら、どうなるか。外に向かうんです」
たとえば、会社で高い地位にいた人が退職し、威張るところをなくすと、店などで店員に向かって居丈高な態度で接するカスタマーハラスメント。これも組織内でふるうことができなくなった権力を、外に向かってふるうことで起こると考えられるのだとか。
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社内で性犯罪を起こしていた人は、外で行うようになる？　痴漢とか、盗撮とか、もしかしたらレイプまでも？　それではいくらコンプライアンスを叫んだところで何もならないではないか。
「残念ながら、犯罪性向はそんなに簡単にはなくなりません。だからこそ、犯罪機会をなくす街づくりや、声をあげやすい環境を作ることが必要なんです」 
ジャニーズ事務所では、&#8217;00年にも元所属タレントが性被害を受けていたことが問題になり、このときは東京高裁で性被害があった事実が認められ、ジャニーズ事務所とジャニー喜多川氏に対して賠償金の支払いが命じられた。それでも同じようなことが続いていたのは、相互監視のシステムがなかったからだと小宮氏は言う。 
「性犯罪を犯す人は、一種の病気なのです。海外では性犯罪者がGPS機器を装着することが義務づけられることもあり、日本でも検討されています。
人権侵害の声もありますが、装着された人にとっては、罪を犯す前に止めてもらえるので、肯定的に受け止められているようです。組織内では、トレーサビリティ（履歴管理）やデジタル・フォレンジック（電磁的証拠収集）を徹底することが求められます」 
<figure id="attachment_318969" aria-describedby="caption-attachment-318969" style="width: 4989px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="d7a24020"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/06/371a4393167ebd66869460173a9a5bc2.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-318969" class="wp-caption-text">今回、ジャニーズの問題では、検事総長経験者、精神科医などで構成された「外部専門家による再発防止特別チーム」が作られた</figcaption></figure>
そして、だれもが利用しやすい相談窓口を作ること。
「被害に遭った人が簡単に告発できるルートを作ることです。メールやチャットで相談できるようにしてもいいでしょう。 
その際大切なのは、被害者からの情報を決して漏れないようにすること。海外のように被害者保護プログラムがあれば、被害者は安心して相談できると思います」
今回、ジャニーズの問題では、検事総長経験者、精神科医などで構成された「外部専門家による再発防止特別チーム」が作られたが、こうした第三者委員会を設置することも重要だと言う。
「犯罪を犯したら、隠蔽されず、必ず罰せられる。そういう仕組みを作ることで犯罪抑止になると思います」
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小宮信夫　立正大学教授。社会学博士。日本人として初めてケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省などを経て現職。警察庁の安全・安心まちづくり調査研究会座長、東京都の非行防止・被害防止教育委員会座長などを歴任。代表的著作は、『写真でわかる世界の防犯 ――遺跡・デザイン・まちづくり』（小学館）。テレビへの出演、新聞の取材、全国各地での講演も多数。
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中川いづみ

アフロ

「似たようなことは、さまざまなところで起きているだろうなと思っています」こう言うのは犯罪学者の小宮信夫氏。“コンプライアンス”が叫ばれているが、それでも組織内で隠蔽されることはなくならないのだろうか。

「犯罪を犯したら、隠蔽されず、必ず罰せられる環境づくりを」…ジャニーズ問題、犯罪学者の見解

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